9話…怪しい恰好。
家へと辿り着けば、事件のことで心配したお母さんと玲緒が、温かく出迎えてくれた。
玲緒「まさか姉ちゃんが狙われるなんて…犯人の男、気でも狂ってたんじゃないの?」
夢叶「まあ、あんな事件を連続で起こしてたんだから、実際狂ってはいたでしょうね。」
そう言いながら、私は玲緒の頬っぺを抓る。
玲緒「痛い痛い!」
結子「でも、心配だわ…。犯人が捕まったとはいえ、また別の人に狙われるかもしれないし…」
お母さんはそう、心配してくれる。
夢叶「大丈夫だよ。次そんなことが起ころうとしたら、私の空手で、倒してやるだけだから。」
玲緒「姉ちゃんなら本当にそうしかねないからな…。」
結子「うーん…でも、今回だって夢叶が手を出す前にやられちゃったんだから…。
朝のバイトも、辞めた方がいいんじゃない?夕方のバイトで、まだ日がある内に狙われたってことは、まだ日が昇っていない朝のバイトなんて、もっと危険度が増すだろうし…。」
夢叶「大丈夫だって!今回は気を抜いていたからそうなっただけで……」
希「それなら、僕が全て送迎しますよ!」
夢叶「え?」
希「朝のバイトは、一緒に自転車でついて行けば問題ないでしょうし、大学と夕方のバイトへは僕の車で。どうでしょう?それなら、お母様の心配も、少しは減るのでは?」
なんて、爽やかな笑顔で提案する佐藤 希。
やめてくれ。ただでさえあんたの所為で睡眠時間が減っているのに、四六時中一緒にいるかのように、付き纏われては困る。
しかも、夕方のバイトへ送迎なんて……バレてしまうではないか。あんな仕事をしていると。
本来の私とはキャラが違いすぎる仕事だ。バレると色々恥ずかしい。
だから夕方のバイトは、お母さんとあいつしか知らないというのに……親友の沙月にすら、言っていないのだから。
結子「まあ、それなら安心は出来るけれど…希さんに負担がかかってしまいます。」
希「大丈夫ですよ!僕も、体力の方には自信がありますし、朝方なら変装しなくても、人通りがそもそも少ないのですから、バレる心配もないでしょう。」
夢叶「で、でも待って!流石に大学へそのまま来られたんじゃ…まずいわ…」
希「勿論心得てます。なので、大学へ送迎する時は、ちゃんと変装して行きますよ!」
夢叶「でも……」
それでも私は、その提案を断ろうとした。が……
結子「それなら、お願いしようかしら。」
夢叶「お母さん!?」
お母さんが、承諾してしまった。
結子「夢叶。私達は本当に心配なの。」
玲緒「そうだよ。俺が社会人なら、俺が何とか送迎とかしてあげられるけどさー、俺って姉ちゃんより年下だから、そんなの絶対無理だし。
なら、姉ちゃんより年上で、今自由に動ける希さんに頼んだ方がいいって。」
夢叶「お母さん…玲緒…」
嗚呼、私は本当…家族に愛されてるな…。お父さんには愛されていなかったが、お母さんと弟の玲緒には…本当、愛されている。
それが、何と幸せなことだろう。
結子「では、希さん。よろしくお願いしますね。」
希「はい、任せてください!」
愛する家族に心配をかけたのだ。これ以上駄々を捏ねたとこで、余計に心配させるだけ。
そう理解した私は、佐藤 希に付き纏われ送迎されることを、渋々承諾したのだった。
__________________
希「いやぁ、早朝から自転車で街を駆けるのも、気持ちいいものですねぇ!」
などと、呑気な感想を述べている佐藤 希。
現在朝の4時前。新聞配達のバイトの時間だ。
私としてはこれが日課なので、もう気持ちいいも何もない。
夢叶「いつまでこれが続くかしらね。」
希「いつまでも続けたい気分ですよ!」
そうは言うが、絶対数日後にはギブアップしているに違いない。そう私は思った。
希「でも夢叶さん、よくこんな生活が続けられますね。大学だってあって、そのまま仮眠もせずに夕方のバイトへ行って…。
僕らみたいな、芸能人並みの睡眠時間しかないじゃないですか。」
夢叶「まあ確かに、初めの頃はきつかったわよ。でも、慣れてしまえばなんてことないわ。」
希「凄いですね、本当に。」
そんな会話をしながら、朝のバイトを終えた。
そして、大学までそのまま送ってもらったのだった。
夢叶「じゃあ、今日の講義は15時までだから。そこから16時には夕方のバイトだから…15時過ぎには迎えに来て。」
希「わかりました。お気をつけて。」
夢叶「ここまで来て気を付けることも何もないでしょ。」
そう言葉を吐き捨て、大学の門を潜った。
すると矢張り、背後から……
沙月「おっはよー、夢叶!」
私が1番乗りで、2番乗りの沙月が、私の背後から現れ抱き着きながら、朝の挨拶を交わす。
夢叶「おはよう、沙月。」
沙月「夢叶、車持つようになったの?」
夢叶「違うよ。」
沙月「え、じゃあお母さんが送ってくれたとか?こないだの事件があったから…」
夢叶「……まあ、そんなとこ。」
沙月「そっかー。でも、結構立派な車だったよね。どうしたの?」
夢叶「ゆ、友人に譲ってもらったらしくて!」
沙月「あー、成程!なら家計の心配もないね!」
夢叶「う、うん…」
などと、また私は沙月に嘘を吐いた。
沙月に嘘を吐く度、私の心は重くなる。だが、仕方のないこと…。まだ確証が持てない今、話すわけにはいかないのだから…。
____________________
あれから午後の講義も終わり、佐藤 希の迎えを頼んだ時間だ。
1人でなんとか門まで行こうとしたが……
あの事件は莉乃達の耳にまで届いていたらしく、沙月だけじゃなく莉乃達までもが心配してくれ、門まで送ってくれることとなった。
まあ、あいつには変装するよう言ってあるから…大丈夫だとは思うが…。
もしバレたら、大変だ。大学中が大騒ぎになるし、何よりあいつの大ファンだという莉乃達が、失神しかねない。
莉乃「でさー………ん?何あれ。」
夢叶「ん?」
梢「どうしました?」
と、何やら門の付近が騒がしい。
何かと思い、見てみると……全身黒ずくめの、どこぞの推理漫画に出てくる黒幕のような、そんな恰好をした背の高い人間がいた。
帽子の隙間からは、綺麗な金髪が見える。
夢叶「………」
まさか…そんな、ねぇ…?
瑞稀「何あれ、超怪しいんだけど。」
莉乃「だよね、通報する?」
梢「で、ですが…あそこにいるってことは、誰かの迎えかもしれませんし…」
沙月「だとしても、あんな格好でする?普通。」
瑞稀「やっぱ通報するか…」
と、莉乃達がケータイを取り出したとこで、私は自分のリュックをそいつ目掛けて投げつけた。
希「ぐはっ!」
梢「え、え!?」
莉乃「夢叶!いくら不審者が相手だからって、相手も何するかわかんないんだから、それはないでしょ!」
夢叶「あれは不審者じゃなくて、私の迎えよ…」
「「「「えぇ!?」」」」
沙月「あんな恰好している人が?」
夢叶「ええ。何を思ってあんな恰好にしたかは知らないけど。」
梢「て、てっきりまた…夢叶ちゃんを狙う不審者かと思いましたよ…」
希「夢叶さん!」
佐藤 希は、頭を抑えながら起き上がり、私の方向へと向いた。
顔は帽子を深く被っている為、周りからはわからないが、リュックを投げつけられたというのに、まるで犬のように喜びながら、私に駆け寄る。
希「お待ちしてました。」
瑞稀「でっか…」
梢「確かに…身長かなりありますね…」
莉乃「で、夢叶…この人誰なの…?」
夢叶ああ…えっと…」
そうだ。佐藤 希の正体をバラすわけにはいかないから、ここで私はまた嘘を吐かなければならない。
だが、何と言おう…。
夢叶「し、親戚の人よ。」
沙月「親戚?夢叶の親戚にこんな人いたっけ…」
夢叶「遠い親戚で、田舎に居たんだけど、転職をきっかけにこっちに出てきたの。それで生活が安定するまでは、うちにいることになって。
そしたらついこないだ、あんな事件があったから、送迎してくれることになったのよ。」
莉乃「成程ね~。」
瑞稀「お兄さん、田舎じゃその恰好で何も言われなかったかもしれないけど、この辺では怪しいと思われてしまうから、もう少し服装考えた方がいいよ?」
希「そうですか?ならもう少し、見繕ってみますね。
アドバイスありがとうございます!」
夢叶「じゃ、じゃあそういうことだから!私バイト行かなきゃいけないし!
また明日ね!」
沙月「うん、また明日!」
そう挨拶を済ませ、佐藤 希の車に乗り込んだ。
車に乗り込むと同時、そりゃ勿論のこと私はその服装について突っ込む。
夢叶「なんでそんな目立つ恰好してんのよ…」
希「これ、そんなに目立ちますかね?」
夢叶「当たり前でしょ!何を参考にしたのよ…」
希「友達に相談したら、この恰好がいいと言われまして。」
だとしたらその友達は、相当な捻くれ者なのだろう。絶対揶揄っているに決まってる。
夢叶「はぁ…兎に角、明日も送迎するつもりなら、もっと服装を考えて。」
希「わかりました!」
全然悪びれもしない佐藤 希に、本当に調子が狂わされてしまう。
車で15分。いつもの駐輪場近くまで来た。
夢叶「ここでいいわ。」
希「え?でも…もっと近くまで行かないと、送った意味が…」
夢叶「いいから。」
有無を言わさない態度を取り、何とかバイト先バレは防ごうとする。
希「……わかり、ました。
では、お気をつけて。」
夢叶「バイトが終わるのは23時だけど、賄いも食べて帰るから、23時半くらいに迎えに来て。」
希「了解しました。」
夢叶「それじゃあね。」
___________________
車から降りた夢叶さんは、スタスタと足早に去っていった。
ここでいいとは言われたが…バイト先までたぶん、少し距離がある。
ちゃんと送らなければ、また暴漢に襲われる可能性だってある。そうなると、僕が送迎している意味がない。
こっそり跡をつけて、バイト先まで見送りに行こう。
……そう、思ったが……
希「……この恰好だと、僕の方が不審者だな。」
彼に言われた通りの恰好をした。でも、僕だってモデルをしているんだ。この恰好が普通じゃないことくらいわかる。
故に、こんな恰好で跡なんかつけたら、僕の方こそ不審者で、通報されかねない。
寧ろ、大学内で通報されなかった方が、運が良かった。
それに、夢叶さんの夕方からのバイト…それは、お母様に聞いても、教えて貰えなかった。
お母様が知らないということは、まずない筈だ。ということは、僕や周りには、どうしても知られたくないようなものなのだろう。
…如何わしいお店でなければいいが。
まあ、夢叶さんに限って、そんなところでは働かないだろう。
そう信じて、僕はその場から離れ、一度夢叶さんの家に戻った。




