ツーリング
前作のプラウドリーから少し後の時代です。2ストローク全盛の時代から、排ガス規制が厳しくなり、燃費効率や環境に配慮した4ストロークエンジンへと変遷していきました。そんな時代をイメージして書きました。
「山を走るのも楽しいけど、伸次はツーリングとか行かないの? わたし、海とか川とか滝とか水辺を走るのが大好きなの。一緒に行ってほしいな?
女の一人ツーリングって 男性ライダーに絡まれたりするらしいから、ちょっと不安なの。ナンシー叔父さんやイクラちゃんも出てきそうだし。」
「跨がられたら最悪だな。まぁそれはそれとして、たまには、いいか」
「じゃぁ~行こうよ。リサーチしてみるね」
有美は、今にも出発しそうな雰囲気だ。
彼女の選んだ場所は、リアス式海岸で複雑に入江が繋がっており、ワインディングにも、のんびりと海の景観を見ながらと流すのにも適していた。
三方を山に囲まれた静かな入江には、たくさんの漁船が港に繋がれている。桟橋の先端に、小さな赤い灯台がポツンと佇んでいる。漁業組合が、ちょっとした御食事処を開いており、食事にも事欠かない。
「良いところだな。いつも目を三角にして山にばかり登っているけど、こういう鄙びた漁村も、なんだか懐かしい」
海の上には、数え切れない程、養殖牡蠣の筏が浮かんでいる。港町独特の細い通路が網の目のように張り巡らされており、いかにも老舗です、という高級旅館から庶民的な民宿まで枚挙に暇がない。
そこここで新鮮な生牡蠣が、網焼きでバターを載せたり、レモンを垂らしたりしながら、香ばしく焼かれている。
「また来ようね、二人だけで」
「そうだな。ガイドブックに載っていないスポットを探しながら走るにも楽しそうだ」
「歳をとったら、こんな所に住むのもいいかも知れないわね。」
じゃぁ~ 俺と結婚するか。
え”~
冗談だよ。でもなぁ、それまで付き合ってたら・・・
それも有りかも知れないわね。先のことはわからないもん。将来を想像するだけでも楽しそう。
有美は、いつでも前向きで明るい。
「小さくても一軒屋を建てて、2台納まるバイクガレージを作って、子供は・・・」
「おいおい、ちょっと早過ぎるだろ。まだエッチもしてないんだぜ」
「プロポーズもしてもらわなくっちゃ」
まるで、ままごとのようなとり取り留めのない会話が続く。
いつまでも、いつまでも。
最後まで読んでくれて、ありがとうございました。