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精霊たちの大運動会 ラインハルトとエカテリーナの契約精霊

▫︎◇▫︎


 若い精霊7匹がやってきたことによって唐突に始まった運動会を穏やかに眺める精霊が3匹いた。

 1匹目はアイーシャの祖父ラインハルトの契約精霊であり水の中位精霊ウォーティー、2匹目はアイーシャの祖母エカテリーナの契約精霊であり炎の中位精霊ブレイズ、3匹目は同じくエカテリーナの契約精霊であり風の低位精霊ウィンディーだ。


「《………若いというのは良いものですね。元気が有り余っているのを五感全てで感じることができます》」


 花紅茶とクッキーを片手にのびのびと呟いた真摯な精霊ウォーティーは、ふっとため息をこぼした。アイーシャの精霊は、主人の前ではとても仲が良いし、協力が得意で和気藹々としているが、実質のところは性格がぶつかってしまうことが多い。ちょっとしたことで溜まっていった不満を発散する場所が必要なことは重々承知しているが、さすがに元気が有り余りすぎているとウォーティーは感じていた。


「《じじくさいよ、ウォーティー》」

「《はっはっは、私たちは十分ジジイですよ》」


 真っ赤な精霊ブレイズの言葉に、ウォーティーは朗らかに笑った。それを受け、ごうっと2匹の精霊の周りに炎が上がる。エカテリーナの前ではお淑やかなブレイズは、いつまでもやんちゃ気取りであり、年嵩と言われるのを嫌う。


「《あわわっ、》」


 ブレイズに常に守られているウィンディーは、怯えたようでいて困ったような悲鳴をあげる。ブレイズの炎は誰も害さない。けれど、怖がらせるだけの勢いは存在していた。


「《まあ、ウィンディーはまだまだ幼いようですが》」


 悲鳴を上げたウィンディーを横目に、ウォーティーが孫を見つめるような優しげな表情をした。けれど、ブレイズにはそれすらも気に入らないらしい。


「《はあ?この可愛らしいウィンディーを前にして、幼いってどういうこと?燃やすよ?》」

「《ブレイズは相変わらず荒っぽいですね》」


 投げつけられる炎の矢を全く気にせず、ウォーティーは穏やかな口調で話し続ける。主人が仲の良い夫婦ということもあって、普段は猫をかぶって仲良くしている2匹も、実質のところはそこそこ仲が悪かった。こういう場所は精霊たちの、日常生活によって溜まりに溜まった鬱憤を晴らすための場所だ。よって、2匹とも容赦なくバチバチと火花を散らす。


「《はっ、普段はエカテリーナに合わせてお淑やかにしているが、僕の本性は燃え盛る炎のように暑いんだよ?》」

「《正直に言って似合いませんね》」


 ウィンディーがこくこくと頷いた。


「《ウィンディー?》」

「《ひゃうっ、ご、ごめんなさい!ブレイズ》」

「《あぁ!違う違う!!怒ってるんじゃないって!!だからそんなふうに怖がらないで!!》」


 ぎゅっと丸まったウィンディーを見てあたふたと慌てるブレイズは、それからずっとウォーティーのことを無視して、怖がりなウィンディーの精神的サポートに精を出すのだった。


「《私はどこまでいっても、置いてけぼりなのですね》」


 少しだけ寂しげな水の精霊ウォーティーの声は、誰にも届くことなく静かに空気の中に消えていった。


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