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43 無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?

 そして、歌うように話し始めた。


「わたしの刺繍が必要って言ったわよね?」

「あ、あぁ、」

「でもね、わたしの刺繍を燃やしたのは貴方達なのよ?わたしに貴方を助ける義理ってある?」

「なっ!!お前もディアン王国の貴族の娘だろう!?国や民の危機に手を貸さないとは何事だ!!」


 クロードの叫びに、アイーシャは冷たい表情を向けた。


「その国がわたしを馬鹿にしたのよ?そして、その民がわたしを必要ないと言ったのよ?なのに、わたしのお陰で国が安泰だったと分かった途端に掌返し?笑止千万ね。1回死んでから出直してくれば?」


 アイーシャはにっこりと笑った。サイラスやアイーシャの家族、国王はそんなアイーシャの様子に満足そうに頷いた。アイーシャは最初は国を救おうと思っていた。だが、精霊やラインハルトの“影”が教えてくれた事柄を聞いて助ける気が失せたのだ。アイーシャは、自分の子供のような作品を公衆の前でお祭り騒ぎに燃やされ、自分を無能だと叫ばれたと聞いて尚、その国とその国の民を助けるほどお人好しでも聖人でもないのだ。


「貴様~!!」

「無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?」


 アイーシャの言葉にガックリと項垂れたクロードは、衛兵に連れ出されて行った。ライミーは最後まで暴れていたが、やがて諦めたのか震えながら罵詈雑言を叫んで泣き叫び出した。


「っあんた、なんかっ!あんたなんか大っ嫌いよっ!!いっつもいっつも私の欲しいものを掻っ攫っていくあんたなんかっ、大っ嫌いよっ!!」


 ライミーの叫びは、アイーシャの耳の中に響き渡った。

 ガチャン!!という音を立てて閉まった扉の前で、アイーシャは俯いていた。


「………わたしはあの子の望むものなんて何1つ持っていないはずよ。持っているわけがないわ。だってあの子は、わたしが欲しいものを全部持っていたもの。魔力も、両親も、人からの評価も、あの子はわたしが持っていないものを何もかも持っていたもの」


 サイラスはそんなアイーシャを後ろから静かに抱きしめた。アイーシャは彼の腕に掴まって嗚咽を漏らし始めた。


「うぅっ、どうして!どうして上手くいかないのっ!?なんで分かり合えなかったのっ!?どこで間違ったのっ!?わたしは、っなにを、した、の………?」


 床に座り込んでポロポロと涙を流すアイーシャは、ずっと自問自答したが、答えはずっと分からなかった。


「人はないものねだりだ。人のものが綺麗でキラキラして羨ましく見える。だから、君にとって君の持っていなかったことが羨ましかったように、彼女にとって彼女に持っていないものを持っていた君が羨ましかったんじゃないかな?」


 パッと顔を上げたアイーシャは、うるうると目を潤ませた。


「………っそう、かも、しれないわっ、だってわたしはっ、周りのみんなが、羨ましいものっ、自分にないものがっ、羨ましいものっ!!」

「そうだね。人間そんなものだ。だから、補い合えばいい。ないところは、ある人に補って貰えばいい。君が辛い時には私がそばにいよう。私が支えよう。だから、君は大丈夫だよ。君はあぁならない。なったとしても、私が正気付けて見せよう。だから、安心しろ」


 アイーシャは彼の腕の中で静かに泣き続けた。

読んでいただきありがとうございます♪

次話、エピローグです!!

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