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34 アイーシャへのプロポーズ

▫︎◇▫︎


 時は少し遡り、アイーシャとサイラスはエカテリーナの計らいにより、大臣の招集が完了するまでの間2人で庭園を回ることになっていた。


「サイラス王太子殿下、昨日は王太子殿下であらせられるとは存じず、大変なご無礼を働いてしまい誠に申し訳ございませんでした」

「いえ、お気になさらず。………できれば昨日のようにサイラス様と呼んでいただけると嬉しいのだが」

「ですが、」


 お互いに頬を赤く染めて距離を測りかねている様子に、衛兵達はじれったくなった。お互いがお互いに片思いをしているようで見ていられない危なっかしさがあるのだ。


「あなたには、呼んでほしいのだ」

「………分かりましたわ、サイラスさま」


 アイーシャの無垢な微笑みに、サイラスは言葉に詰まった。神童とまで呼ばれる彼のハイスペックな頭脳は恋愛には非対応らしい。サイラスは頭がうまく回転してくれないことにとても焦った。


「か、代わりと言っては何だが、君のことをアイーシャ嬢、と呼んでも構わないだろうか?ふ、不快だったら言ってくれ。不敬とかは気にせず」

「!! か、構いませんわ。嬢も付けず、是非とも呼び捨てにしてくださいな」

「い、いいのか!?アイーシャ!!」

「え、えぇ」


 アイーシャとサイラスはお互いにお互いの顔を見ずに話した。耳まで真っ赤にしている2人は初々しすぎて異性と初めて関わった5歳児のようだった。


「王太子殿下、めっちゃくちゃデレッデレッですね」

「あぁ、話によれば昨日郵便局の方を視察に行った際に出会っていたらしいぞ」

「お!一目惚れですか?」

「多分な」


 衛兵達は2人からだいぶ離れて歩きながら、コソコソヒソヒソと話し合った。


「イスペリト公爵令嬢もアレは多分脈アリですよね?」

「アレだけ分かりやすいんだ。十中八九脈アリありだろうよ」

「おぉ!!じゃあ、俺らは記念すべき未来の国王陛下&王妃殿下の初護衛ですね!!」

「だな!!」


 元気な年若い衛兵達は、やる気をアップさせて彼らが主君を何があっても守るという気概で護衛に当たり始めた。まぁ、彼らが頑張らなくても剣豪とまで呼ばれるサイラスがいれば敵はけちょんけちょんなわけだが。

 そんな衛兵の会話を全く以て知らないアイーシャとサイラスは東屋に到着し、2人で落ち着いて話すために向かい合って座った。恥ずかしくてお互いにお互いの顔が見ることができていないという事態が発生している以外は、至って普通のお見合いだった。普通すぎてびっくりするくらいに普通だったのだ。


「アイーシャ、君は正直に言ってこの婚約についてどう思っている?」


 向かい合った形に座った2人はやっと覚悟を決めたのか、互いの目を見て話し始めた。


「………わたしは、………申し訳ない、です………」

「申し訳ない?」


 サイラスは首を傾げた。


「サイラスさまほどのお方であれば、傷物令嬢であるわたしなどではなく、もっと優れたお方がいるでしょう。………わたしには“精霊の愛し子”?というもの以外に価値がありませんから」

「そんなことはない!!」

「!?」


 アイーシャはサイラスのバンッ!!と机を叩きながらのいきなりの叫び声に、びくりと身体を揺らした。アイーシャは、叫ばれたことはあるにはあるが、ここまでの剣幕で叫ばれたことがなかったため、サイラスのことを恐る恐る上目遣いで見つめた。


「! ………すまない、アイーシャ」

「いえ………」


 ゆっくりと深呼吸をして感情を鎮めたサイラスに、アイーシャは問いかけた。


「サイラスさまは、わたしでいいのですか?今ならまだ間に合います」

(わたしは卑怯ね。優しい彼なら、ここまでお膳立てされた婚約を破棄できるわけないのに、自ら断ろうとしないなんて………)


 アイーシャはそっと息を吐き出した。卑怯だと分かっていても、アイーシャはなぜか自分から婚約をしないと言って彼を突き放すことができないのだ。


「私は君がいい。君だから婚約したいし、君だから結婚をしたいと思っている。だから逆に問おう。君は私なんかと婚約してくれるか?自分で言うのもなんだが、私はつまらない人間だ。人の感情の起伏を読むのは得意だが、自分の感情には疎い。そして、………感情の起伏が小さい。何より私は王族だ。君ではなく公務を優先させないとならないこともある。だが、私は君が好きだ。好きなんだ。………どうか私の我儘を聞いてほしい。私と婚約し、結婚してはくれないだろうか?」

読んでいただきありがとうございます♪

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