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28 アイーシャは項垂れる

「明日の謁見についてだけれど、」


 エカテリーナの言葉に、アイーシャはぼーっとしてしまっている間に、いつの間にかいくつもの話題が過ぎ去ってしまっていたことに気がついた。


「えっと、」

「さっきも言いましたでしょう?明日あなたをわたくしたちの新しい家族として国王陛下にお披露目すると」

「え、えぇ!?」


 アイーシャは素っ頓狂な悲鳴をあげた。イスペリト公爵家の新たな娘として戸籍を移されていたことでさえ想定の範囲外だったのにも関わらず、明日いきなり国王陛下に謁見など言われて悲鳴をあげずに済む人間などいるだろうか?いや、いないだろう。


「お、お婆さま、いくらなんでもそれは………、礼儀作法などももう少し学んでおきたいですし、せめて1週間後には………」

「なりませんわよ。心配なようですから言ってあげますが、あなたなら大丈夫ですわよ。現国王の叔母のわたくしが言うのもなんですが、現国王陛下は穏やかで寛大なお方ですから。それに、元王女であるわたくしが礼儀作法も問題ないというのです。何も問題などありませんわ」

「えっと、その………」


 アイーシャはエカテリーナにも言い返すことが出来なくなり、見事に撃沈した。先代とはいえ、筆頭公爵家の夫人であり、元王女である百戦錬磨のエカテリーナへの勝ち目なんてアイーシャには元から一切存在していなかったのだ。


「心配ならば、今夜1度見て差し上げますわ。ですが、何があろうとも明日の謁見は決定事項です」

「………はい………」


 アイーシャは深く項垂れたが、そんな様子を経験者であるシャロンはにこやかに見守っていた。これはまだ序の口よ、と呟きながら。


▫︎◇▫︎


 その日の夜、アイーシャはエカテリーナから厳しい特別レッスンを受けていた。


「そこで腰を曲げてはなりません!!もっと背筋を伸ばして!そう!その調子ですわ!!」

「ひぃっ!」


 アイーシャは悲鳴をあげながらも、エカテリーナにこの国特有の作法を筆頭とするありとあらゆる礼儀作法を教えてもらっていた。厳しいがアイーシャの能力に合わせて無理のないギリギリのラインを攻められているので、アイーシャは文句を言うことができない。これがもっとスパルタでストップをかけられるラインだったらどれだけよかっただろうかと溜め息をついてもどうにもならないとわかっているアイーシャは、祖母からの的確な指導を身体に叩き込んでいった。

 基礎の基礎は母親に習っていたことから、アイーシャがこの国の作法を学ぶ上で抵抗はあまりなかった。というか、新しい知識を得ることが大好きなアイーシャにとっては嬉しいことだ。嬉しいが、辛いものは嫌なのだ。というか、マジで腰がやばいのだ。明日は絶対に筋肉痛確定だと泣き言を心の中で叫んだアイーシャは、もう1度エカテリーナに習った作法をおさらいした。


「えぇ、そうですわ。見違えましたわね。合格です」


 合格は存外簡単にもらえた。まだレッスンが始まってから2時間しか経っていない。アイーシャは不安になってエカテリーナにもっと習うことはないかと問いかけたが、ないという言葉で一蹴されてしまった。不完全燃焼なアイーシャはぷくっと頬を膨らませてエカテリーナが去った後も、精霊に叱られてやめる1時間後まで必死に練習に励み、並みのご令嬢では太刀打ちできないレベルから並みの王族では太刀打ちできないレベルにレベルアップした。

読んでいただきありがとうございます♪

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