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27 アイーシャは着せ替え人形

「アイーシャちゃん、こっちに来なさい」

「どうかなさいましたか、お婆さま」


 アイーシャはこてんと首を傾げてエカテリーナの方にトコトコと歩いていった。そして、沢山のお針子達がメジャーやらまち針やらを持っているのを見て、遠い目をした。


「採寸と手直し、かしら?」

「あら、察しがいいわね。アイーシャちゃん、私、アイーシャちゃんに似合いそうなお洋服いっぱい見繕ったから試着してみてね!!」


 キラギラしい笑みを浮かべたシャロンの手元を見て、アイーシャは顔を引き攣らせた。シャロンとベラの手には20着以上の普段着が握られていたのだ。


「お、叔母さま、わたしそんなに新しいお洋服は要らないかなって………」

「うふふ、何を言っているの、アイーシャちゃん。お楽しみはまだまだこれからよ!!」

「ひぃっ!!」


 アイーシャは小さく悲鳴をあげて震え上がった。猛獣に睨まれたというか、ロックオンされた草食系小動物なアイーシャはなされるがままこれからかれこれ2時間ほど着ては脱がされ、脱がされては着せられを繰り返すことになり、心身ともにぐったりとしてしまうことになったが、祖母と叔母の楽しげな表情に文句は言えなくなってしまった。


「アイーシャお嬢様、今回お嬢様がデザインしたドレスはこちらからサービスさせていただきますわ!!その代わりと言ってはなんですが、また今度ドレスや普段着にまつわる討論をさせてくださいませ!!」

「えぇ、とっても楽しみにしているわ」


 帰り際に店主に言われた言葉に、アイーシャは笑って答えた。アイーシャと店主の好みはとても似通っているため、デザインについてぶつかることはない。だからこそ、アイデアを出し合うのがとてつもなく楽しいのだ。


「それにしても、とってもいい買い物が出来ましたわね、お義母様!!」

「そうですわね。ですが、なんでも似合ってしまうというのも困りものだと思いましたわ」


 うんうんと本人そっちのけで納得しているエカテリーナとシャロンに、同じ馬車に乗っているアイーシャは苦笑した。自分のことはよく分からないものだと聞いたことがあるが、ここまでそっちのけにされる程分かっていないとは思いもしなかった。

 両親が亡くなってから自分の好みの服以外を一切身につけなくなっていたアイーシャは、久しぶりに着た甘いテイストのふりふりのレースや大きなリボンの付いた普段着や、初めて挑戦する大人っぽいデザインの胸や腰のラインを強調するドレス、肩やデコルテを露出するドレスに最初から最後まで大いに振り回されると同時に、大きく戸惑った。そして、暗く陰湿に見える長いまっすぐな黒髪も、深い色彩の青い瞳も、選ぶ服や装飾品によって与える印象を大きく変えることを知った。

 アイーシャは今日の着せ替え劇が意外にも、純粋に嬉しかった。周りの人が似合うと言って心から褒めてくれることも、あぁでもないこうでもないと言いながら、より似合う服を探してくれることも、自分がどっちの方が似合っているかと討論してくれることも、何もかも嬉しかったのだ。

 そして、なぜか服を着替えて鏡の前に立つ度に、彼の顔が思い浮かぶのが不思議だった。この服を着ている自分を見て、彼はどう思うかと不安にもなった。それはアイーシャにとって初めての経験だった。不思議な気分だった。今日初めて出会って助けてもらっただけの相手のことが、どうしてこんなにも気になるのか、思い出すだけで胸がぎゅうっとなるのか、アイーシャには何もかも分からなかった。


読んでいただきありがとうございます♪

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