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25 サイラスの去り際

 無事馬車に到着したアイーシャは、安心したようで何故か残念な気持ちになっていた。御者はアイーシャが抱えられて戻ってきたことにぎょっとした後、慌てて馬車の扉を開いた。


「「アイーシャちゃん!?」」


 アイーシャは祖母と叔母の顔を見た途端に安心したのかほっと肩の力を抜いた。


「お婆さま!叔母さま!」


 サイラスに床に下ろされたアイーシャは満面の笑みを浮かべて2人に抱きついた。礼儀正しいアイーシャの突飛な行動に、2人は目を見開いた。


「先程男に囲まれて精神的に不安になっているだろうから、少し気を遣ってやってくれ。それでは失礼する」

「!!」


 エカテリーナとシャロンは目を見開いた。


「先程は本当にありがとうございました」


 サイラスの言葉に、アイーシャが微笑みを浮かべて答えるとサイラスはアイーシャの頭をぽんぽんと撫でた。


「!?」

「またな」


 悪戯っ子のような微笑みを浮かべて去っていったサイラスの方を、アイーシャは頬をぽうっと染めながらずっと見つめていた。


「やりますわね、サイラス殿()()

「そうね、お義母様。舞台のセッティング、必要なかったわね」

「いいえ、婚約させるのには必要ですわよ」

「楽しくなりそうね」

「えぇ、サイラス殿下には頑張っていただかないと」


 サイラスのことが頭から離れないアイーシャは、エカテリーナとシャロンがブロッサム商会に到着するまでの間中ずっと不穏な会話をしていることに全く以て気が付かなかったが、怯えるよりは知らない方が幸せだろうから、これはこれで正解だったかもしれない。


 アイーシャは自分を救って颯爽と去っていった氷のような麗しい青年を思い出し、ほぅっと憂いの溜め息をこぼした。


▫︎◇▫︎


 サイラスは頬に集まっている熱を逃そうと、少し遠回りをしてから()()()()こととした。生まれて初めての感覚に戸惑いながらも、これが俗にいう“恋”だという感情だということを理解するのに時間はそうかからなかった。


 サイラスは幼い頃からとても優秀な人間だった。剣を持たせば剣豪と謳われ、勉学をさせれば神童だと謳われる。だが、そんな彼にも唯一欠点があったのだ。それは感情の起伏が少ないこと。サイラスには基本大きく分けて2つの感情しか持っていなかった。普通か不快か、だ。多くの者はサイラスのそんな欠点に全くもって気が付かなかった。何故なら、彼が人の感情を読んで真似る能力に並はずれているからだ。いつも誰よりもより的確な反応をしていた。だが、それは全て演技であった。両親以外は知らない本当の彼の顔は、容姿に似て冷たく氷のように空虚であった。


「参ったな………」


 だが、アイーシャと関わった時、彼の中に快いという分類の複雑怪奇な感情が初めて生まれたのだ。どうしても手に入れたいと、離したくないと、ずっと一緒にいたいと、閉じ込めて自分だけのものにしたいと、危険な感情が生まれたのだ。だが、ちょっと関わっただけでも簡単に分かった理知的な彼女は、こんな自分を見たら確実に逃げてしまうだろう。だから、小さくちょっとずつ彼女が喜ぶであろう行為をしていくことに決めた。

 絶対に逃さないと、手に入れて見せると、今まで無欲だった不器用な()()()()()()()は、婚約者がいないのをいいことに、彼女を手に入れる算段をつけ始めた。


▫︎◇▫︎

読んでいただきありがとうございます♪

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