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2 アイーシャの頼る場所

▫︎◇▫︎


 アイーシャはこの婚約破棄がなされる3日前、亡くなった母親と仲の良かった夫人に従姉妹と当時婚約者であったクロードの関係を聞かされ、叔父と叔母のやろうとしていることに見当を付けていた。

 だが、両親が亡くなった際に屋敷の使用人は全て総入れ替えされてしまって、誰も味方のいないアイーシャは絶望した。自分は飼い殺される他ないと。遺品をほとんど全て自分の目の前で燃やされた挙句、部屋を移され、食事を抜かれ、自分の部屋以外の家具は魔力がないと動かないものに変えられてしまったアイーシャには、何もできないのだ。普通に生活を送ることさえ、叶わないのだ。


『エミーの実家は頼れないの?』


 だから、夫人の言葉はアイーシャにとって青天の霹靂だった。家が頼れないのならば、祖父母を頼れとは初めて言われた。たしかに、アイーシャの祖父母は隣国に住んでいて、そこでは魔力の強弱はあまり評価されないと聞いたことがあった。


『………お力を貸してもらえませんか?』


 アイーシャは祖父母の家に全ての希望を賭けることにした。こんな無茶をしたのは初めてだったが、なんだかわくわくしていた。


『えぇ!!任せて!馬車を用意して、エミーの実家に貴方のことを頼んでおくわ!!持ち出したい物をうちに預けておいて!!』

『では、今からまとめて参ります。少々お待ちください』


 夫人はアイーシャにとって最も信頼できる人間だった。だから、母の遺品である大切な裁縫箱を預けることに決めた。

 急いで陽の当たらない裏部屋にある自室に戻ったアイーシャは自分の命に等しい大切な裁縫箱を手に取った。


『“精霊さん精霊さん、わたしの命を守ってちょうだい!!”』


 アイーシャの言葉に反応して、裁縫箱に光が宿った。そう、アイーシャは世にも珍しい精霊を媒介にして奇跡を起こす精霊使いだったのだ。と言っても、強い奇跡を起こすことができるのは精霊に刺繍を媒介にして頼み事をするときなのだが。

 アイーシャはお願いをしたときに現れた優しい黄金色をした女の子の精霊を指の上に乗せた。


『《アイーシャ、辛いの?悲しいの?》』

『………そうね、辛いし悲しいわ。だってわたしはクロードさまのために、ずっとずっと耐えてきたもの。それなのに、彼はわたしを裏切ろうとしている』

『《アイーシャはあんなクソ野郎のことが好きなの?アイツいっつもアイーシャのことを励ましているようで貶しているじゃない》』


 アイーシャは精霊のまっすぐな言葉に項垂れた。アイーシャは分かっていたのだ。彼の言葉が嘘偽りであると。本当は魔力の多い人間の方が好みであると。地味な黒髪に地味な青い瞳よりも、彼が愛しているというライミーのような眩しい金髪に、ルビーのような赤い瞳の方が好みであると。


『《そろそろ行かなくちゃ、アイーシャ。夫人?が心配してるよ?彼女は大丈夫。悪い気を纏っていないから》』

『ありがとう。エステル。この箱をなんとしても守ってちょうだい』

『《うん!!》』


 エステル、星を意味する名を呼ばれた黄金色の愛らしい精霊は箱の中にキラキラと消えていった。

読んでいただきありがとうございます♪

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