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17 アイーシャは忘れる

 アイーシャは刺繍をし始めると必ずと言っていいほどに綺麗さっぱり時間を忘れてしまう。今日も見事にそうだった。ベラに「アイーシャお嬢様、夕食のお時間です」と言われても、肩をポンポンと叩かれるまでベラが入ってきたことにすら気がついていなかった。


「ご、ごめんなさい。刺繍を始めると、いつも時間を忘れてしまうのおぉ!?」


 慌てて針を熊を刺繍し終えて植物を散らし始めていた布地に刺して立ち上がったアイーシャは、慌てすぎて机に足をガンッ!!とぶつけた。


「だ、大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫よ」


 引き攣った微笑みを顔に貼り付けたアイーシャは、何事もなかったように扉に向かって歩き始めた。


 アイーシャが夕食の席に向かうと、アイーシャ以外は皆席にちょうど着いたところだった。


「遅くなってしまい申し訳ございません」

「気にしなくていい。今日はいつも最後なユージオが、君との食事が楽しみすぎるという理由で早く席に着いているだけだから」

「ち、父上!!」


 丁寧な言葉遣いに冷静沈着な印象を持っていたユージオが慌てる姿に、アイーシャは目をぱちくりとさせた。


「えっと、」

「しょ、食事を始めましょう!!」


 明らかに話を逸らしたユージオにアイーシャは微笑みを浮かべた後に、空いている席に腰をかけた。


「いただきます」

『いただきます』


 ラインハルトの声に合わせ、皆が手を合わせて食事を始めた。今日の夕食はとても豪華だった。厚切りのステーキに添え物の新鮮な野菜、色鮮やかなデザート、アイーシャは終始目をキラキラとさせて食事を楽しんだ。


「ねぇアイーシャちゃん、うちの子にならない?」

「え!?げほっ、ごほっ、」


 食事が終わった途端シャロンが言った言葉に、アイーシャは思いっきり咽せた。親戚の家に来て仕事を紹介してもらおうと言ったのにも関わらず、何故か家族にならないかと聞かれたアイーシャはびっくりした。何故家族にならないかと聞かれたのかアイーシャには全く分からなかった。


「あの、何故?」


 アイーシャは顔を不安一色にしてじっと新たな家族を見つめた。


「アイーシャちゃん、精霊使いはさっきも言った通り珍しい人間なの。そして、王族に連なる貴族である証拠でもあるの」

「………………つまり、後ろ盾が必要だということですか?」

「ざっくりいえばそういうこと。だから、戸籍をうちの家に移さないかって話」


 シャロンは右手の人差し指をくるんと回した。アイーシャはとても悩んだが、絶対に必要なことだと思った。世にも珍しい精霊使いたる自分には後ろ盾がいる。後ろ盾がなければ、多分自分は危険に晒される。


「………その話、お受けいたします。ぜひともわたしをイスペリトに加えてください」


 アイーシャは深々と頭を下げた。


「よかったわ!!もうアイーシャちゃんはアイーシャ・イスペリトになっているから、ダメだって言われたらどうしようかと思っていたの!!」


 アイーシャは既に戸籍が移されていることに目を見開いたが、その後に苦笑した。シャロンらしいとも思った。元気で明るくて自分勝手、そんな叔母たるシャロンらしいと思った。


「改めまして、アイーシャ・イスペリトと申します。今後ともよろしくお願い申します。お義父さま、お義母さま、お爺さま、お婆さま、ユアン、ショーン」


読んでいただきありがとうございます♪

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