1 わかってはいたけれど
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「アイーシャ・キャンベル、貴様との婚約を破棄する。そして、ライミー・キャンベルと婚約を発表する。俺の婚約者には、貴様のような無能はいらない!!」
「………はい、…承知いたしました………」
アイーシャは俯いたまま震える声で、元婚約者にしてこの国の王太子であるクロード・ディアンに返した。
(頑張りなさい、アイーシャ。こうなることは分かっていたはずよ。泣いてはダメ。耐え抜きなさい)
クロードとアイーシャは5歳の頃から婚約者であった。典型的な政略結婚で、当時侯爵家の一人娘であったアイーシャは王家からの王命でクロードと婚約することになったが、アイーシャはクロードのことを愛していた。クロードは、キラキラ輝く明るい金髪に、宝石のような藍色の瞳、柔らかな微笑みは絵本に出てくる王子さまのようであり、魔力が全くもってないことがコンプレックスだった、いや、コンプレックスなアイーシャにも笑いかけて大丈夫だと言ってくれた。彼のためならばどんなこともできた。辛い王太子妃教育を耐え抜くことも、心を引き裂く嫌がらせも、どんなことにも耐えられた。
「アイーシャ、このことはお父様もお母様もご存じよ。このパーティーが終わった瞬間に無能な貴方は勘当されることになっているわ」
「………そう、」
従姉妹たるライミーの言葉に、アイーシャは唇を噛み締めた。ライミーはこの国の女性の中で最も強い魔力を持った女性だ。魔力の多さが1番の判断基準たるこの国では、重宝される人間でもある。
「………わたしはもう侯爵令嬢ではありませんので、この場には不相応なようです。もう、帰らせていただきます」
「あらぁー、貴方にはもう帰る家もないって私さっき言ったわよね?」
ライミーの高らかな声に、アイーシャは今まで持ってきた矜持にかけて顔を上げて微笑みの仮面を顔に貼り付けた。
「そうね。もうわたしは貴方とは無関係な人間よ。だから気にしないでちょうだい」
「なっ!ふんっ、首を垂れて這いつくばりなさい。そうすれば、我が侯爵家でメイドとして雇ってやらなくもないわよ」
「結構よ」
アイーシャは気高く言い切ったが、内心とても怒っていた。ライミーは我が侯爵家と言っていたが、ライミーはただの家を乗っ取った、アイーシャの亡くなった父親の弟の娘なだけだ。本当は侯爵家はアイーシャの亡くなった両親のものだったのだ。
「そう、じゃあ、野良犬のようにせいぜいのたれ死ねばいいわ!」
「そうだな。無能は淘汰されて然るべきだよな、あははははっははははは!!」
クロードとライミーの高らかな笑い声は、会場内ほとんど全てに伝播した。ここにはアイーシャの味方なんて存在していない。魔力の多さが1番大切なこの国において、魔力無しである自分は無能なお荷物なのだ。どんなに必死になって淑女教育に励もうとも、何もかも報われないのだ。
「………では、皆さまご機嫌よう」
(分かっていたはずよ。アイーシャ、ここは地獄だって。わたしが愛したクロードさまはもういないって)
アイーシャは美しいカーテシーを披露して会場を去った。去る途中にいくつもの暴言を吐かれ、ぶつかられ、食べ物や飲み物をぶつけられた。アイーシャは目にいっぱいの涙を溜めたが、決してそれをこぼすことはなかった。ただ、ずっと微笑みを浮かべたまま会場を去って行った。
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