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遠い夢の世界で  作者: ロックベル
逆さの帝国
9/11

第五話 ストリートファイト

王達の間に不穏な空気は漂う。


一方主人公達は無事に王の面談から帰って来たことを祝い、宿で酒盛りをしていた。

 食堂のソファーに寝転びながら、酔い潰れた状態で起きた。この地下空間は太陽ではなくマントル対流が光源なので、日中ずっと明るく、朝起きたという感覚がない。周りを見ると皆寝転がっているので、部屋に戻ると、地上からつけてきたコンタクトレンズが、ベットの横に設置された机に置いてあった。


「それ、国の軍事施設に預けてたんだけど戻ってきたんだね。多分機能は戻ってるヨ」


 言われるがままつけて機能を確認すると全て元通りになっており、さらに翻訳出来る言語の種類が増えていた。


「この地下で話された言語は、だいたい入っているはずだした。今わたしが話しているのはサラ族の言葉だけどどうですか?」

 

 確かに日本語に訳されていてわかりやすいが、メイフォン特有の語尾までは訳せないようだ。


「なーんだ、それじゃ可愛くならないじゃん!わたしは可愛いのじゃないとむりぽよ」


 彼女の物に対する評価が、可愛い基準なのは如何なものだろうか、まぁどうでもいい


「じゃ早速街に行って旅支度するよん♪」

「おい、後の二人はどうするんだよ」

「あのままでいいでしょ、普段から色々お世話になってるしー、たまにはゆっくりしてほしいわ」


あの二人の職業は外交官と聞いたが、確かに戦争直後で事後処理が大変なのだろう。それに加えて、救出作戦の指揮も任されて仕事が山積みだとすると、頼むこちら側も思わず同情を覚えたてしまう。そっとしておいてあげよう。



 こうして街に繰り出したのはいいが、何だか騒がしい。


「俺はぁぁぁぁ最強の戦士ドノヴァンだ!てめーらスパーリング相手になりやがれ!」


 コロシアムの方からやたらデカいワニ頭が、目にした物を片っ端から叩きつけながら走ってくる。その後から軍警察隊がコイルガンを撃ち鳴らし、走って追いかけてくるのが見えた。


「ヤメロォ!と、とまらんと撃ち続けるぞ!ってもう銃の電力が…」

「お、ちょうど当ててくれたそこ、凝り気味だったんだよ」


 ワニ頭が(きびす)を返して、軍警察の軍団に乱すると、銃で撃たれようがお構いなしに乱打戦に持ち込み暴れる。



「あいつ…じゃ特別にぃ、あーしの実力見せちゃおうかなぁ」


 "マジかよ、出来れば関わりたくないのに"と思い、メイフォンを止めるようとしたが、ポケットからメリケンサックらしき物を引き抜き、軍団に突っ込んでいく。此方の気配を察したのか、ワニ頭が180度回転して叫ぶ。


「久々だなぁコロシアムの姉妹、メイフォン!寂しくておじさんは毎日目から鱗だったよ」

「それ涙だってwwちょーウケる!今から血の尿結石をひり出してやるから待ってな!」


 互いの右拳がぶつかり合い、軽い衝撃波が辺りを襲う。彼女のか弱い細腕と、何倍もある(たくま)しい腕が互角の張り合いをしているのを見たら、もはや人間業ではないと誰もが思うだろう(人間基準だけど。


 こちらが考える間もなく、互いに引いて円を描くように歩きり始めた。数秒がたち、先にメイフォンが前に飛び、高速で放った右回し蹴りを決めた、と思ったが其処には誰も居らず、いつの間にかワニ頭は屋台の屋根に飛び乗っていた。


此方としては、動きが速すぎて目で追うのも大変だ。ボクシングの経験のお陰で、辛うじてメイフォンの動きは見えるが、ワニ頭のさっきの動きは全く見えなかった。


「相変わらずすばしっこいねぇ!このビチグソがぁ!」

「てめぇこそその口の悪ささえ治ればねぇ、お・じょー・ちゃん」


 ワニ頭が空中から左足で踵落としをキメにかかるが、なんなく避けられる。


「やべ、抜けねぇ」


 足が地面にめり込んだせいか、動けないでいるようだ。すかさず彼女が殴りかかり、目にもとまらぬ速さでラッシュの嵐を放つ。


「オラオラオラァ、トロいぜ木偶の坊」


 このまま押し切れる、と思ったのも束の間、

 ”ドゴォォオ”…鈍い嫌な音がして彼女が後ろに吹き飛び、壁に打ち付けられる。ワニ頭が勝ち誇った様な顔をしながら、彼女にゆっくりと近づいて胸ぐらを掴み上げる。ワニ男の身長は2m以上は優にあるためか、彼女の体がとても小さく見えた。


「ふぅ~少しは痛かったぜ、そもそもてめぇの武器はその背中につけた刀だ。肉弾戦が得意な俺に対して、刀を使わないってのは舐めてんのかぁ?」

「グフッ、うるせーぞ脳筋…あたしをアゲさせたら、ハァ、どうなるのか、わかってんだよなぁ」


 彼女が口から血を盛大に吐き散らしながら喋る。流石にやばいと思って禁じられた声を出そうとしたが、赤い血で染め上げられたブリテッシュメイド服と、彼女の半笑いした表情を見ると怖気付いてしまう。彼女が刀を引き抜いた瞬間


「双方やめぬか!帝国を代表しこの場、ホロンとフレーメンが仲裁に入る!」


 どうやら宿で寝ていた二人とあーちゃんが後を追ってきたみたいだ。


「これはこれは、政府のお役人さんがストリートファイトに何のようですかい?ほんのお戯れじゃないですか」

「バカを言いやがれ、お前のせいで軍の連中が倒れてんだよ。そんなに喧嘩したいなら、俺達が相手になってやんよ」

「チッ、あんたらとその妹じゃ分が悪いな、いいぜ、続きはまたの機会としようじゃないか。オイそこに居る何もしてねぇ奴、こいつ持って帰れ」


 彼女が自分に投げつけられ、勢いに倒れそうになった。内臓がかなりやられたのかだいぶ失血が酷い、あの一撃にここまでの威力があるなんて。だき抱えていると、ワニ頭が自分の横を通り様に声をかけた。


「オイコラ、お前人族だろ、俺はお前らみたいに弱いくせにイキってる奴らが死ぬほど嫌いなんだ。精々こいつと仲良しごっこでもやってんだな、攫われちまわないようにな!、ガハハっハハっ」


 颯爽と去る後ろ姿を見ながら、震えて倒れそうな足を立たせておくのが精一杯だった。ボクシングのプロチャンピオン相手にやった時に感じた震えとは違ったものだった。何か圧倒的な物、自然災害とも違う。この国で自分は、戦闘面で言えば無力に等しく、精々ネズミ程度にしかならないのだろう。


そんな事よりも今はやることがある、ホロン達の元へ急いで向かうと


「彼女の失血が酷い、おそらく内臓へのダメージが深刻だ。この辺りに病院のようなものはないのか?」

「王宮方面へ5km行ったところに軍の病院がある。私達よりもアクラズ殿の方が足が速いから、彼女に抱えてもらって運んでもらおう」


 何時もの怯えた様な目ではなく、憎らしい相手と接する時のような目をあーちゃんはしていた。抱えたメイフォンを渡すと、無言でその場を走り去った。


「アルト何もされてないか?大丈夫か?」

「あぁ、俺は何もされていないよ。あの戦いを俺はただ見ているしかなかった…」

「仕方ねぇさ、あいつはコロシアムのトップランカー、ホーネットだ。コロシアム外で同族殺しが禁じられている法を無視して、何人もの軍人や一般民に喧嘩を一方的に吹っ掛けて殴殺おうさつしている。アイツには軍の監視がついていた筈なんだが…、あいつ隙を突いて逃げてきやがったな」

「話す暇はありません!我々もここにいる軍人を病院に運びましょう、誰か起こすのを助けてくれ!」


 逃げていた市民達が戻って、それぞれ荷車に怪我人を乗せたり、担いだりして病院に運ぶ。


「フレーメン、なんで医療用の車が来ないんだ?」

「戦争に全部使われちまった、救急用空挺バイクがいくつか残っている筈なんだが、数が少ないし、乗れる数もない」

「わかった、俺は出来ることをする」


 俺は近くで口から血を流し気絶している軍人を抱え、荷車に乗せる作業を繰り返す。皆殴られたせいか、内蔵にダメージを抱えた人が多い。急いで治療せねば彼らは死んでしまう。


「眠い、それに寒い…」

「寝るな!気をもて!」


声を出してはいけないのがわかっていても、これはダメだ。なんでも良いから気を保って貰わないと。


 

 何とか怪我人を全員運び終わり、3人で病院へ直ぐに向かうと、病院内は多くの怪我人で溢れかえって軽いパニック状態だった。メイフォンがいる病室に行くと、ベットに横たわって、妹が隣でいつもの怯えた目…というより心配で堪らないといった様子だった。


「ごめんねぇ、おにーさん…いつもなら大丈夫なんだけどあいつ桁外れに強くなってた。多分本気でやらないと私もあーちゃんも勝てないかも」

「何で謝る、俺も軍人の皆んなも君のおかげ生きていられるんだ、今は安静にするんだよ」


 医者の話では骨が内臓に突き刺さり、彼女が持つ治癒力を持ってしても全治1週間だと言われたが、取り敢えず回復は出来るようなのが不幸中の幸いだと言える。妹を連れて病室を出ると、ホロンが深刻な顔で話し始めた。


「ホーネットは既に軍の特殊部隊が追っている、しかしメイフォンがやられたことで、我々の作戦に支障が出てしまったな」

「数が減ってもやるしかねぇ、作戦自体秘密裏に行われているしな。すまねぇけどアクラズ、姉貴が心配なのはわかるが、アルトの仲間の救出作戦を中断するわけにはいかねぇ。頼まれてくれるか?」

「ウン…たいせつなひと…いないはつらいのわかる」


 本当は姉の元に居てあげたいだろうに…彼女の目は先程とはうって変わり、力強いかった。直ぐに感情を切り替えられるとは、本当に強い子だ。


しかし何で不幸がこんなにも重なるんだ。いや、弱気になるな俺! その時ホロン達の腕にはめた通信機から指令が入る。


「86番作戦コード今すぐケッコウセヨ」


「アルト殿今すぐ軍の施設に行きましょう、我々に止まる暇はない様だ」


 俺たちはメイフォンの見舞いをじっくりする暇もなく、走り始めた。





 

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