第四話 隣国
王から仲間が発見された報告を受け喜ぶアルト
一方王は思うところがあるようで…
余計なことをしてくれた、奴は戦争をまた仕掛けようとしている。
配下の者が居なくなり、王の間には二人だけが残った。
「マグヌスよ、何故あのようなことを?」
「俺たちの国益を取っただけだよ、俺の発言に頷く奴もいたはずだ。」
「愚かな…代々人族とサラ族は古代から良い友好関係を築いてきた。350年前の同族殺しが人族が原因だったとしても、彼らと手を積極的に取り合うべきではないか。」
互いに同じ時に生まれ、300年を共にしてきたが、こいつの考えは本当に読めない。
「此方こそ聞きたい、アルトを戦争の元にするつもりだろ」
「何を根拠に…」
あの山の麓には現在ヌプルガンヌ族の偵察が、密かに入り込んでいると聞いた。人族の救出を下手にすれば、またすぐに戦争が起こってしまう。それにこの情報は俺が前線部隊に極秘にするよう言ったことだ。何故ブリタニアに漏れているのか…、軍の中に情報を流している奴がいるのは間違いない。わざわざあの場で仲間の情報を与えたことも腹立たしい、間違いなくアルトが助けに向かうことを読んでいたはずだ。
「それに報告された戦争捕虜の数と、実際集められた人数が合わない。何か知らないか?」
「それについては盗賊や野党と化した部隊が強奪、もしくは横流ししていると聞くぞ。マグヌス、軍の管理はちゃんとできておるのか?」
噂には聞いている、実際に軍の中へ信頼できる腹心を紛れ込ませて調べたが何も出てこない。
「ああ、心配には及ばない」
その瞬間扉が開いて大臣が入ってきた。
「緊急の案件の為失礼いたします。奴らのザイーチェと名乗る使者が、王に会わせてくれと単独で王宮前まで来ています。如何なされますか?」
誰が使者なんかを領内に勝手に入れたんだ。それにザイーチェ?、初めて聞く使者の名前だ。加えて戦争が終わったばかりだぞ、一体何が目的だ
「相分かった、直ぐに宮殿内の士官を集めて面会の準備を、くれぐれも油断せぬよう」
「突然の面会を許可して頂き感謝致します。初めまして、ヌプルガンヌ族の使者として参りましたザイーチェと申します」
「ザイーチェ殿、何用でこの国にこられた?貴殿の国との賠償金、捕虜返還の話はついているではないか」
「単刀直入に申し上げると、我々の天界領内で人間が見つかりましてねぇ、そちらにも遭難者がいるのでは?」
何という事だ、薄々予感はしていたがこいつらも見つけていたのか。
「そこで提案があります、10名の遭難者と国境の山の支配権をお渡しする代わりに、貴方達の捕虜になった長官をお返し頂きたい。」
「ふざけるな!お前らの長官のせいで、俺たちの仲間がたくさん死んだんだぞ」
「そうだ、戦争が終わったばかりなのに何だその態度は!」
大臣たちの反応も無理もない、奴らの長官ザナックによっていくつもの軍の部隊が壊滅した。それに人族が俺らの国内で悪い印象だという事は奴らも知っているはず、こちらに利がない。
「お前達の条件を飲むことはできねぇが、人族の発見の話はおもしれぇ。代わりに士官クラスの捕虜を解放ってのはどうだ?」
士官の捕虜から軍と国に関する情報はあらかた聞いた、少数なので軍内の反発も少なくて済む
「わかりました。受け渡しは72時間後、山岳地帯にある貴方達の軍の基地で宜しいでしょうか?」
「相分かった、その旨そちらの首領に伝えよ。ところで此方までどのように来なさった?」
「転送装置でございますよ。実はこの提案は首領より預かった極秘の案件にてございます。現在貴方達の領土内と天空領の通信は禁止されているため、こうして門前にお伺いした次第です。」
奴らの転送装置は戦時中に造られたとされる、この地下空間でも数個しかないカプセル型だ。1人づつしか転送できず、膨大な電力の消費と転送先がずれる事故がよく起こっていた為、戦争中に使われたというスパイからの報告は受けていない。一応戦時中は俺達自国中の転送網をシャットダウンしていたが、まさか此のような形で使ってくるとはな。
「なるほど、ご足労ご苦労だった。帰りは軍の空挺旋回機にて途中まで送ろう、そしてそちらの首相とのホットライン回線も直ぐに開設できるようにしよう。」
こうして使者との取引は終わったが、どうも国の裏側で何か事が起こっている予感が拭えない。まずは奴らの首領と直接話さなければ行けない事がたくさんある。
今日は特段に疲れたな。
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「ではアルト様、今から我々の計画をお話いたします」
宿に戻った俺たちは乾杯といきたい所だったが、先に仲間を助ける計画を立てることにした。
「そういえば、姉妹は?」
「あいつらなら買い出しさ。今日は飛び切りいいものが仕入先に入ったんだと」
「いいのか、作戦を立てるんだろ?」
「作戦は俺らに合わせるだとさ、あいつらには後で話せばいい」
作戦の内訳としては、山の麓まで大人数が乗れる軍用空滑走バイクというもので移動し、現地の兵士と合流後発見の報告があった付近を捜索する予定だった。しかし面会直後に行われた、ヌプルガンヌ族との交渉により、新たに見つかった仲間を直接受け渡す事が決まった様ので、隠密行動はそこまで必要ではなくなった。仲間が確実にいることが分かり、喜びは更に増すが、極秘の作戦であることには変わりない。
「山の領土権はこちらにあるが、どうにもあいつらは信用できない。それに天空領域と出入りが可能な施設があると噂されています。一応現地には我々の軍が、1師団配備されているため安心だとは思いますけどね」
「兎にも角にも行ってみるしかねぇ、さぁ姉妹が帰ってきたぞ」
ドアのベルが鳴る音がすると共に振り返ると、青い血で汚れたメイフォンとアクラズがいた。思わずどうしたんだ、と聞くと
「さっき移民集落で買い物した帰りにねー、通行止めになってる道を避けてたらぁ、変な奴らが二十人位で襲ってきたんだよね。モチ全員シバいたけどー、一人逃げられちゃった。息のある奴らを拷問にかけようと思ったけどさ、あいつら毒持ってんの、みーんな直ぐに死んじゃったよん。後は軍に任せて私たちは帰ってきたってわけ」
「そいつら俺たちと同じ部族か?」
「逃げたやつは分んなかったけどー、死んだ奴らの半分わたしたちと同じ、もう半分はアスガルタ族ね」
「アスガルタ族はこの地底空間の奥地に住むとされる、龍に化けることの出来る部族集団です。古代からこの地下空間全域を支配していたのが彼らなのですが、4000年前に起こった突然変異による民族迫害と革命で国が分裂したせいで、今は小さな都市国家となりました。私たちの国も突然変異によって生まれた部族が独立して出来ました」
「移民の強盗は別に珍しくないが、毒飲んで自殺したってのが気になるな、何か裏があるぞこれは」
もし自分が転生した事により国家間に亀裂が生じるなら、これほど悲しいことはない。
「アルト殿あなたのせいではない、国家間の緊張状態は常日頃だ。もしそうだったとしても相手が機に乗じただけ、気にする事はない」
「そうだ、取り敢えず飯としようじゃないか。一緒に飲むんだろ?」
彼らには本当に助けられる。その晩は5人で盛大に食い、飲み散らかした。
読んでくれてありがとう!忙しい時期が続きますが、少しづつ進めていこうと思います。
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