第二話 文化体験
化け物に追いかけられ、目を覚ますと沢山の爬虫類に囲まれていた。
地球内部の空洞に存在するという、爬虫類の顔をした生き物が治めるヴブーギン帝国領内に入っている事実を聞いた彼は、現実を信じられずにいた。
与えられた宿で働く人間味溢れる少女達と出会い、異文化に触れていく。
「おっは~、よく眠れた?」
目を覚ますとメイフォンが上からのぞき込んでくる。
「あぁ、おかげさまでね。夢すら見なかったよ」
「なぁに、それっていいことなのぉ?」
テンションが全く掴めなくて大変だ。でも訳の分からない生物と話しているよりはましだ。
「そうだね、所でなんでそんな話し方なんだい?」
「んーママの持ってるぅ、ホログラムに記録されてた日本人の話し方が気に入ったんだヨ。
日本語なんてわたしが死ぬまで使う時なかったかもしれないのに、今話せてちょーコーフンする」
なるほど、大方彼女の見た記録は昔日本国にいたとされるギャルや、地雷系女子と遊び歩いていた日本人の記録だろう。全く、いつか来た日本人の頭をはたいてやりたい。
「キョ―はあーちゃんに会ってもらうからね、ついてきてー」
彼女に続き部屋を出て、廊下を左に曲がると螺旋階段に当たる。螺旋階段を下っていくと、白いテーブルクロスがひかれた長机と椅子のセットが沢山あるのが見える。
「ここは食事場所だヨ、宿泊以外のお客さんにも開けてるんだけど、今は仕込みの時間だから安心してね。ちなみに宿泊のお客さんはお兄さんしかいないヨ、お国側が何かあるとまずいからって全室分のお金前払いしてくれたんだ~」
「金のやり取りするのか?」
「お金は人族と私たちが一緒に考えたルールなんだヨ。人族のやっている事は私たちも大体やってるの~」
驚いた、人の文化の共有が出来たという事は、地上に帰る手段が確実に存在しているという事だ。少し安心した。
「こちらがあーちゃんになりまーす!ほらあーちゃん、地上から来たお客さんだヨ!」
厨房から小さい影が飛び出してくる。
「こっ、にちは、二へへ…」
見た目は完全に毛布をかぶった幼稚園児だ。ディーナより小さい背丈と、後ろに波打つ銀色の髪を持ち、物語に出てくるエルフのように尖った耳を動かしながらしどろもどろに話している。肌色は薄緑色で、明らかに大きすぎる長袖シャツを着ていた。
「やぁこんにちは、僕はアルト、君があーちゃんだね」
「うん…あーはみんなにそうよばれる…」
悪い子じゃなさそうだ、ふと彼女たちの年齢が気になって聞いてみると
「わたしは146歳、あーちゃんは60歳だヨ!ちなみにママは334歳ね」
恐ろしく長寿の生き物なのか、あーちゃんの半分の年齢もいかない自分がここでは異質に見える。
「取り敢えずごはんを食べさせなきゃいけないから、直ぐ用意するよん。それまでゆっくりしていてねー」
そう言って厨房らしきカウンターの奥へ消えていった。あーちゃんと二人だけ残されてしまい、彼女はずっと気まずそうにしている。取り敢えず彼女を近くの椅子に座らせ、話をする。
「君も日本語をホログラムから知ったのかい?」
「うん…ママはヒトのちがいちばんつよい…あーもおねえゃんもヒト、きょうみある」
どうやら隔世遺伝の影響が強いのだろう。彼女らを見た時の大真やブルキナは大興奮間違いなしだ。
「アルト…そと、わたしかおねえちゃん…かならずよんで、けんかまけない」
「わかった、きみたちはそんなに強いのかい」
「コロシアムでわたし…まけるひと、かたてだけ」
そう言って片手を挙げる。コロシアムでの剣闘士制度がこの国で行われているのは驚きだが、彼女たちの強さも気になる。わざわざ国の偉い生物が自分の護衛に彼女達をつけるのだから、本当に強いのだろう。
「おまた~、セイロンのソテーとサローナね。」
また青い肉のソテーに煮込みまで出てきた。昨日の草よりはましだと思い、食べるとソテーは昨日と同じ味がしたが、サローナはスパイスが効いていて、肉と紫色の野菜らしきものがおいしく感じた。サローナについて聞いてみると、
「サローナはね、ホログラムの記録に作ってる様子が入っていたんだぁ。とっても美味しそうだったから~がんばって皆に食べてもらえるようにしたんだよ☆」
彼女たちの生活がとても気になる。ここで起こった事をコンタクトやイヤホンに記録したいが、イヤホンを失くし、コンタクトも起きた時完全に反応しなくなっていたので、書く物がないか聞いてみる。
「それって羊皮紙ってやつに似てたりするぅ?一応動物の血があるからそれで書いたら?」
そう言ってカウンターの下から羊皮紙と、動物の血が溜まった瓶を持ってくる。中世から現代までの文化が混ざり不思議な気持ちになる。お礼を言い、今後の予定を聞いてみる。
「今からお兄さんには、私たちの街を見てもらおうかなぁ。ホロン様もわたしたち2人一緒なら少しは外に出てもいいって言ってたしね。勿論変装してもらうよ!」
顔が隠れるぐらい大きいツバの帽子をかぶり、なぜかブカブカの緑色のパーカーらしきものと、ズボンを着るように言われた。匂いと体格が分かりにくいようにする為らしい。
準備が整い2人と一緒に外に出ると、沢山の爬虫類が列をなして通りを歩いている。かつて人口が過密状態にある国の首都は、人がすれ違うのも大変だったと聞くが、まさにそれを表している。同時に自分の記憶が徐々に取り戻されている事を実感する。
暫く歩いていると爬虫類達の格好は、バラバラであることが分かってきた。アラブ自治区の白装束やインド地区のサリーを着ていたりと、連合や地区を超えて彼らの服装は多種多様だ。同盟を組む連合間や地区の移動でさえも、人の出入りが厳しくなってしまった現代より、こちらの方が新鮮でいい。
露店の前でメイフォンが立ち止まり、肉と野菜らしき物を買っている。私が会話する事は人間であることがばれないようご法度だ。
「おにーさんが食べられる物はあんまないんだよぇ、暫くは同じ食材でも我慢してね。栄養面は考えてるからダイジョウブ☆」
耳打ちされるが仕方がない、変なものを食べて腹を下すよりはましだ。
「次はコロシアムに、おにーさんのスキぴが売られてないか見に行くよ」
思わず聞き返しそうになったが、寸でのところで止まった。確かに仲間が売られていては大変だ。うなずき、コロシアムに向かって歩く。
コロシアムは想像とは違い近代的だった。1万人位を収容できそうなサッカー場がそのままワープしたようだ。そんな自分を察したのかまた小声で言われる
「コロシアムも人族のホログラムを解析してできたの。こんな事、国の偉い人しか知らないよ」
彼らを人と呼べるのかは謎だが、突っ込みはしないでおこう。コロシアム内では人身売買らしきものと、2対2の格闘技が行われていた。彼女から戦争で溢れた捕虜の一部が、人身売買として非合法に流れている事や、格闘技以外にも剣技や早打ち対決、スポーツに似た死者が出ない多数の競技が行われているらしい。
この2人はコロシアムの上位ランカーなので、週に一度上位ランカー入りの新人と何でもありのルールで戦うらしいが、私の護衛で暫くは戦えないと言って嘆く2人の表情を見ると、申し訳なく思ってしまう。奴隷たちは確かに人間と同じ見た目をしていて可哀そうに感じたが、下手に触れるとまずそうなので黙っておくことにした。
宿に戻るとまた新しい料理が出てくる。今度の料理の名前はシルパンチョというらしい。薄くした肉の塊の上に唯一人間も食べる野菜である、トマトと煮込んだジャガイモに謎の紫色の野菜を混ぜて、現地のスパイスをかけると完成らしい。とても美味しい、本当はこんなことしている場合じゃないけど、帝王に会うまでは何も出来ないので、羊皮紙に記録を残すとしよう。
読んでくれてありがとう!
箸休めに異文化を書いてみました。設定を盛りすぎると文字の総量が、とんでもないことになるので、設定集みたいなものを書くつもりです。
評価をしてもらえると、作者が躍り上がって喜びます!