第四話 祭壇
友にかかったスパイ疑惑が頭から拭えないまま眠る主人公アルト。
目を覚ますと大穴の底だった。
「サイシンブニトウタツシマシタ」
機械音声の声が耳障りだ。ぼんやりする視界には地下30km地点を指す表示が見える。窓の外を見ると暗くて何も見えない。
「着いたぜ、起きろよ。荷下ろしするぞ」
大真が自分に話しかけているのが見える。立ち上がり他の隊員と共にヘリの貨物室に行き、貨物室の扉が開くのを待つ。
「開けるぞォー」
大きな声と共に大きな扉がゆっくりと開き、滝が地面に当たる轟音が響く。
「各員、イヤホンを付けろォー」
隊長の声がかすかに聞こえ、イヤホンを付ける。片耳だけ紛失して焦ったが大真が代わりをくれた。イヤホンの形は300年前から変わらないと聞いたことがある。昔の人もイヤホンの片方を無くしして、焦ったりしたのかなとか想像していると、隊長の声が聞こえる。
「湖に落ちないようにしろよ、深さが解明できてないから落ちたら助けられん」
確かに30km上空から落ちる滝だ、地面に当たる強さを考えると相当なものだろう、深さの予測がつかない。暗い空間に突如眩しい光が周りを照らし、地形がはっきりと見える。湿った岩が壁を作り、地面は少しぬかるんでいて、左を向くと大きな洞窟が見える。一軒家位の大きさの穴だろうか、着陸地点から距離にして5,600mといったところで、明かりが洞窟の前を照らしている。
正面には水面が円を描くように奥まで広がっている。荷物を持つ手を放して水面をのぞき込んでみると、魚らしきものが泳いでいるのが見えた。水に手をつけるとひんやりとして気持ちがいい。
「さ、洞窟前まで荷物を運ぶぞ」
大真に話しかけられついていくと小さいテント群が見えてきた。隊員たちが機材をテント群の中に持ち込み機械の設置をしている。取り敢えず大真が行っている機械の設置作業を手伝う。
「どうやらこの機械で地質の調査をするらしいぜ、更には湖にボートを出して水質と地形調査もするって話だ」
本格的に今回の探索で大穴の地形を明確にするらしい。
"ザバァン"、「誰か助けてくれーっ!!」
早速誰かが湖に誰か落ちたようだ。たまたま近くにいる人が急いで縄を投げる。
「これに掴まれ!」「すまねぇ、ひっぱってくれー」
どうやら彼は泳げないみたいだ。自分も急いで現場に向かい縄をつかみ引っ張り上げる。
「すまねぇ、助かったよ。。俺は泳げないんだ、ウゥゥ」
弱々しい声を上げ地面に倒れる。赤毛のぼさぼさ髪に加え、上下ともアジアン連合軍が支給する地上戦用の迷彩服を着ており、鼻が少し赤い。身長や体格は同じぐらいだろうか、しかし酒臭いのが気になる。
「全く、しっかりしくれよザナック。また隠れて酒を飲んでただろ、30人そこらしかいない隊員がこんなところで退場するな」
「すまねぇなドク、いつも気合を入れる時は強い酒を飲むって決めてるんだよ」
「相変わらず仕方がない奴だぜ。ほどほどにしとけよ」
アイザック…どこかで聞いたことがあるような
「アジアンを代表する冒険家が情けないわねぇ」
後ろからディーナの響く声が聞こえる。知り合いだろうか。
「そもそもなんでこんな所にいるのよ。あなた旧北極点で旅をしている途中じゃないの?」
「ヘヘヘ、あんな溶けてわずかしか残ってない氷の海なんかよりこっちの方が面白いに決まっているだろ。今人類の目は第四次大戦の危機か新大陸にしか行ってねぇよ」
「ふーん、せいぜい足を引っ張らないで頂戴。馬鹿がうつるわぁ」
「ふざけたガキだぜ、俺からイカサマで金をとったから高飛車になってやがる」
「まだ覚えていたのね、そんな事」
本当に大丈夫なのだろうかこの人は、でも荒くれ者が冒険者として優秀なのはよくあることだし…
「去年会った時にあたしとゲームの勝敗で賭けに負けて、電子口座が空っぽになったことまだ根に持っているのね。あの時は弱すぎて笑っちゃったわ」
彼女が自分に小声で耳打ちをして無邪気に笑う。恐ろしい小学生だ、この子とのギャンブルはやめておこう。
「皆さーん、副隊長から集合が掛かっています、集まってください」
声を掛けられ、副隊長のもとに全員が集まる。
「皆今から今後の計画について話すに当たり、まず部隊を洞窟班と地底探索班に人員を半分に分けるわ。地底探索班はアリスに任せるから、洞窟班に入る名前を私と隊長が呼ぶとする。呼ばれたものはこちらに来なさい」
「アリスでーす。地上班の皆宜しくね」
隊長と副隊長に大真と自分が呼ばれる。どうやらディーナとザナックも同じ班のようだ。
「洞窟探査にあたり分かっていることを話す。まず湖から水が洞窟内に流れ込んで小さな川を作っているが、川に沿って歩くだけの道はあるから心配はするな。途中まで調査した所光る鉱石が生えているおかげで、明るさは十分確保されていることが確認されている。目標の石造りの祭壇までは約2kmとされているが実際に行かないと何とも言えない。準備が出来次第直ぐに行くから各員荷物を整えてこい。外部との通信ができないことを考えろよ」
急いで近くのテントに入り持っていく荷物を整える。大して旨くないレーションと水、ホログラム照射装置とコンタクトレンズ、探検には欠かせないライトと着替えを詰め込む。あらかた揃えて出てくると既に全員揃っていた。
「やっと出て来たな、では出発!」
洞窟に向かって探検隊は歩き始めた。
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「なんか寒いぜ、ほらあそこなんて凍ってないか?」
大真が震えている。確かに穴の底に居る時より寒く感じる。周りには青、赤、黄色と多種多様な鉱石が輝いていて眩しいぐらいだ。恐らく寒さに関しては地下深くの洞窟に日の光が全く入らないからだろう。大真は防寒具を面倒くさがって置いてきたらしい。
「ブルキナはなぜいないんだ?」
「あいつは分析が好きなのさ、きっと俺らが戻るまで水質検査でもしているんだろ」
「そうか、それにしても地面がぬるぬるしていて気持ちが悪いな」
地面に苔と水滴がついていて滑りやすくなっている、うっかり滑って右に流れる小さい川に落ちないようにしなければ。
「おやっさん、もうすぐ未知の領域に入りますぜ」
2mはある巨人のような男が隊長に話しかける。
「あぁ、ここからはイヤホンのローカル通信機能を付けろ」
イヤホンのローカル機能をONにするとコンタクトレンズと連携して、仲間がいる半径20m以内であればお互いの映像と音声のやり取りが可能だ。副隊長のテストという音声が聞こえる。
しばらく歩いていると滝のような音が聞こえてきた。
「見つけたぞ、祭壇だ!」
副隊長の声と共に、光る鉱石で囲まれた広い空間が見えた。空間の下を見ると地面の半分を池が占め、池を背にして巨大な石造りの祭壇が設置されていた。祭壇の前には高さ20mはあるであろう8本の柱が、巨大な一つの鉱石でできた円状の踊り場を囲っていて、さらに踊り場まで下るための階段が自分達がいるところまで繋がっていた。
「気を付けろ、何があるかわからない」
大真がそう言いながら階段を下りる。彼の顔は緊張からか、妙に強張っているように見えた。隊の全員が階段を降りて踊り場の上に乗る。
「不思議だ、ここはいつできたんだ」
「隊長、見てください。祭壇の上に妙な石像が並んでいます」
よく見ると数段ごとに30cmほどの人形が連なって並んでいる。かつて日本国にあったとされる土偶や、中華大陸にあったとされる青銅器でできた人形に似ている。
「なぜ古き時代の物があるんだ、何者かが置いたとしか思えない。シュファどう見る」
「ここでは判断しかねます、一旦地上の分析班の所へ持ち帰るべきかと。」
隊の皆が祭壇に釘付けの中大真だけがいない。
「おい、大真どこに」
突然8本の柱の先から炎が灯り、人形たちの目と踊り場が光りだして地面が揺れ始めた。
「総員直ぐに撤退せよ!!」
隊長の声に従い階段へ逃げようとするが、階段が崩れ落ちていくのが見えた。
「一体何なんだ!」
誰かの叫び声を最後に辺りが強烈な光に包まれ、俺は気を失った。
ここまで読んでくれてありがとう!今はリアルが忙しいので、少しづつ物語を更新していきます。
暇が出来たら細かい作品設定の話も書きたいなと考えてます。