表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/156

95 真のヒーローは

95 真のヒーローは


 校長と教頭が犯罪者として捕まったとき、俺の両手は花でいっぱいだった。

 胸の中ですんすん泣く、モナカとコトネの頭を撫でていたんだ。


「まったく、モナカの泣き虫っぷりが、すっかりコトネにも伝染(うつ)っちまったようだな」


 「ううっ、わたし、泣き虫じゃありませぇん」えぐえぐ言うモナカ。

 コトネは泣き笑いの表情を浮かべていた。


「わたくしは幼い頃から、どんなときでも毅然としていなさい、と躾けられたのでございます。

 わたくしはそれを守りつづけていたのですが、お師匠様に仕えるようになってからは、そうではなくなったのでございます。

 お師匠様のことを考えるだけで、頬がゆるみ、また胸が締め付けられるようになってしまいました。

 でも、モナカ様はそれでよいのだと、わたくしにおっしゃってくださったのです。

 それからはもう、自分を偽るのはやめにしたのでございます」


 そしてぎこちなく「えへっ」と笑う。

 まるで、モナカの真似をするかのように。


「それに、お師匠様にこうして愛でていただけるのであれば……涙も悪くはないのでございます……」


 サッと恥ずかしそうに顔を伏せるコトネ。

 まるで息のあった双子のように、今度はモナカが顔をあげた。


 なにか言い出すのかと思ったが、しばらくモゴモゴ口ごもったあと、


「あ、あの、レオくん……。

 わたしたちはレオくんの言いつけを守って、ちゃんと居住区で大人しくしていました。

 ですから、その……『特別なご褒美』を、いただけませんか?」


 俺は軽い気持ちで答えた。


「特別なご褒美? いいよ、なにが欲しいんだ?」


 気付くと、コトネも顔をあげていた。


「いいえ、お師匠様。わたしたちが、お師匠様に差し上げたいのです……」


「お前たちへのご褒美なのに、俺が貰えるのか? それって変じゃ……」


 思わず言葉に詰まる。

 モナカもコトネも、うるうるが止まらない瞳で、俺のことをじーっと俺を見つめていたから。


 その後ろにいる取り巻きたちは、厳しい瞳で俺を睨んでいる。

 なんだかまるで、断ったら人でなしみたいな雰囲気になってきた。


「な……なんかあべこべな気もするけど、まあいいや。

 スレイブチケットとかでなければ、なんでも貰って……」


 俺はまたしても言葉に詰まる。

 頬に、ひらひらと降ってきた花びらがくっついたような感触に、挟み込まれていたから。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 時間は少し戻り、居住区のステージ。

 ヴァイスは大歓声に包まれていた。


「ヴァイス様がまさか、校長と教頭の悪だくみを見抜いていたとはなぁ!」


「そりゃそうだろ、だって賢者様だぜ! 俺たちには及びもつかない天才なんだ!」


「ありがとうございます! ヴァイスさまーっ!」


「ああん、ヴァイスさまーっ! すてきーっ! 一生ついていきまぁーっす!」


 悪徳コンビを断罪したことで、ヴァイスはすっかり全校のヒーローとなっていた。


「1年20組のクラスのランクは下がってるけど、クラスメイトが悪いってのは本当だったんだな!」


「当然だろ! 他のヤツらがヴァイス様の足を引っ張ってたんだ!」


 1年20組のメンツは非難の視線を向けられ、居心地が悪そうにしている。

 モンスーンは怒鳴り返していたが、多勢に無勢、その声は完全にかき消されていた。


 ヴァイスはステージという名の高みから、下々の生徒を眺めまわしている。


 その表情に、かつての没落は微塵も残っていない。

 失敗や挫折など一度も味わったことがないような、完全無欠の微笑みを浮かべている。



 ――やはり、僕は天才だ……!

 校長と教頭に仕返しをしただけでなく、ふたりを踏み台にして、元の信頼を取り戻してみせた……!


 今回の作戦は、成功と失敗、どちらに転んでも良かったのだ……!

 先代の校長と教頭がレオピンを抹殺できれば、そのふたりに大いなる恩が売れていた……!


 もし抹殺できなかった場合は、僕の手で先代どもを抹殺し……。

 新任の校長に、手柄をアピールするっ……!


 僕が今回の一件の立役者ということがわかれば、新任の校長も僕を高く評価するはずだ……!

 そして新任の校長の力を得て、僕は、僕は……!


 レオピンに、天誅を下すっ……!

 ヤツには抹殺すら、生ぬるいっ……!



 いかめしい顔になっていると気付いたヴァイスは、慌てて表情を取り繕う。

 そして、サッと手を上げた。


 それだけで、観衆は飼い慣らされたペットのように、ピタリと静まり返る。


「今日は最初の悪が潰えた記念すべき日だ。この僕からみんなに、特別なご褒美をあげよう」


 「おおっ!?」と歓声がおこる。


「この僕の頬に、キッスできる権利だ……!」


 そのあとの反応はまっぷたつ。

 「きゃーっ!?」と黄色い悲鳴と、「なんだ……」と灰色の落胆。


「今回は抽選で、2人にキッスする権利をあげよう。さあ、我こそはと思うレディはいるかな?」


 すると、その場にいた大半の女生徒が「はーいっ!」と挙手をした。

 キャルルは腕組みをしたまま「バカみたい」と毒づいている。


 ヴァイスは真っ先に、あるふたりの少女を探した。

 しかし、見当たらない。



 ――あの(●●)ふたりは特に清廉で慎ましいからな。

 きっと僕へのキッスを想像しただけで、恥ずかしくてここにはいられなくなったのだろう。


 まあ、いい。あのふたりは僕にとってはメインディッシュだ。

 楽しみというのは、最後までとっておくほうがいい。


 それに僕の輝かしいモテ男の歴史は、これから先も未来永劫に続くんだ。

 ここはひとつ前菜以下の女どもで、ガマンするとするか……。



 そしてヴァイスは、適当に女生徒を指名する。

 選ばれた少女たちは、ふたりとも「キャーッ!?」と狂喜していた。


 まるでオーディションのグランプリに選ばれたような、立っているのもやっとの足取りで、ステージへとあがってくる。

 ヴァイスはその腰に手を回し、夢見心地の少女たちを抱き寄せ、祝福のキッスを受け……。


 る直前、下々の者たちがざわめきはじめた。


「おっ、おい……見ろよ、アレ……」


「ま、マジかよっ!? ふたりにキッスされるだなんて……!?」


「うっ、ウソだろっ!? いやいやいや、いくらなんでもありえねえっ!?」


 ヴァイスは内心、あざ笑う。



 ――フッ、いまさらなにを驚いているのやら。

 天才であり、スポーツマンであり、イケメンであるこの僕が……。


 無職のゴミなど足元にも及ばない、賢者のこの僕が……。

 ふたりの女生徒とキッスすることなど、なんら珍しくはないことだというのに……。


 これだから、愚民どもは……!



 しかし唇が頬に触れる直前、ヴァイスは気付いた。

 誰ももう、自分を見ていないことに。


 観客たちの羨望のまなざしは、その上空に向けられていることに……!


「ま、まさかっ!? どけっ、このブスどもっ!」


 女生徒たちを乱暴に振り払い、天を仰ぐヴァイス。

 そこには、なんと……!


 水晶板に、真正面でドアップになった、レオピンの顔……。

 そしてその頬に唇を寄せる、あの(●●)美少女たちの横顔が……!


 賢者は愚者のように叫んでいた。


「うっ……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?

 レオピィィィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!」

「面白かった!」「続きが気になる!」と思ったら

下にある☆☆☆☆☆から、作品への評価お願いいたします!


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つでも大変ありがたいです!

ブックマークもいただけると、さらなる執筆の励みとなりますので、どうかよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みくださりありがとうございます!
↑の評価欄の☆☆☆☆☆をタッチして
★★★★★応援していただけると嬉しいです★★★★★

▼コミックス6巻、発売中です!
3yhrcih7iujm5f0tgo07cdn3aazu_49d_ak_f0_6ns3.jpg

▼コミカライズ連載中! コミックス6巻、発売中です!
jkau24427jboga2je5e8jf5hkbq_u0w_74_53_1y74.jpg r5o1iq58blpmbsj98lex9jb4g2_1727_3k_53_15fz.jpg 4ja22z6e9j8n5c6o2443laqx8b4v_136f_3j_53_14uc.jpg dm2ulscc6gwrdzc9cpyvkq7chn5k_wtf_3l_54_12fl.jpg l8ug24f47yvuk96t5a2n10cqlfd9_1e33_3l_54_104j.jpg jg166tlicmxb9n2r5rpfflel0ox_uif_3l_54_13bg.jpg cmau2113lvxuanohrju8z3y8wfp_8h9_3l_54_11ld.jpg
▼小説2巻、発売中です!
kwora9w85pvjhq0im3lriaqw3pv4_1al6_3l_53_11yj.jpg 2ql3dh0cbhd08b8y92kn9fasgs5d_7pj_3l_53_1329.jpg
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[良い点] せっかく前回誉めて上げたのに、やっぱりバカだったな。 ゲスい考えを捨てきれないかー、残念な男だねー ピエロは踊る、どこまでも…
[一言] 盛り上がってまいりました!
[一言] 新校長がヴァイスを称賛して仮に1年20組のクラスランクを入学当初のCランクに戻しても、ヴァイスの高圧的な態度・丸太崩壊事件とブラックパンサー襲撃事件によりヴァイス個人の責任で3ランクダウンし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ