09 魔術師の卵たち
09 魔術師の卵たち
校長と教頭は俺を見たとたん、気が触れたかのように城のほうへと走り去っていった。
突然の意味不明の出来事に、俺は唖然とするばかり。
「レベルアップとか目録とか言ってたけど……いったいなんだったんだ?」
しかしそんなことよりも、俺にはもっと気になっていることがあった。
それは『器用な転職』で選べる職業に、『ニンジャ』が追加されたことだ。
ニンジャというのは、東の国を発祥としている『暗殺者』の一種。
鍛え上げられた肉体と、精神修行から繰り出される技は『ニンジュツ』と呼ばれ、怖れられている。
この『王立開拓学園』にもニンジャは存在していて、1年2組のシノブコがそうだ。
「ニンジャといえば、上級職のひとつなのに……。
本当に、無職の俺がなれるものなのか?」
今まで転職可能な職業は、どれも下級職ばかりであった。
「とりあえず、家に戻って確かめてみるとするか」
モナカの家は完成したので、俺は住居用の敷地をあとにする。
森の家に戻ってから、さっそく転職してみた。
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レオピン
職業 大工 ⇒ ニンジャ
職業スキル
シュリケンスロー
手投げ武器の投げる速度、威力、命中率が向上する
イヅナスロー
対象を背後から拘束しての投げ技
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「ニンジャといえば『シュリケン』だよな」
俺は余っていた『ギスの木材』をナイフで削って、見よう見まねでシュリケンを作ってみた。
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ギスのシュリケン
個数30
品質レベル18(素材レベル9+器用ボーナス9)
高品質なギスの木材で作られた手投げ武器。
各種ボーナスにより、威力・命中率・飛距離にすぐれている。
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お手製のシュリケンで、さっそくニンジャ気分を味わうことにする。
構えた木の星型を、10メートルほど先にある木の枝に向かって投げつけてみた。
……シュパッ!
と小気味よく葉っぱが落ちる。
「おお、思ったより威力があるな。よし、次はもっと向こうの葉っぱを狙ってみよう」
俺は子供に戻ったような気分でシュリケンを投げまくる。
投げた15のシュリケンは百発百中だった。
「矢を投げ返したときもそうだったけど、『集中力』のステータスがあると、本当に狙った所に飛ぶなぁ」
我ながら感心していると、背後でガサガサと茂みを破る音がする。
振り返ってみると、魔術師のローブを羽織った男子生徒の一団が、俺の家に近づいてきていた。
「なにか用か?」
先頭にいた男子生徒に声をかけると、彼は馴れ馴れしい口調で言う。
「やあやあ、キミ、レオピンくんだよね? キミに特別に、火をあげようと思って」
すると、後ろにいた生徒たちが抗議の声をあげる。
「おい、ナスオくん、どういうことだよ!?」
「火をくれるからってキミについてきたのに、レオピンみたいな落ちこぼれに最初にやるだなんて!」
ナスオと呼ばれた男子生徒は、「まぁまぁ」と皆をなだめる。
「そう慌てないで、みんなにもちゃーんと火をあげるからさ」
『火』というのはサバイバルにおいて、『飲み水』の次に大事なものとされている。
このナスオは格好からして魔術師のようだから、初期呪文である『発火』での火起こしに成功したのだろう。
その力をもったいつけて、生徒たちの気をひいているようだ。
ナスオは俺に向き直ると、『発火』の呪文を見せびらかすように披露。
何回か失敗した後、手にした木の枝を燃え上がらせる。
そして火の付いた枝を「欲しいかい?」といわんばかりに振った。
「欲しいなら土下座して、欲しいって言ってごらんよ、レオピンくん。
大魔術師のナスオ様、どうか火をおめぐみください、って!」
「いきなりやって来て、なんなんだお前は? 火なら自分で起こせるからいらないよ」
火起こしくらいならレンジャーの『生存術』があれば簡単だ。
断ると、ナスオはあからさまに不機嫌になった。
どうやら、期待していたリアクションでは無かったらしい。
「ま……またまたぁ、そんな強がっちゃって! ほら、あげるよっ!」
と、燃え盛る木の枝を、俺の家の窓から中に放りこんだ。
そしてひとりで高笑い。
「あははははは! みんな! これからこの家が燃えるから、その火を持ち帰ると良いよ」
取り巻きの生徒たちも笑った。
「なるほどぉ、そういうことだったのか!」
「ゴミ野郎が僕たちの家を倒して知らんぷりしてたから、懲らしめにきたんだね!」
「さすがはナスオくん! 将来の大魔術師と言われるだけはあるなぁ!」
俺は別になにもしなかったのだが、生徒たちは一致団結して、俺を家に入れまいと通せんぼしてきた。
「おおっと、レオピンくん! 中に入って消そうったってそうはいかないよ!」
「そうそう、僕たちの家を倒したキミが悪いんだ!」
「そこで泣きながら、自分の家が燃えるところを眺めているといいよ!
僕たちの哀しみの10分の1でも思い知るがいい!」
しかし、家はいつまで経っても燃えだすことはなかった。
窓から家の中を覗き込んでいた生徒が、悲痛な声で叫ぶ。
「ええっ、なんで!? 火が消えちゃってる!?」
「ウソだろ!? どうして!? 床に焦げあとひとつついてないだなんて……!?」
「そんなバカな!? 僕の起こした火が、ゴミ野郎の家に負けるだなんて、ありえないよ!?」
「お前らは本当に、人の足を引っ張ることしか考えてないんだなぁ。
俺の家は『耐火』能力があるから、簡単には燃えないんだよ。
それに、そんなに火が欲しけりゃくれてやるよ」
俺は呆れ果てながら、足元に落ちていた木の枝と植物のツタを拾い集める。
木の枝に植物のツタを巻き付け、土台となる切り株の上に立てた。
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ヒロエダの火起こし台
個数1
品質レベル10(素材レベル1+器用ボーナス9)
ヒロエダの枝と切り株、ツルクサソウのツタを組み合わせて作った火起こし台。
簡易な作りだが、各種ボーナスにより、火を簡単に起こすことができる。
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あとは、火起こし台のツタの端を両手で持って、交互に引っ張ってやれば……。
……シュゴォォォォォォォ!
木の枝は高速回転し、あっという間に火種ができた。
あらかじめ準備しておいた枯葉に引火させ、焚火をつくる。
周囲の生徒たちは、手品でも見たかのように呆気に取られていた。
「えっ!? な、なに、今の……!?」
「一瞬で火を作りやがった!? まさか、魔術師だったのかよ!?」
「いや、詠唱が無かったから、今のは魔術じゃない!」
彼らは我に返ると、急に腰が低くなった。
「ね……ねえ、レオピンくん。その火、少し分けてもらえないかなぁ?」
「そうそう。そろそろお昼時だろ? 食事の準備をするために、クラスに火を持って帰らないといけないんだよぉ」
「ナスオはもったいつけるばかりで、ぜんぜんくれなかったけど……キミは違うよねぇ?」
俺は燃え盛る炎ごしに、お調子者たちを眺め回すと、
「ああ、俺はぜんぜん違うさ。お前らとはな」
……シュパッ!
と八方にシュリケンを投げつけた。
焚火を突っ切ったシュリケンは炎の散弾となって、お調子者たちのローブの裾に突き立った。
「うわあっ!? なんてことするんだ!? 燃えるっ!? 燃えるぅぅぅぅーーーーっ!?」
彼らはすぐさま叩き消そうとしたが、その中のひとりが叫んだ。
「ま、待て! 大切な火を消すんじゃない!
消す前に木の枝に燃え移せば、持ち帰れるぞ!」
「そうかっ! そしたら僕たちはヒーローになれるっ!
あちちちっ!? ガマンだっ! ガマンだぁーーーーっ!」
魔術師の卵たちは、素足で焼けた鉄板の上にいるみたいに足をバタつかせていた。
俺の家のそばに積み上げてあった、『ギスの木材』を勝手に取り、火を燃え移そうとしている。
「いや、その木材は耐火性能があるから、いくらやっても……」
しかし誰も聞く耳を持たない。
俺の目の前では、まるでセルフ火刑のような光景が繰り広げられていた。
火だるま寸前の姿で、絶叫しながら炎と格闘している。
しばらくして火が燃え尽きると、ローブの丈は超ミニスカートくらい短くなっていた。
どこも火傷はしていないようだったが、火も手に入らずに泣き崩れている。
「うっ……ううっ! ゴミの家を燃やして、ヒーローになってやろうと思ってたのに……!」
「まさか、まさか、僕たちのローブが燃やされちゃうだなんて……!」
「うわぁぁぁぁんっ! ママぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
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