83 最高の祝福
83 最高の祝福
『おめでとう オネスコ! レオピン』
空を埋め尽くす、祝福のメッセージ。
これは驚天動地の驚きを持って迎えられていた。
「う……うそ……」と、空を見上げたまま硬直するオネスコ。
精気を失った瞳が、七色の照り返しを受けている。
まるでその輝きが乗り移ったかのように、瞳に光が戻ってきた。
「うそっ!? うそうそうそうそっ!?
うっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?
すごいすごいすごいっ!
すっごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!!!」
もはや夢か現実かもわからない、しかし歓喜に満ちた瞳。
オネスコは魔導拡声装置を構え直すと、空を指さした。
『みなさん、ごらんください! あの人です! あの人が、私に聖騎士の試練を乗り越えさせてくれたんです!
わたしの、白馬の王子様ですっ!』
ステージの下にいる記者たちは、空に向かって魔導真写装置を構えている。
「す、すげえっ!こんな花火、初めて見た!」
「世界最大級の花火大会でも、こんなやべぇ花火は拝めねぇぞ!」
「作ったのは、レオピン……!? 聞いたことねえ!」
「きっと、相当優秀な花火職人の生徒に違いない!」
「明日の一面は、伝説の聖騎士のオネスコと、伝説の職人レオピンのダブル特ダネだ!」
来賓客たちは、首が固定されてしまったかのように、あんぐりと空を見上げている。
「う、美しい……! こんなに壮大で美麗な花火は、初めて見た……!」
「宮廷の花火職人でも、これほどの花火は打ち上げられまい……!」
「レオピン……! いったい、何者なんだ……!?」
「いずれにしても、将来はきっと、世界を代表する職人になるぞ!」
「そうだな! 一般公開されたら、すぐに彼に投資をしなくては!」
支援者たちは、呆気に取られていた。
そしてつい、「素晴らしい……!」と漏らし、ハッと我に返る。
一斉に、校長と教頭に厳しい視線を向ける。
その殺気すら感じさせる眼差しに、校長と教頭は「ひいっ!?」とふるえあがった。
「は、ハゲデブっ、なんとかするざます! 花火はハゲデブの担当だったざます!」
「は、ハゲデブであると!? 貴様っ、校長であるこの我輩に向かって……!」
「いいから早くなんとかするざます! でないと、わたくしどもはオシマイざますっ!」
「ぐっ……!」
顔いっぱいに青筋を浮かべながら、あたりを見回す校長。
そして楽団の隣に控えていた集団に、「そうだ、この手があったか!」と閃く。
「花火職人たちよ! 予定を前倒しにして、花火大会を始めるのである!
それにプログラムも無視して、『ケンカ花火大会』にするのである!
とにかく、打って打って打ちまくって、あのいまいましい『レオピン』の文字を消し去るのである!」
この世界には『ケンカ花火』というものがある。
打ち上げ花火どうしをぶつけあって、相手を消し去って空に残ったほうが勝ち、というものである。
そう。校長がとった対抗手段は、『花火の上書き』であった。
「こっちには、プロの職人が10人もいるのである!
たったひとりの無職が打ち上げた花火など、ゴミクズのように消し去ってくれるのである!」
花火職人は小さな砲台のような花火筒を構え、一斉射撃を開始する。
……ばしゅっ! ばしゅっ! ばしゅっ!
鋭い発射音とともに、無数の光弾が放たれ、『レオピン』の文字に襲いかかった。
……ずだん! ずだん! ずだん! ずだぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーんっ!!
銃声のような爆音とともに、ハチの巣になる『レオピン』。
校長は高らかに笑った。
「ばはははははは! 我輩の力にかかれば『レオピン』など、ひとたまりもないのである!
優秀な校長とただの無職では、勝負はわかりきっていたのである! ばーっはははは……は……」
しかしその高笑いは線香花火よりも儚く、汚い花火よりも醜く散った。
「にっ……にぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?
な、なんで、消えないのであるか!? なんでなんで、まだ空にあるのであるかぁーーーーっ!?!?」
あれほどの花火の集中砲火を浴びたというのに、『レオピン』の文字はいまだに燦然と輝いている。
すっかり花火大会の見物客と化した来客たちは、「おおーっ!?」と歓声をあげた。
「すげえ!? ケンカ花火にも勝つだなんて!」
「あのレオピン花火、綺麗で大きいだけじゃなくて、強いのね!」
「マジかよ!? 普通は花火の強さと美しさは反比例するってのに!」
「しかも相手はプロで、10人がかりだぞ!」
「プロの花火だから、きっとレベル10はくだらないだろう!
その10人分を跳ね返すってことは、あのレオピン花火のレベルは……」
「ひゃっ、100ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「そんな馬鹿な! レベル100の花火なんてあるはずがない!
しかもそれを学生が作るだなんて、絶対にありえない!」
「や、やばい! やば過ぎるぞ!
もし本当にレベル100の花火なんだったら、ケンカ花火の世界チャンピオンですら、レオピンには子供扱いされちまう!」
「こりゃ、とんでもないバケモノが現れたな! こうなったらなんとしても、レオピンの姿を真写におさめないと!」
立食パーティの生徒たちは、みな大地震が来たかのように、テーブルの下に潜っていた。
「う、ウソだウソだウソだウソだっ!」
「無職のゴミ野郎があんな立派な花火を打ち上げるだなんて、ありえねえ!」
「きっと、伝説の花火職人を脅して作らせたに違いない!」
「そうだ! それか俺たちが幻覚を見せられてるだけなんだ! ヤツの薬の力で!
その薬は、伝説の錬金術師を脅して作らせたに決まってる!」
「とにかく見るな! 見ちゃだめだ! 見なかったことにするんだ!
そうすれば、俺たちは負けてねぇ! ヤツには負けたことにならねぇんだぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」
場内はもはや、しっちゃかめっちゃか。
あちこちで阿鼻叫喚、悲喜こもごもの悲鳴が交錯している。
主賓の少女は、自分が主役のパーティをめちゃくちゃにされてしまった。
しかし怒るどころか、まるで小さな子供のように、ぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃいでいる。
「やったやった、やったーっ! レ…彼の花火、さいっこぉーーーーっ!
ありがとう、王子さまーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
少女は全身から無数のハートを散らし、空に飛ばす。
満開のレオピン花火に、さらなる彩りを添えていた。
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