80 チケットからも見放され
80 チケットからも見放され
オネスコの偉業を讃える記念式典には、多くの支援者たちが賛同。
多額の寄付金が寄せられ、盛大に行なわれることとなった。
式場は『王立開拓学園』校庭が使われ、豪華に飾り付けられる
リークエイト王国内限定ではあるものの、多くの有力者や記者たちが訪れていた。
『王立開拓学園』の立地は極秘とされており、その場所は明らかにされていない。
長距離を一瞬にして移動できる魔法『転移の魔法陣』も、普段は学校関係者しか利用できないように秘匿化されている。
しかし今日だけは特別に解放。
校長と教頭はホストとして、来賓客を迎えるゲートの前でひっきりなしに揉み手をしていた。
「ようこそ! ようこそお越し下さったのである!
我輩がこの学園の校長にして、オネスコくんを育てたネコドランなのである!」
「イエス! 校長のサポートも少しはあったざますけど、わたくしめこそが、オネスコさんをメインで指導したイエスマンざます!」
校長と教頭は肘でお互いを突き合いながら、アピールに余念がない。
「大事な息子さんや娘さんを、ぜひ我輩の元に預けるのである!」
「そうしたら、わたくしめが立派な生徒にしてみせるざます!」
ふと、校長と教頭の前に、ある支援者が足を止める。
瞬間、ふたりは直立不動となった。
「ヒイッ!? おっ、お越しくださり、光栄の極み!」
「もっ、もちろん、あのゴミはシャットアウトしております! 『レ』の字すらも入り込むことはできませんっ!」
ふたりとも、いつもの語尾すらも忘れてしまうほどに恐縮している。
支援者は無言で頷くと、ウエルカムゲートを抜けていく。
駆けつけたスタッフによって、『ロイヤルVIP』と書かれた入口へと通されていた。
デコボココンビは、「ふぅ……」と胸をなで下ろす。
「あ……あのお方の前だと、生きた心地がしないのである……」
「イエス……校長なんて、ヘビに睨まれたウシガエルみたいになってたざます……」
ゲストが揃ったところで、記念式典がとり行なわれた。
会場内にはステージがあり、その周囲は記者たちで埋め尽くされている。
そこから少し離れたところに来賓席があり、白いクロスのかかったテーブルに、着飾ったゲストたちが着席。
豪華な食事が振る舞われている。
その両脇は立食形式のブースとなっていて、ひさびさのごちそうに大喜びしている全校生徒たち。
そのなかでも上位クラスの生徒である、モナカやコトネたちは、ガラス張りの特別室の中にいた。
やがて、ステージイベント開始を告げる花火が空を彩り、楽団による生演奏が始まる。
会場じゅうの大きな拍手とともに、オネスコ、校長、教頭が登壇した。
司会進行は教頭がつとめる。
小指を立てて『魔導拡声装置』を握りながら、咳払いをひとつ。
『オッホン! オネスコさんが入学式で、騎士という職業を授かったときに、わたくしめはピンときたざます!
この優秀な生徒は、ダイヤの原石であるざますと! それからわたくしめのは、彼女に特別な指導をしたざます!
時にはきびしく、時にはやさしく……。そしてふたりで誓ったざます!
聖騎士への階段を、ともに登っていくことを……!』
教頭だけでなく、校長もめいっぱい時間を使い、これは自分の手柄であることを来賓に向かってアピールした。
その様子を、オネスコはキョトンとした様子で眺めている。
『最後にオネスコくんの功績をたたえ、1年2組はツーランクアップとするのである!』
1年2組 B+ ⇒ A
『さぁオネスコくん、今の喜びと、我輩への尊敬を、みなに伝えるのである!』
そしてついに、拡声装置がオネスコに向けられた。
オネスコは拡声装置を受け取ろうとしたが、教頭は「わたくしめが持ってあげるざます」と拒否。
仕方なく、そのままお礼の言葉を述べた。
『来賓のみなさま、今日は私のためにお集まり下さり、本当にありがとうございました。
私は聖騎士になることが夢だったのですが、まさかこんなに早く、最初のステップを上がることができるとは思ってもいませんでした。
これもひとえに、ある人のおかげです。ううん、すべてはあの人がいてくれたからです』
教頭は向けていた拡声装置を自分に向け、『それは、このわたくしめざますよね!』と割って入る。
オネスコは顔を左右に振りながら、きっぱりと言った。
『いえ、違います』
『やはり、この我輩なのである!』と校長がさらに割り込んでくる。
『いえ、ぜんぜん違います。私が試練を乗り越えられたのは、レオ……』
『きっ……きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!』
おなじみの奇声は、拡声装置を通していたので、いつもより破壊力があった。
会場中に落雷が落ちたようになる。
グラスにピシリとヒビが入り、来賓客は耳を押えて縮こまっていた。
いつもであれば、教頭はここでノックアウトされてしまうのが通例なのだが……。
今日の彼は、ひと味違っていた。
教頭は裏切り者を見るかのように、ギロリッ! と目を剥く。
拡声装置を背中に隠して声が漏れないようにして、オネスコにドスを効かせた。
「やっぱり、オネスコさんもあのゴミに、弱みを握られていたざますね……!
モナカさんの付き人ざますから、もしやと思って正解だったざます……!
もしその名前を口にしたら、ひどい目に遭うざますよ……!」
「ええっ!?」
オネスコはギョッとなったが、すぐに言い返す。
「わ……私は、弱みなんて握られてません! 本当に、あの人が助けてくれたんです! レオピ……」
「きぇぇぇーーーっ! まだ言うざますか! ならば、こっちにも考えがあるざますっ!」
教頭はバッ! と飛び退くと、タキシードの懐に手を突っ込んだ。
「これだけは使いたくなかったざますが、仕方がないざます!」
……シュバッ! と懐から抜かれた手は、ピストルのような形をしていた。
その指先に挟み込まれていたのは……。
「そ、それは……私のチケット!? しかも、2枚も!?」
「そうざます! オネスコさんが、購買で使ったものざます! これを使って、命令するざますっ!」
教頭はニタリと笑いながら、指でつくったピストルの親指を、撃鉄を引きしぼるように立てた。
「スレイブチケットの効果発動! オネスコさんへの命令は……!
『レオピン』という単語、およびそう聞こえる単語の発音と筆記を、一生禁じるざますっ!」
「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
ついに、レオピン以外の人間が、この悲鳴を引き出してしまった。
教頭の顔は、邪悪な笑い仮面のように歪んでいる。
――や、やったざます……!
ついに、ついに……! あのゴミを、封じ込めたざます……!
勝った……! これでわたくしめの、勝利ざます……!
あとは、この命令を解除するかわりに……。
あのゴミのかわりに、わたくしめの名前を、オネスコさんに連呼させるざます……!
そうすれば、あのゴミに……!
完・全・勝・利っ……!
しかし、それも幻であるかのような一瞬の栄華に過ぎなかった。
教頭の指先にあったチケット、そのオネスコの肖像画が、ふるふると首を左右に振ったのだ。
なんと、命令拒否っ……!?
結局は、やっぱり……!?
「きっ……きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
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