08 いい家を建てたで賞
08 いい家を建てたで賞
ところ変わって、『王立開拓学園』の校舎。
豪華なつくりの城内でも、ひときわ贅を尽した室内に、ふたりはいた。
「ノーッ! いやはやまったく! まさかあのゴミと、モナカさんが幼なじみだとは思わなかったざんすねぇ!」
「フン! おかげで賞がひとつ台無しになってしまったのである!
受賞者がなかった賞の賞金は、支援者に返還せねばならんというのに……!」
校長と教頭は、何かと理由を付けて、支援者から金をふんだくろうとしていた。
今回の場合は、各賞を設け、賞金を生徒たちに与えるやり方である。
賞金はいったんは生徒たちの手に渡るものの、学園生活を通じて消費され、最終的には校長の懐におさまるというカラクリであった。
しかし校長と教頭は、初めての賞であった『モナカさんとラブラブ賞』をレオピンに渡さなかった。
なぜならば……。
「特別養成学級の者に、賞をやるわけにはいかないざますしねぇ。
そんなことをしたら、あっという間に持ち逃げされてしまうざます」
そう。『特別養成学級』は、ようは『追い出し部屋』である。
いつ辞めるかもわからない生徒に賞金など与えたら、間違いなく追い銭になってしまう。
エリートの校長と教頭にとって、落ちこぼれに金をやるなど、盗人に金をやる以上の屈辱だったのだ。
「しかし、過ぎてしまったことはしかたがないのである。
今回のことは、ゴミにつまずいたと思ってあきらめるのである」
「イエス! さすがは校長、とっても前向きざます! ダテに腹が前に飛び出てないざます!」
「ところで教頭、次の賞の準備はできているであるか?
そろそろ初めての賞を与えないと、支援者から苦情がくるのである」
「もちろんざます! 次は、『いい家を建てたで賞』ざます!
これから居住用の敷地を巡って、いちばんいい家を建てた生徒に賞をあげるざます!」
「ふむ。それなら今度こそ、受賞者が出そうであるな。
でも万が一、あのゴミがいい家を建てるなんてことは……」
「そのことなら心配ご無用ざんす!
無職のゴミに建てられる家なんて、犬小屋が精一杯ざます!
しかも、あのゴミの敷地は、森の中に移しておいたざます!」
「なるほど、それならあのゴミがどんな家を建てようが関係ないであるな。
我輩たちが視察せねばいいだけの話であるからして」
校長と教頭は、顔を見合わせニタリと笑いあう。
「「今度こそ、1千万は我々の手に……! イッヒッヒッヒッ……!」」
ふたりは校長室を出て、城の外にある住居用敷地へと向かう。
しかし城を出たとたん、ふたりの目に飛び込んできたのは……。
「お……おおっ!? 見るのである、あの家を!」
「ざますっ!? 2階建ての家ざますっ!?」
「この、資材も道具もなにもない状況で、あれほどの家を建てるとは……!
見よ、まわりの掘っ立て小屋など、ゴミのようである!」
「将来は、とんでもない建築家になるのは間違いない人材ざます!」
「もはや審査の必要などないのである! あの家を建てた生徒に、賞金をあげるのである!
そしてその生徒の優秀さを、支援者にこれでもかとアピールするのである!」
「はいざます! あれほどの家を建てられる人材なら、支援金もガッポガッポざます!
「さよう! あの家を建てた生徒こそが、まさに金の卵なのであるっ!」
ふたりは意気込んで、2階建ての家へと向かう。
その家には、1年2組の女生徒たちがいた。
「おおっ!? この家は、1年2組の家だったであるか!」
「未来の大聖女、モナカさんに相応しい住まいざんすねぇ!
きっとスーパーボーイがモナカさんにプレゼントした家なんざます!」
モナカはハツラツと答えた。
「はい! わたしがいちばん尊敬、そして敬愛しているお方が、この家を建ててくださったのです!」
「ほほう!? ということは、将来を誓い合った仲であるか!?」
「そっ、そういうわけでは……。もちろん、あの方がお許しくださるのであれば、わたしは……」
モジモジするモナカに、校長は「これはイケる」と確信。
こっそり教頭に耳打ちした。
「モナカくんのこの反応からして、きっとスーパーボーイといい仲なのである。
ならば『モナカさんとラブラブ賞』も、いっしょに渡してしまえるのである」
「なるほど、さすが校長! ダテにテカテカな頭じゃないざます!
もちろん、目録はいつも持ち歩いているざます!」
教頭はすかさず内ポケットから、ふたつの目録を取り出す。
そしてウキウキと尋ねた。
「モナカさん! 我々はそのスーパーボーイに特別賞をあげたいと思っているざます!
しかも、ダブルでざます!
とっても名誉あることざますから、恥ずかしがらずに、その憧れの人の名前を教えて欲しいざます!」
「はっ、はい……! そのお方のお名前は……レオくん……! レオピ」
「きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
教頭が突如、狂った怪鳥のように叫びだしたので、モナカはビクッと身を縮こませてしまう。
校長にいたってはふたつの目録をビリビリに引き裂き、沸騰したヤカンのような顔で家の外に飛び出していった。
敷地内の生徒たちは、倒壊してしまった家を建て直している真っ最中。
そのふがいなさに、校長と教頭は地団駄を踏みまくった。
「ぎにににっ……! モナカくんの家以外は、すべてゴミとはっ……!
これもなにもかも、あのゴミのせいなのであるっ!」
「まさかあのゴミが、こんな所までしゃしゃり出てくるとは思わなかったざます!
森の中でひとり寂しく、ゴミにまみれているのかと……!」
「こうなったら教頭、次の賞を用意するのである!」
「はいざます! それならすでに考えているざます!
次は『最初にレベルアップしたで賞』ざます!」
「おお、そういえばそろそろ、最初のレベルアップ者が出る頃合いであるな!
活躍の度合からいって、クラスのリーダーあたりが……」
ふと校長と教頭は、視界の隅のあたりで、宝石箱を開いたときのような光を感じる。
ふたりはパッと顔を見合わせあったあと、脊髄反射のように叫んだ。
「「レベルアップおめでとう! さぁ、この目録を……!」」
しかしそこにいたのは、彼らがいまもっとも会いたくない生徒。
そう、レベル4になったばかりの、レオピンであった……!
「きっ……きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
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