74 さらにふたつの宝石
74 さらにふたつの宝石
俺の投げた宝石を、命の雫のように両手で受け止めるオネスコ。
自分の手元と俺の顔を交互に見つめては、何度も目を瞬かせ、これは夢なんじゃないかとブンブン頭を振っていた。
やがて、掠れた声をなんとか絞り出す。
「げっ……原石を、加工、しちゃったの……?」
「ああ」と俺は短く答える。
オネスコは改めて視線を落とし、俺の加工した『ウォーターマリン』を見つめる。
やがて、事の重大さに気付いたかのように、ハッと顔を上げると、
「うっ、うそっ、うそっ、うっそぉ!? ほ、本当に原石を加工しちゃったの!?
宝石を加工するのって、すごく難しいのよ!? 無職のはずのあなたに、なんでそんなことが!?」
「たしかに俺は無職だ。本職には及ばないかもしれないけど、出来は悪くないだろ?」
「本職には及ばないって、うそでしょ!? こんなに奇麗にカットされてるのに!?
無職のくせして、なんてことをしてくれたのよ!?」
「俺をけなしたいのか褒めたいのか、嬉しいのか嬉しくないのか、どっちなんだよ。
まあとにかく、それで柄に嵌められるはずだぞ」
オネスコは弾かれたように視線を落とす。
鞘から抜いた剣、その柄の窪みに、いそいそと青い宝石をあてがった。
すると、宝石はまるで磁石で吸い寄せられるかのように、
……カチィィィィィィーーーーーーンッ!
と柄にはまり込んだ。
瞬間、剣全体がうっすらとした青い光に包まれる。
「す、すごい……!」と息を呑むオネスコ。
「下手な加工だと、宝石は嵌まらずに、ノリづけしないといけないのに……。
まるで剣が迎え入れるみたいに、宝石を受け入れた……!?」
そして、ワナワナと震えはじめる。
「し、信じられない……! この私が、こんなに早く最初の宝石を手に入れられるだなんて……!
宝石を手に入れるのに、1年はかかるだろうって、覚悟してたのに……!
まさか入学して、1ヶ月もかからないうちに成し遂げちゃうだなんて……!
それに原石は手に入ったとしても、加工できる生徒が現れるまで、早くても3年はかかるだろうって、覚悟してたのに……!
まさかまさか、1時間もかけずに加工出来ちゃう生徒がいるだなんて……!」
その声は、すっかり震えていた。
彼女はウオーターマリンの宝石かと思うくらい、潤みきった上目で俺を見つめると、
「あっ……ありがっ……!」
今度は俺が、人さし指で遮った。
「おっと、大事な盟約なんだろ? だったらもっと大切な人のためにとっておくんだな。
それに宝石を加工したのは俺だが、その功績のほとんどはトムのおかげだ。
トムがいなかったら、手も足も出なかっただろうな」
トムは「ぴゃあ!」と嬉しそうに鳴きながら岩から跳躍、オネスコの傍らに着地した。
「とっ……トムくぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!」
ひしっ! とトムに抱きつくオネスコ。
そのままトムを押し倒し、お腹に顔を埋めてグリグリやっている。
俺は立ち上がって伸びをひとつして、木漏れ日を仰ぐ。
「さて、ちょっと探してみるか」
うつぶせになったままのオネスコから「探すって、なにを……?」とくぐもった声が聞こえる。
「グリフォンバードの巣だよ。たぶん、このあたりにあるんじゃないかと思って」
俺はニンジャに転職し、手近な木をよじ登りはじめる。
それに気付いたトムがオネスコの押さえつけから抜けだし、「ぴゃあ!」と後に続く。
「トムは木登りが得意だったんだよな。じゃあ、一緒に来るか」
「ぴゃあ!」
ワンパク坊主ふたりをたしなめる優等生のような声が、地上からおこる。
「レオピンくん!? 木に登ってなにをするつもりなのよ!?」
「さっき言っただろ、グリフォンバードの巣を探すんだよ」
「本当にあるの!? それに、探してどうするつもりなのよ!?」
「まあ、いいから見てろって」
「危ないわよ! 落ちても知らないんだから! トムくんも、こっちにいらっしゃい!」
俺とトムはオネスコの警告を無視し、するすると木に登っていく。
綱渡りのように枝の上を渡ると、「キャーッ!?」と悲鳴がした。
「本当にやめて! 落っこちたら大変よ!?」
俺はおっとっと、と枝の上でバランスを取りながら答える。
「お前も心配性なんだなぁ、モナカにそっくりだよ。
子供の頃、俺が木に登るたびに、モナカは下で大騒ぎしてたんだよな」
「やっぱり、昔からモナカ様に迷惑をかけてたのね!?
それに、モナカ様が大騒ぎしたのは当然のことでしょう!? あなたのことが心配だったのよ!」
「ってことは、オネスコも俺のことを心配してくれてるんだな」
「ば……バカっ! そんなわけないでしょ!
私はトムくんのことを心配してるの! あなたのことなんて、別にっ……!
あなたみたいな無職、落ちて死んだってなんとも思わないわっ!」
と、俺はとある大樹のウロの中に、キラリと光るものを目にした。
ウロの中には枯れ草が敷き詰めてあって、鏡の破片や銀製のカトラリーなどが散らばっている。
「見っけ!」と俺は枝をしならせ、ジャンプしてその木に飛び移る。
「いやあっ!? う、ウソよ! 死なないでっ!」と死にそうな声が下から響いた。
「グリフォンバードの巣、見つけたぞ!」
枝の上から足下を覗き込むように報告すると、オネスコは俺を見上げたまま固まっていた。
手で口を覆い、胸をぎゅっと押えている。
「その仕草も、なんだかモナカにそっくりだな」
「そ、そう……。そんなことよりも、もういいでしょう? 危ないから、降りてきて……」
「そういうわけにはいかない。ここからが本番なんだ」
「レオピンくんは、さっきからいったい何をしようとしてるの?
グリフォンバードって鳥でしょう? 鳥の巣にあるのって、せいぜい卵くらいのものでしょう?
それを、ケガするかもしれない危険をおかしてまで、取りに行くだなんて……」
俺はウロの中にある巣を、物色しながら答える。
「岩の隙間にあった原石を見たとき、俺は思ったんだよ。なんで宝石の原石がここにあるんだろう、って」
「そういえば、そうね……。でも、誰かが落としたとか、そんなことじゃないの?」
ハッと何かに気付いたような声が、足元からする。
「もしかして、落としたのは……!?」
「そう。グリフォンバードってのは、光るものを収集する習性があるんだ。
オネスコに襲いかかってまで原石を奪おうとしたのは、もしかしたらヤツが元々の持ち主なんじゃないかと思ってな。
それにヤツが『落とした』のであれば、すぐ上のほうに巣があるってことを意味する」
俺の予想は的中していた。
そして原石を落とすようなグリフォンバードなら、きっと……。
「おっ、あったぞ! 黄色い原石と赤い原石もゲットだ!」
「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
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