65 走れレオピン
65 走れレオピン
『特別養成学級 専用休憩所』から、スッキリした様子で出てきたレオピン。
肌つやすらも良くなったその姿を、教頭は歯ぎしりをしながら睨んでいた。
――ぐぎぎっ! あのゴミに、『地獄の一丁目』を見せてやろうと思ったざますのに……!
まさか、応援が駆けつけるだなんて、予想外だったざます……!
しかしここでいい思いをした分、この先の地獄がもっともっと辛くなるはずざます……!
教頭は、執念に燃えながら入念にストレッチしている男子生徒たちに視線を移す。
――今回は絶対に負けられない戦いざますから、学園の運営資金をたっぷり使って準備したざます……!
まず、こっちの補給所にあった水の中には、『持久10倍』のポーションを混ぜてあるざます……!
生徒たちの『持久』は、平均で50ポイント以上の精鋭揃い……!
中には超高校生級のパラメーターを持つ、優秀な子もいるざます……!
それが今や、ポーションの力で500ポイント……!
もはや、疲れ知らずといっていいざます……!
そのぶん副作用が大変なことになるざますが、知ったこっちゃないざます……!
教頭はさらに、彼らの足元を見つめる。
――しかも、それだけではないざます!
特別なランニングシューズに履き替えさせたざます……!
なんと、『俊敏10倍』のマジックアイテム……!
ついには『俊敏』のパラメーターまでもが、500ポイントになっているざます……!
まさに、走るオバケたちざます……!
下手すると足が無くなって本物のオバケになっちゃうざますけど、知ったこっちゃないざます……!
教頭は再びレオピンを見据え、ニヤリと笑った。
――この走るオバケたちが、お前を本当の地獄へと導いてくれるざますよ……! ムホホホホホ……!
彼は知らない。
もしかしたら、この先も知ることがないかもしれない。
新しいロープを腰に結びつけている少年が、どれほどのステータスを持っているかを。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
生徒たちは再び、ロープによって数珠繋ぎとなった。
中心となったニックバッカが叫ぶ。
「ミート! それでは『地獄マラソン』の続きといくぞ!
しかしその前に、ルールを少し変更する!
この先の休憩所は、すべて利用不可とし、全員がブッ倒れるまでマラソンを続ける!
また、応援の類いは一切不可とする!」
教頭がすかさず合いの手を入れる。
「イエス! そういうわけざますから、ドマンナ先生とは、ここでお別れざます!」
窓から顔を出していたモナカとコトネが「えーっ」とあからさまに不服そうな顔をする。
「そんな、教頭先生! わたしたちはレオくんを応援しながら、いっしょについてくつもりでおりました!」
「左様でございます! そのために、このちやがーるの扮装をさせていただいたのでございます!」
「ノーッ! キミたちがいたら、『天国マラソン』になってしまうざます!
それは今回のマラソンの主旨に反するざます! 大人しく帰るざます!」
しかしそれでもふたりの少女は「え~っ」と食い下がる。
「モナカ、コトネ、俺のことなら心配いらないから、先に戻っていてくれ。
ふたりの気持ちはじゅうぶんに受け取ったから、ゴールまで休まなくても平気だ。ありがとうな」
レオピンがそうなだめてようやく、少女たちは納得した。
「それじゃ、スタコラッと帰るとしますか! レオピンくん、ズドンってがんばって! はいやーっ!」
ドマンナが駆る馬車が、風のように去っていく。
教頭は今更ながらに「ギャッ!?」と叫んだ。
「休憩所が廃止になった以上は、わたくしがすることもなくなったざます!
ドマンナ先生! わたくしも乗せてくざますぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーっ!!」
小さくなっていく馬車を必死の形相で追いかける教頭。
その頃にはもう、ニックバッカはスタートを切っていた。
そして再開される『地獄マラソン』。
レオピン以外の参加者たちはドーピングしていたので、軽い気持ちで走っただけで、ドマンナの馬車ばりの速さになっていた。
「おおう、気合い入ってるなぁ」とノンキにその後からついていくレオピン。
レオピンが本物の耳栓をして、なにも聞こえないのを良いことに、生徒たちは笑いあう。
「へっ、そうやっていられるのも、今のうちだぜ!」
「今は手加減してやってるとも知らずに、マヌケ面でノロノロと走ってやがるぜ!」
「今の俺たちは、まさに走る疾風だ!」
「これから出す全力に、ついてこれるかな!? いや、無理だろうな! なんたって、『俊敏』500だっ!」
「さあ、引きずり倒してやるぜっ!」
……ザッ……!
先頭集団は示し合わせ、一斉に地を蹴った。
競走馬のように、脇目もふらずに走り出す。
「ヒョーッ、すげぇスピードだ! こんなの初めてだぜ!」
「そりゃそうだ! 陸上競技では禁止されてるシューズを履いてるんだからな!」
「それに、これだけの速度で走ってるのに、ぜんぜん息切れしねぇ!」
「そりゃそうだ! どんな競技でも禁止されてるポーションを飲んでるんだからな!」
「にくくくくく! 諸君! ヤツは今頃、ボロ雑巾のように引きずり回されているはずだ!
その様をとくと楽しみながら、ウイニングランといこうではないか!
それでは、一斉に振り返るぞ! せぇーのっ!」
このあとの反応は、もはや言うまでもないだろう。
「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
先頭集団の男たちは、目玉と舌がどこかに飛んでいきそうなほどに仰天していた。
後続のレオピンとの距離は、再スタート時と全く変わっていない。
それどころか表情すらも、間違い探しかと思うほどに一緒であった。
ウォーミングアップの、軽いマラソン……。
いや、休日の散歩を楽しむかのような、爽やかな顔のまま……!
「うっ……!? ウソだろっ!? なんでついてこれるんだよっ!?」
「いまの俺たちのスピードは、プロの陸上競技選手以上なんだぞ!?」
「なっ、なんなんだよ!? なんなんだよアイツはっ!?」
「みっ……ミート! いいや、やせガマンしているだけだ!
『持久』ならこっちのほうが圧倒的に上だ! 持久戦に持ち込めば、ヤツはきっとバテる!
走れ! 走り続けるんだ!」
彼らの余裕は一気に消し飛ぶ。
振り返ることすらもやめて、前を向いてしゃかりきに走った。
しかしそれは、いくらやってもムダなこと。
なにせレオピンのと彼らの『俊敏』と『持久』には倍の差がある。
レオピンは競争している意識がないので、マイペースで走っているが……。
その気になればいつでもブチ抜いて、彼らをドン底に叩き落とすことができるのだ……!
そしてとうとう、その瞬間がやってくる。
「はっ、はぁっ、はあっ、はあっ! も、もう、む……無理だっ……! は、走れねぇ! こ、これ以上は……!」
「く、くそっ! あのゴミ野郎、まだついてきやがる!」
「『持久』が500もある俺たちについてくるなんて、バケモンか!?」
「い、いや、悪魔だっ! 悪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」
……ずどっ、しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!
先頭集団は、足をもつれさせて盛大に転倒。
後ろからタッタッタッと近づいてきたレオピンは、
「おいおい、あんまり無理すんなよ」
倒れた男子生徒たちを、ひょいっと軽い足取りで飛び越えた。
そして、そのまま走り去っていく。
男子生徒たちは虫の息だったが、最後の力を振り絞って叫ぶ。
「ま、待て! レオピンッ! 待ってくれっ!」
しかし本物の耳栓をしている彼に、その声は届かなかった。
そして、地獄が始まるっ……!
……ずざざざざざざざざざざぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!
「ふっ……ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
先頭集団は一気に最下位集団となったばかりか、まるで公開処刑のように引きずられはじめた。
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