61 究極の選択
61 究極の選択
西部の街を救ったヒーローのように、レオピンは去っていった。
死屍累々となったチンピラたちは、学園の救助隊によって瓦礫の中から助け出される。
そのままタンカに乗せられて保健室に運ばれようとしたが、チンピラたちはタンカ拒否。
それは当人たちの意思ではなく、コワモテのクラスメイトたちが身柄をさらうように、チンピラたちを連れ去っていく。
そのなかに、ひとりだけやたらと抵抗している者がいた。
「ノーッ! ちっ、違うざます! わたくしめは教頭ざます! 1年15組の生徒じゃないざます! だから離すざます!」
ごつい男たちに、捕獲された宇宙人のようにひきずられていく。
「シャバいウソつくんじゃねぇよ、この野郎!」
「気持ち悪いしゃべり方はそっくりだけど、あの成金クソ野郎の教頭が、そんなボロボロの格好してるわけねぇだろ!」
「ほ、本当なんざます! せ、せめて、保健室につれていってほしいざます! あちこち痛いざます!」
「俺たち1年15組は、保健室なんてシャバい所には行かねぇんだよ!」
「これ以上、組の恥をさらそうってのかよ、この野郎!」
「帰ったら根性焼きだ! その腐った性根を叩き直してやっから覚悟しな!」
「きっ、きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
1年15組のナワバリである、居住区のスラム街に連れて行かれた教頭は、不良生徒たちによってコテンパンにされる。
ボロ雑巾のようになり、ゾンビのように這いずって保健室に助けを求める。
そこでの治療のおかげで大事には至らなかったのだが……。
治療が遅れたせいで、思わぬ後遺症が残ってしまった。
それは、顔につけられた根性焼き。
額にはデカデカと『ニセ教頭』の文字が。
鏡を見た瞬間、教頭の奇声が保健室じゅうに響いていたのは言うまでもないだろう。
教頭は新しいタキシードに着替え、不釣り合いなバンダナを頭に巻いて校長室へと戻る。
そこには、頭から湯気を出していそうなほどに、怒り心頭の校長の姿が。
「イエスマン教頭代理、さっき教育委員会から通達があったのである!
キミは、ツーランクダウンなのであるっ!」
「きっ……きぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?
な、なんでざますか!? ランクダウンになるようなことは、なにもやっていないざます!?」
「理由はふたつあるのである!
ひとつ目は、保健室を利用したからである!」
「ノーッ!? そんな!? 保健室の利用は、教員はノーペナルティのはずざます!?」
「その通りなのであるが、回数が多すぎるのである! それに、理由が酷すぎるのである!
神の雷に打たれたり、生徒に指導をしようとして、返り討ちにあうとは……!
支援者からの批難が、殺到したのである!」
「ぐぐっ……!」
「そしてもうひとつの理由は、またしても賞金を渡しそこねたのである!
せっかく、未来の一流菓子職人に、賞金が渡るところであったのに……!
支援者は若い芽が摘み取られたと、カンカンなのである!」
「そ、それは……! クルミさんに渡してしまったら、あのゴミにも渡さなくてはいけないことになるからざます!
あのゴミに渡したぶんは、わたくしめの自腹になってしまうざます!」
「渡してしまえばよかったのである! キミの懐が痛もうがどうしようが、我輩には関係ないのであるからして!」
「のっ……ノーッ! あ……あんまりざますぅ!」
「支援者の方々は、今からでも賞金を渡せばワンランクダウンになるように、教育委員会に取り計らってくれるそうなのである!
さあ、選ぶのである、イエスマン教頭代理!」
選択肢はふたつ。
裁きを受け入れて、『B+』から『Bー』のツーランクダウンとなるか……。
それとも1千万をレオピンにくれてやって、『B+』から『B』のワンランクダウンにとどめるか……。
これはイエスマンにとっては、どちらも『ノー』な選択である。
「ぐっ……ぐぎぎぎぎぎぎっ……! どっちも、どっちも嫌すぎるざますっ……!」
彼は『ニセ教頭』と書かれた額に、幾重もの青筋を浮かべていた。
「選ばないのであれば、自動的にツーランクダウンとなるのである!」
校長の容赦ない声に、教頭は走馬灯が見えるくらいに悩み抜く。
「ぎっ……ぎぎぎっ! ぎぎぎぎぎっ……! ぎぎぎぎっ……!」
もはや口も聞けないほどになっていて、錆びた機械のように軋んだ呻きを漏らすのみ。
――ツーランクダウンになってしまったら、ヒラ教員にリーチがかってしまうざます……!
でもだからといって、あのゴミにこれ以上のお金をやるだなんて、絶対に嫌ざます……!
わたくしめの息子もこの学園に入れるために、これから多くの裏金が必要になるざます……!
でも、でもでもっ、ヒラ教員に落ちてしまったら、入学資格すらも無くなってしまうざます……!
「ぎっ……ぎえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
次の日、目覚めはあんまり良くなかった。
「昨日の夜はずっと、鳥の鳴き声がしてたんだよな……。
おかげで、へんな夢を見ちまった。夢とはいえ、教頭が俺にやさしくしてくれるなんて……」
しかし身体のほうは絶好調なようで、目が覚めるとレベルアップしていた。
「なんか、起きてすぐステータスを確認するのが習慣になりつつあるな」
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レオピン
職業 木工師
LV 15 ⇒ 16
HP 2010
MP 2010
ステータス
生命 201
持久 201
強靱 201
精神 201
抵抗 201
俊敏 201
集中 201
筋力 201
魔力 201
法力 201
知力 201
教養 201
五感 201
六感 201
魅力 1
幸運 5
器用 600 ⇒ 700
転職可能な職業
生産系
木こり
鑑定士
神羅大工
石工師
革職人
木工師
魔農夫
陶芸家
菓子職人
NEW! 花火職人
探索系
レンジャー
トレジャーハンター
戦闘系
戦斧使い
ニンジャ
武道家
罠師
調教師
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「新しい職業は花火職人かぁ。
この前の菓子職人以上に、まだ早い職業だなぁ」
『花火職人』は言うまでもなく『花火』を作ることができる職人のこと。
炎の精霊が宿った『火薬』を扱うので、生産職でありながらも魔法職だ。
スキルはこんなだった。
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職業 花火職人
職業スキル
玩具花火作成
玩具花火を作成する
打ち上げ花火作成
打ち上げ花火を作成する
仕掛け花火作成
仕掛け花火を作成する
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「花火を作ってみたいけど、『火薬』がないからなぁ。
もしあったとしても、今なら武器に使うほうが優先だろうな」
そういう意味では、この開拓学園における花火というのは、お菓子以上の嗜好品といえるかもしれない。
「そういえばモナカは花火が好きだったな。いつか作ってやれるといいんだがな」
そんなことをつぶやきつつ、登校するために家を出る。
今日は晴天で、日差しが強い。
家の屋根の上にはトムが寝そべっていて、かなり早い日向ぼっこを楽しんでいた。
「昨日、居住区からもらってきた廃材の丸太を使って、屋根にあがるためのステップを作ったんだよな。
さっそく、トムのキャットウォークになってるみたいだな。行ってくるよ、トム」
トムはウトウトしながら、黒いシッポをパタパタッと振って見送ってくれる。
爽やかな気持ちで森を出ようとしたのだが、森の入口にある木を見た途端、俺は「うおっ!?」となってしまった。
木には呪いの人形のごとく、血染めの目録が打ち付けられていたからだ。
あたりには引っ掻き傷だらけで、頭を打ち付けたような跡まである。
目録には、こんな表題が付けられていた。
『クルミくんを育てたで賞』
1位 特別養成学級 41,200,000¥
イエスマン教頭代理 B+ ⇒ B
教頭のざまぁが足りない! というご意見を頂きましたので、急遽書き換えさせていただきました!














