04 転職しまくり
04 転職しまくり
矢を投げ返された弓術師たちは、死にかけのゴキブリのようにひっくり返ってもがいていた。
でも俺はそんなことよりも、じっと我が手を見つめる。
「……これが、俺の力……!?」
『五感』を上げたせいで、視覚や聴覚が獣のように研ぎ澄まされている。
『俊敏』を上げたせいで、一挙手一投足が、風のように疾い。
『腕力』を上げたせいで、弓を使うよりも矢を遠くに飛ばせた。
『集中』を上げたせいで、狙った先に1ミリの狂いもなく着弾させられた。
「まるで、自分の身体が自分のものじゃなくなったみたいだ……!」
ただ、手先にはじゃっかんの違和感があった。
『器用』さが減ったせいで、目を閉じていても針の糸を通せるような、鋭い手指の感覚が薄れたような気がする。
しかし、それはいつでも戻すことができるから、たいした問題じゃない。
「すげぇ、これさえあれば、なんだってできるぞ……!」
俺は高揚した気持ちで、残ったもうひとつのスキルの効果を確かめてみた。
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器用な転職
器用さを活かし、別の職業に就く
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現時点で選べる職業は、以下の3つだった。
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転職可能な職業
生産系
木こり
探索系
レンジャー
戦闘系
戦斧使い
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どれに転職しようか悩んでいると、
城からパーティを終えた生徒たちが、どやどやと出てきた。
「それじゃあ、集落作りを始めるぞーっ! 森に入って、資材を集めてくるんだーっ!
夜までに家を完成させないと、野宿になっちまうからなーっ!」
「えーっ、野宿なんてできるかよー! とんだ恥さらしになっちまうよ!」
「そう、吹きっ晒しの中で寝っ転がるなんて、ゴミ野郎くらいのもんだ!
ゴミと同じになりたくなかったら、気合い入れろーっ!」
どのクラスもまず、住む場所を作るようだった。
おそらく戦士なのであろう体格のいい男たちが、斧を担ぎながら、近くの森へと入っていく。
俺はそもそも木を切るだけの道具もないから、ひとまず『レンジャー』になることに決めた。
MPが10消費され、職業が『なし』から『レンジャー』へと変わる。
レンジャーの職業スキルである、『生存術』が出現した。
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レオピン
職業 なし ⇒ レンジャー
職業スキル
生存術
過酷な状況でも生き抜けるだけの知識と技術
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パッシブスキルである『生存術』を得た途端、俺の頭の中にサバイバルの知識があふれ出す。
「……よし、まずは道具として、石のナイフと石斧を作るんだ!」
俺は戦士たちの後に続いて、森の中へと駆け込む。
落ちている岩を物色していると、嘲笑が聞こえてきた。
「ハハハ! ゴミ野郎のヤツ、なにやってんだ?」
「石を探してるみたいだぞ! どうやら頭がおかしくなったらしい!」
笑いながら木を切っている戦士どもをよそに、俺はちょうどいい握りやすさの石を見つけた。
刃にあたる部分を岩に打ち付けて尖らせて、『石のナイフ』を作りあげる。
さらに、大きめの平べったい石を成形したあと、植物のツタで、太い木の枝に結び付ける。
「よし、『石斧』もできたぞ!」
このアイテムは俺にとって、高校生活初のクラフト。
嬉しさのあまり、手にした石斧を勇者の聖剣のように天に掲げた。
バッ……!
俺の身体は雲間から差し込む光に照らされ、キラキラと輝き出す。
目の前にウインドウが出現した。
『レベルアップしました!』
思わぬサプライズに、俺は思わず「おおっ」と声を出してしまう。
「ナイフと斧を作っただけでレベルアップ!? 『器用な成長』スキルのおかげかな?」
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レオピン
職業 レンジャー
LV 1 ⇒ 2
HP 2010
MP 2010
ステータス
生命 201
持久 201
強靱 1
精神 1
抵抗 1
俊敏 201
集中 201
筋力 201
魔力 1
法力 1
知力 1
教養 201
五感 201
六感 1
魅力 1
幸運 1
器用 600 ⇒ 700
転職可能な職業
生産系
木こり
NEW! 鑑定士
探索系
レンジャー
戦闘系
戦斧使い
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器用が100ポイントもあがってる……!?
レベルアップで上昇するステータスは、多くても5ポイントがいいところなのに……!?
それに転職可能な職業が増えた。
『鑑定士』といえば、サバイバルにおいてはかなりの有用だ。
俺はさっそく転職してみた。
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レオピン
職業 レンジャー ⇒ 鑑定士
職業スキル
鑑定
物品の価値や能力を知ることができる
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ためしに、自作の石斧を『鑑定』スキルで調べてみる。
石斧の上に、鑑定結果を示すウインドウが現れた。
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森林石の斧
個数1
品質レベル9(素材レベル1+器用ボーナス6+職業ボーナス2)
成形した森林石を木の枝に結び付けたもの。
各種ボーナスにより、鉄斧の数倍の斬れ味がある。
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「……鉄斧の数倍!? ホントに!?」
さらなるサプライズに、石斧を手にひとり叫んでいると、戦士たちがまたチョッカイをかけてきた。
「ハハハ、見ろよ! ゴミ野郎のヤツ、石斧で大喜びしてやがるぞ!」
「原始人みてぇだなぁ! あんなショボイ斧でなにができるっていうんだ!」
「ギャハハハハハ! 火を見たらションベン漏らすんじゃねぇか!」
俺はバカ笑いを無視し、『木こり』に転職。
石斧を構えると、目の前にある大木めがけて、『高速伐採』のスキルを発動する。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
……ドガガガガガガガガガガーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
水飛沫のように木クズが飛び散り、大木の幹に切れ込みが入る。
大木は戦士たちのほうに向かって、ぐらりと揺れた。
「倒れるぞーっ!」
俺がそう言うと、戦士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
ズズーン! と大地を揺らすほどの衝撃がおこり、逃げ遅れた戦士たちは「ひゃあっ!?」と尻もちをついていた。
「な、なんだ、今のは……!? ほんの一瞬で、こんな大木を切り倒しやがった……!?」
「戦士の俺たちが斧を使っても、細い木を切り倒すのが精一杯だってのに……!?」
「ウソだろ!? ゴミ野郎は無職のはずじゃなかったのかよ!?」
驚愕に包まれる彼らをよそに、俺は木を運びやすくするため、石斧で大まかに切り分けた。
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ギスの木材(大)
個数10
品質レベル11(素材レベル2+器用ボーナス7+職業ボーナス2)
柔らかく軽量で、加工が容易な木材。
各種ボーナスにより、建材にも利用可能。
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