39 降格と昇格ふたたび
39 降格と昇格ふたたび
時は少し戻り、昨晩のこと。
夜遅い校長室の中で、悪のコンビは躾のなっていない犬のように唸っていた。
「がるるるっ……! あのゴミの拠点が、レベル2になったざます……!」
「ぐるるるっ……! こっちの居住区は、瓦礫の撤去すらまだ終わってないというのに……!」
「しかもまだ賞が授与できていないざます! 支援者のガマンも、もう限界ざます!」
「何か手を考えるのである! あのゴミの拠点の始末と、居住区の復旧と、賞の授与!
どれかひとつでもなんとかしないと、我輩たちはまたランクダウンなのである!」
ふたりは、檻に閉じ込められた犬のように唸る。
しばらくして、校長がポンと手を打った。
「そうだ! キミがあのゴミの拠点に火を付ければいいのである! これで問題がひとつ解決したのである!」
部下にナチュラルに放火を勧めるとは、恐るべきハゲオヤジである。
「それは、もうやろうとしたざます! でも家の周りに罠が仕掛けてあって、大変な目に遭ったざます!」
お気に入りのタキシードを台無しにされた怒りが蘇り、ハンカチを噛みしめるチョビヒゲオヤジ。
その彼の脳内で、悪魔が囁いた。
「はっ!? そうざます! 校長、『スレイブチケット』を解禁するざます!
そうすれば、問題は一気に解決ざます!」
「なにっ? それは本当か?」
「校長、ちょっとその豚みたいなお耳を失礼するざます! こしょこしょ……」
「おおっ、それは名案なのである!」
「それだけじゃないざます! 『スレイブチケット』を使えば、生徒たちを意のままに操れるざます!
『購買部』を開設して、生徒たちからチケットを巻き上げるざます!」
「チケットは本来、生徒間でやりとりされるものであるが……。
それを我々が手にするということであるか?」
「そうざます! チケットがあれば、生徒はわたくしどもの奴隷になったも同然ざます!
今まで、世間体のせいでできなかった命令も、ガンガンできるようになるざます!」
校長と教頭はこれまで、生徒たちに対して好き放題に権力を振りかざしてきた。
だが、それにも限界があった。
なぜならば彼らは教育者なので、『教育的指導』という大義名分が必要だったから。
しかし『スレイブチケット』があれば、教育者と生徒という関係を、飛び越えた命令もできるようになる。
「生徒に約束の大切さを教えるため、心を鬼にして命令する!」などと言えば、いちおうの名目は立つからだ。
「そうか! キミの狙いがわかったのである!
狙うのはザコの生徒ではなく、大物なのであるな!?」
「そうざます! モナカさんとコトネさんのチケットを、わたくしどもが手にいれさえすれば……!
『あのゴミに近づくな』と命令できるざます!
『スレイブチケット』の額面は、卒業後にはそのまま、社会的信用の目安となるざます!
となれば、いくらあのふたりでも断ることはできないざます!」
「うほっ! あのゴミからモナカくんとコトネくんを奪えば、ゴミは本当にひとりぼっちになって……。
拠点も荒れ果てるという寸法であるな!」
「イエス! しかもそれだけじゃないざます!
あのゴミのチケットの額面をゼロにすれば、チケットの流通の輪から完全に締め出すことができるざます!」
「うむ、そのとおりであるな!
わかったぞ! それでチケットにまつわる賞を用意すれば、あのゴミは手も足もでないというわけであるな!」
「イエス! まさに一石二鳥のプランざます!」
校長と教頭は、顔を見合わせニタリと笑いあう。
「「今度こそ、今度こそ……! あのゴミは終わり……! イッヒッヒッヒッ……!」」
しかしこの悪だくみが大失敗に終わったのは、もはやお決まりのパターンと言ってもいいだろう。
例の、レオピンだけが大金持ちになった朝礼が終わり、教頭はガックリと肩を落として校長室へと戻った。
そこで待っていたのは、追い討ちをかけるような通達。
「……イエスマン教頭、さきほど教育委員会のほうから通達があったのである。
キミは2ランクダウンなのである」
口から心臓が飛び出しそうなほどに、仰天する教頭。
「に、2ランク!? な、なんでざますか!?」
「国王が偶然、朝礼の中継をご覧になっていたそうなのである。
キミは国王の御前でみっともなく取り乱すばかりか、生徒の前で宣言した賞も渡さなかったのであろう」
「そ、それは! あのゴミに賞をやるわけにはいかなかったざます!
だから、必死になってごまかしたざます!」
レオピンは本来、『初めてのチケットで賞』『初めてのゴールドチケットで賞』のダブル受賞となるはずであった。
そのことをモナカとコトネに指摘されたイエスマンは、例の奇声とともに目録をムシャムシャと食べてしまったのだ。
おかげで、生徒たちにはすっかりドン引きされてしまった。
そこまでして守り通した賞だというのに、なんと国王に見られてしまっていたとは……。
「しかもキミは、宮廷から借りている魔導ボードを破壊しようとしたのである。
おかげで国王はカンカンなのである。2ランクダウンで済んだだけでも奇跡なのである」
イエスマン教頭 A ⇒ B+
「きっ……きぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「うるさいのである。イエスマン教頭代理」
「きょ、教頭『代理』……!?」
「仕方ないのである。教頭になれるのはAランクの教員のみと決まっているのである。
キミはBランクになってしまったから、教頭代理と決まったのである」
「そ、そんなっ!? 教頭代理になってしまったら、お給料がさらに下がってしまうざます!
それに、わたくしどもの一族は、ずっと教頭職に就いているざます!
それなのに『代理』だなんて! 一族に顔向けできないざますっ! そこをなんとか……!」
「ええい、うるさいのである! キミを手打ちにしておかないと、こっちまで……
あ、いや、なんでもないのである! これはもう、決まったことなのである!」
「うわあああんっ! 校長! 校長! お願いざます、お願いざますぅ!
許してざます! 許してほしいざますぅぅぅぅぅ~~~~~っ!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
教頭が2ランクダウンして、泣き叫んでいた頃……。
森の家へと戻っていた俺は、1ランクアップ。
じゃなかった、レベルアップを果たしていた。
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レオピン
職業 ニンジャ
LV 11 ⇒ 12
HP 1810
MP 1810
ステータス
生命 181
持久 181
強靱 181
精神 181
抵抗 181
俊敏 181
集中 181
筋力 181
魔力 181
法力 181
知力 181
教養 181
五感 181
六感 181
魅力 1
幸運 2
器用 480 ⇒ 580
転職可能な職業
生産系
木こり
鑑定士
NEW! 大工 ⇒ 神羅大工
石工師
革職人
木工師
魔農夫
探索系
レンジャー
トレジャーハンター
戦闘系
戦斧使い
ニンジャ
武道家
罠師
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「せ……『神羅大工』!?
最上位の生産職じゃないか!」
33話の終わり方が物足りないというご意見を頂きましたので、最後のほうを少しだけ加筆させていただきました!














