35 焼きスイートポテト
35 焼きスイートポテト
俺は、わずか数秒で完成した『スイートポテト畑』の中心にいた。
足元にはうっそうとした葉が茂り、森と一体化するように伸びている。
「……なんだか、『植物使い』にでもなった気分だな。
とりあえず、スイートポテトの出来映えを確かめてみるか」
とは言ったものの、俺はあんまり期待していなかった。
なにせベースとした苗が、レベルマイナス9というかなり低品質なものだったから。
「試しに少しだけ作るつもりだったんだが、作りすぎちゃったな」
ちょっと反省しながら、足元の根っこを綱引きのように引っ張る。
すると柔らかい土からは、小ぶりながらも美しい紅色が現れた。
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スイートポテト
個数10
品質レベル4(素材ペナルティ9+器用ボーナス3+職業ボーナス10)
畑で育ったスイートポテト。
小ぶりだが甘みが強く、繁殖力も強い。
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「おおっ!? 品質レベルが改善されてる!?」
しかも、原種のスイートポテトは小鳥の卵のように小さかったが、ニワトリの卵くらいの大きさまで成長している。
もちろん店で売っているような野菜に比べればまだまだだが、最初の作物としては上出来だ。
「しかも、メチャクチャたくさんできてる……!」
スイートポテトはブドウの房のように、ひとつの根に鈴なりになっていた。
「これだけあれば、しばらくは食料に困らないぞ。
……でも、肝心の味のほうはどうなのかな?」
気になったので、さっそく食べてみることにした。
そのへんから枯れ草や葉っぱを集めてきて、家の門の前に山を作る。
収穫したスイートポテトを中に入れて、火をつけた。
パチパチと音を立てて燃え上がる炎。
もうもうとした煙に混じって、香ばしい匂いがたちのぼってきた。
「なんか、メチャクチャいい匂いだな……」
焚火の匂いも好きなんだが、スイートポテトが焼ける匂いはさらに好きかもしれない。
なんというか、食べてもいないのに、口の中に甘さが広がるような……。
気付くと、居住区のほうから3人の人影が歩いてくるのが見えた。
モナカ、アケミ、コトネのトリオだ。
この3人は先日の大災害がキッカケで仲良くなったらしい。
3人ともウットリした表情で、花の蜜を求める妖精のようにフラフラと近づいてきている。
ヒクヒク動く小鼻は、小さな羽根のはためきのようにかわいらしい。
「匂いにつられたか」と声をかけると、3人ともハッと夢から醒めるように我に返った。
「あっ、レオくん!?」
「わたくしたちはいつのまに、お師匠様のお住まいに……?」
「ふわっ? あなたの所に行こうとはしてたんだけど、森の外からいい匂いが漂ってきて、気付いたらここに……」
「レオくん。この香り、いったい何なのですか?」
「はい、どうにも屈しがたい、とても魅惑的な香りでございます……!」
「うふん、錬金術の『惚れ薬』でもここまで引きつけられる匂いは作れないわ。
ここはなんとしても、正体を確かめないと……」
少女たちは焚火を凝視しながら、細い喉をこくこく鳴らしている。
なんだか食べたくてたまらない様子のようなので、
「せっかくだから、食ってけよ」
俺は木の枝で焚火をほじくり返し、スイートポテトを取りだした。
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焼きスイートポテト
個数10
品質レベル8(素材レベル4+器用ボーナス4)
素焼きにしたスイートポテト。
甘くて腹持ちがいい。
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「うん、これなら食べられそうだな。熱いから気をつけろ」
3人に1個ずつ渡すと、あちあちと手で弾ませはじめた。
「レオくん、これはひょっとしてスイートポテトですか?
こんな風にして焼いたものは、初めてです」
「お外で立ったまま頂くのは、はしたない事とされているのですが……。
でもお師匠様からお招きいただいた以上、頂かないわけにはまいりません」
「んふぅっ、もう、ガマンできないわ……!」
3人は同時に、スイートポテトをパカッとふたつに割る。
黄金色の断面が現れ、
……ふんわり。
となんともいえない甘い湯気がたちのぼる。
少女たちはもうお行儀も忘れて、ごくりっ! と喉をひと鳴らしすると、
「「「い……いただきますっ!」」」
もう何日も食べていなかったような勢いで、アツアツのスイートポテトにかぶりついた。
熱かったのか3人とも、「はふっ! ほふっ! はふほふっ!」と目を白黒させていたが、飲み込んだ途端、
「「「おっ……おいひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!?」」」
手で口を押えるようにして、ビックリと叫んでいた。
さすがお嬢様揃いだけあって、驚く仕草も上品だな。
「焼いたスイートポテトが、こんなにおいしいものだったなんて……!」
「はい、とっても甘露でございます!」
「ああんっ、身体がとろけちゃいそう……!」
それからは3人とも、食べ盛りの子供のようにスイートポテトにパクつく。
俺も食べてみたのだが、甘くてホクホクで、彼女たちが夢中になるのも納得のうまさだった。
「まだ食べるか? 追加で焼くから、好きなだけ食べろ」
「よ……よろしいのですか?」と期待と遠慮が入り交じった表情で俺を見つめるモナカ。
「ああ。いくらでもあるからな」
俺はそれから追加で20個ほど『焼きスイートポテト』を作り、みんなで仲良く食べる。
食べ終わる頃にはみんなおなかいっぱいになっていたのだが、女性陣はうなだれていた。
「どうしたんだ? さっきまであんなに楽しそうにしてたのに」
「実は……わたしたち、食べ物のことでレオくんに相談に来たんです」
「居住区の瓦礫撤去をする作業にとても難儀しておりまして、食事の供給がままならない状態なのでございます……」
「それなのに私たちだけ、こんなに美味しいものを食べて、お腹いっぱいになるだなんて……。
あふんっ、罪深さに、ゾクゾクしちゃいそう……!」
「なんだ、そういうことだったのか。なら、スイートポテトをもってけよ」
3人は「えっ?」と顔をあげる。
「でもレオくん、スイートポテトはさっきので、ぜんぶ食べてしまったのではないですか?」
「まだまだあるって言っただろ、ホラ」
俺が親指で示した先は、家の隣にあるスイートポテト畑。
地面が見えないほどにうじゃうじゃと伸びたツルに、少女たちは絡め取られたようにビクリと肩をすくめる。
「あの、お師匠様。わたくしは不勉強でして、農作物のことについては詳しくないのでございます。
この畑で、どのくらいのスイートポテトが採れるのでございますか?」
「そうだなぁ、ちょっと掘り返したぶんの実の付き方だと……。
この畑で、2トンってところじゃないか?」
「にっ……にとぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」
少女たちは髪の毛を逆立て、すっとんきょうな声で絶叫していた。
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