32 流されゆく者たち
32 流されゆく者たち
『王立開拓学園』を突如として襲った大災害、いや大人災。
居住区は一転して被災地のようになってしまった。
普段はノータッチの教師陣も、この時ばかりは肝を潰して校舎から飛び出してくる。
急遽、職員たちによる救助部隊が編成され、生徒たちの救出にあたった。
幸い、居住区には『加護』の保護魔法が掛かっていたのと、救助の対応が早かったので生徒たちは全員、命に別状はなかった。
しかし保健室には入り切れなかったので、校内はさながら野戦病棟のようになってしまう。
しかも今回の騒動は学園内だけにとどまらず、外部にまで飛び火する。
教育委員会やPTAが騒ぎはじめ、原因の究明を求めた。
ネコドラン校長とイエスマン教頭は、学園の責任者として渦中に晒されたのだが……。
ずる賢い彼らは先手を打って、とんでもない発表を行なった。
「今回の一件は、すべて1年20組のヴァイスくんが独断で行なったことなのである!」
「イエス、そうざます! きっとヴァイスくんは、先日の保健室利用によるランクダウンを取り戻そうとして、手柄を焦ったんざますねぇ!」
「開拓系の学園において、生徒たちの意思は尊重されなくてはいけない決まりがあるのである!
我輩たち教師陣は、彼らの自由意志に任せたのである!
事故が未然に防げなかったのは遺憾であるが、それも仕方ないことなのである!」
「イエス、そうざます! 1年2組のモナカさんと1年19組のコトネさんは、壁の崩落を予期して避難を呼びかけていたざます!
しかし他の生徒たちは、避難要請に応じなかったんざます!」
なんと校長と教頭、責任のすべてをヴァイスになすりつけ、知らん顔……!
ヴァイスはもちろん抗議したのだが、
「なんと!? 拠点は我輩たちが作るように指示したであると!?
そんな証拠は、どこにもないのである!」
「イエス! きっとヴァイスくんは、事故のショックで記憶が混乱しているざます!」
「うぅむ、これはイカン! 実に遺憾なのである!
多くの生徒を巻き込む大災害を起こしておきながら、反省もないどころか、人に罪をなすりつけようとは!
ヴァイスくんの1年20組は、2ランクダウンの処分を言い渡すのである!」
1年20組 C- ⇒ D
ちなみに、他のクラスも保健室を利用したことにより、1ランクダウンとなっていた。
「他のクラスに比べて、モナカさんとコトネさんのクラスはなんと素晴らしいんざましょ!
ヴァイスくんに騙されなかったその聡明さを評価して、1ランクアップざます!」
1年02組 B ⇒ B+
1年19組 B- ⇒ B
クラスの昇格というのは大変栄誉なことであり、普通のリーダーであれば大喜びで受け取るのだが……。
なんと両クラスのリーダーである少女たちは、揃って抗議を行なった。
「いいえ! 今回の功績は、わたしたちが受け取るわけにはいきません!」
「左様でございます! わたくしたちは、あるお方のご指示に従っただけなのでございます!
ですのでこの功績は、その方に差し上げられるべきものだと、わたくしたちは考えます!」
「その、わたしたちが尊敬してやまない、男の子の名は……! レオ……!」
「きぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
しかしこの声明は、教頭の奇声によって遮られ、校長の根回しによって握り潰されてしまった。
『王立開拓学園』から外部に送られる、または外部から入ってくるものはすべて、校長と教頭のチェックが入るのである。
そのため、今回の一件において、レオピンの名は『レ』の字も外に出ることはなかった。
だが、不思議に思うことはないだろうか?
支援者たちの中には、魔導装置を通じて事の一部始終を見ている者がいるのではないかと。
その者たちはたしかにレオピンの活躍を目撃している。
しかし、誰もが事実を黙殺していた。
なぜならば……。
彼らも校長や教頭と同じで、能力ではなく家柄で地位を得た、生まれながらのエリートであったから。
そう。庶民であるレオピンの活躍が世に広まったところで、なんら得をしない者たち……。
『レオピンを認めてなるものか』側の人間であったのだ……!
しかし今回の一件で、レオピンの名は確実に支援者たちの脳裏に刻まれた。
器用さだけの少年は、まだ知らない。
自分のあずかり知らぬところで、大いなる力が動き始めていることに。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ヴァイスは校舎から出ると、瓦礫に埋もれた居住区のなかを、フラフラと歩いていた。
いつもの自信たっぷりで、余裕に満ちた表情はカケラもない。
ずり落ちた眼鏡ごしの瞳はうつろで、口は開きっぱなし。
「こ……この僕が、2ランクダウン、だなんて……」
うなされるような声が、ブツブツと漏れる。
「賢者の僕が、ランクダウンなんて、ありえない……。こ……これは、悪い夢だ……」
しかしすれ違う女生徒たちのヒソヒソ話が、これが現実なのだと思い知らせてくる。
「見て、ヴァイス様よ!」
「もう私たちと同じDランクなんだから、『様』なんて付けなくてもいいでしょ!」
「それもそうね。アイツの言うとおりに壁を作ったら、ランクダウンしちゃうだなんて!」
「最低! 賢者のクセしてデタラメを言うだなんて、見損なったわ!」
その評価はヴァイスにとって許しがたいものであったが、今は反論する気力もない。
なぜならば、それ以上に手厳しい評価が、彼の手に握りしめられていたから。
くしゃくしゃになった羊皮紙、はみだして見える文面には、短い一文が。
『一族の恥さらしめ』
先ほどからヴァイスの頭の中では、その一文がある人物の声となって、ぐるぐると渦巻いていた。
「い……いままで父上がくださった手紙には、何枚にも渡って僕への期待を書いてくださっていたのに……。
父上は、今回の2ランクダウンのことを、相当お怒りになっておられる……!
なんとしても、なんとしても、ランクを元通りにしないと……。
僕はこのままでは、跡取りでいられなくなってしまう……!」
そう考えるだけで、ヴァイスの膝はひとりでに笑い出す。
最後の気力を振り絞り、瓦礫の物陰に歩いてくと、ガックリと膝をついた。
そして、頭を押えて叫んだ。
「いやだ……! それだけは、絶対に嫌だっ……!
僕は賢者なんだ! レオピンなんかの無職とは違って、将来を約束された人間なんだっ!
それなのにっ、それなのにっ……!」
挫折を知らない、いや、挫折を教えられなかったエリートほど、失敗に対しての耐性がない。
しかも前回の失敗は、シーブスの毒キノコのせいであるが、今回は明らかに自分のせいである。
「僕は失敗なんてしない! 失敗なんてしていないんだっ!
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
ヴァイスはそのことが受け入れられず、いつまでもいつまでも地面をのたうち回っていた。
次回、さらなるざまぁです!
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