30 新装備のクラフト
30 新装備のクラフト
「ぎゃっ!?」「ふぎゃっ!?」「うげぇ!?」
木から落ちた三兄弟は、頭から地面に叩きつけられていた。
崩れた果実のようなへんな体勢だったが、彼らは自分の置かれた立場よりも、いま目の前で起こった事に心を奪われている。
「な、なんだ、今の……!? なにが、起こったんだ……!?」
「ゴミ野郎がイノシシを持ち上げて飛んで、落としやがった……!?」
「や……ヤベえっ!? コイツ、バケモンだっ!?」
「「「にっ……逃げろっ! 逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!?!?」」」
首が曲がったままの三兄弟は、ウサギのような四つ足でピョンピョンと跳ね逃げていった。
俺はドロップアイテムに変わっていく大イノシシを見下ろしながら、ふぅ、とひと息。
「『ニンジャ』のスキル、『イヅナスロー』……。
いちかばちかでやってみたけど、なんとかうまくいったな……」
しかし強敵だっただけあって、戦利品はかなり豪華だった。
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オオイノシシのロース肉
個数1
品質レベル6(素材レベル6)
肉と脂身がバランスよく折り重なったイノシシ肉。
ソテーにすると調理ボーナスが得られる。
オオイノシシの皮
個数1
品質レベル7(素材レベル7)
表面に傷の少ない上質の皮。
なめすことにより、革製品に加工できる。
オオイノシシの牙
個数1
品質レベル8(素材レベル8)
大ぶりで鋭い牙。
刃物や装飾品に加工できる。
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「肉に皮に牙! ちょうど欲しかったものばかりだ!」
俺は宝物を見つけたような気分になる。
さっそく、手に入れた素材でクラフトを始めた。
まずはオオイノシシの皮だ。
以前手に入れた『飛竜の革』は、すでに加工済みだったが、こっちはまだ未加工。
皮はそのままだと腐敗してしまうので、『なめす』作業をしなくちゃならない。
俺はコートのポケットから『オオルハのバッグ』を取り出す。
以前、採取したものを入れるために作ったやつだ。
そのバッグで池の水をくみあげ、イノシシがいなくなったクレーターに移す。
小さな池ができたところで、オオイノシシの皮を入れる。
そしてまわりにあった倒木から、樹皮を採取した。
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パリンパインの樹皮
個数1
品質レベル2(素材レベル2)
乾燥してボロボロになった樹皮。
抽出できる渋汁は、接着剤や染色に利用可能。
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樹皮はちょうどいい感じに乾いていて、小さな池に付けるとすぐに水が茶色に変わる。
「この樹皮から出る汁で皮を浸したあと、天日干ししてやれば………」
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オオイノシシの革
個数1
品質レベル22(素材レベル9+器用ボーナス3+職業ボーナス10)
表面に傷の少ない上質の革。
なめし済みで、革製品に加工できる。
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革を木の枝に引っかけて乾かしている間に、次の作業に入る。
椅子にちょうどいい岩に腰掛け、オオイノシシの牙を『森林石のナイフ』で削って形を整える。
静寂の戻ってきた池のほとりに、コリコリとした音だけが響く。
気付くと動物たちも戻ってきていて、水を飲んでいる。
オオイノシシの牙は湾曲していて鋭かったので、加工は容易だった。
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オオイノシシの牙ナイフ
個数1
品質レベル21(素材レベル8+器用ボーナス3+職業ボーナス10)
オオイノシシの牙を成形したナイフ。
各種ボーナスにより、金属のナイフと同等の斬れ味がある。
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このままでもじゅうぶん役に立つが、まだ完成じゃない。
俺はできたてのナイフを使い、乾いたばかりの『オオイノシシの革』を少しだけ切り取る。
それをナイフの持ち手のところに巻き付ければ……。
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オオイノシシの大ナイフ
個数1
品質レベル30(素材レベル17+器用ボーナス3+職業ボーナス10)
オオイノシシの牙を成形したナイフ。
各種ボーナスにより、金属のナイフと同等以上の斬れ味がある。
オオイノシシの革によるグリップがあるので滑りにくく、命中率と作業効率にすぐれる。
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「できた……! 新しいナイフだ……!」
『森林石のナイフ』も役立ってくれたが、このナイフは切れ味も耐久性も、使い勝手も上。
これからの頼もしい味方となってくれることだろう。
新しいナイフを使い、さらにクラフトを続ける。
池のまわりにある樹木から、いちばん堅い品種の木を選び、ナイフですこしだけ削る。
削り取ったカケラをさらに削り、先端を針のように尖らせれば……。
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オーガウッドの木針
個数1
品質レベル16(素材レベル3+器用ボーナス3+職業ボーナス10)
オーガウッドの木材で作った針。
各種ボーナスにより、金属の針と同等の耐久性がある。
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「よーし、針ができた! これで『革細工』ができるぞ!」
俺は時間を忘れて作業にいそしむ。
昔からそうだったんだ。
クラフトをしていると、気付いたら陽が沈んでたなんてしょっちゅうだった。
今が何時か気にもとめず、できたての木針に『ダイジャヅルの糸』を通す。
あとは学園の授業の時と同じ、『革の工作』スキルでバリバリと『オオイノシシの革』を縫い上げる。
小一時間後、俺の前にはいくつもの革袋ができあがっていた。
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オオイノシシの革水筒
個数10
品質レベル52(素材レベル39+器用ボーナス3+職業ボーナス10)
オオイノシシの革を、ダイジャヅルの糸で縫い合わせた水筒。
各種ボーナスにより、水漏れがなく、伸縮性に優れているのでより多くの水を汲むことができる。
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「よぉーし、これで水を持って帰ることができるぞ!」
水を探していたはずなのに、思わぬ楽しい時間を過ごしてしまった。
気付くと陽はだいぶ傾いていて、空は群青とオレンジのコントラストになっている。
俺は水筒を池に突っ込んで水を汲みあげる。
水風船のように膨らんだそれを、コートのポケットに押し込む。
水汲みというのはかなりの重労働だが、この魔法のコートがあるとぜんぜん苦にならない。
俺は池の動物たちに別れを告げると、スキップするような軽い足取りで家路を急いだ。