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 モナカが俺に『癒し』をしたとわかった途端、新入生たちは騒然となった。

 ヴァイスは眼鏡の奥の瞳をこれでもかと見開いて、ワナワナと震えている。


「そ……そんな、バカなっ……!? なぜモナカさんが、レオピンに……!?

 あの『癒し』は本来は、僕に向けられるべきものなのに……!?」


 20組のクラスメイトたちは、ヴァイスを取り囲んでいた。


「おいヴァイス、なんてことをしやがったんだ!」


「なんでこんなに早く、レオピンくんを追放しちゃったのよ!?」


「レオピンのヤツがクラスにいたら、1千万は俺たちのものだったのに!」


「最低! 責任とって追放を取り消しなさいよ!」


 ヴァイスは奥歯を噛みしめながら、クラスメイトたちを睨み付ける。


「キミたちだって賛成したじゃないか!

 それに、いまさら追放を取り消すだなんて、できるわけがないだろう!」


 20組のクラスメイトたちはわぁわぁと言い争いをしているなか、ふたりの女生徒が、血相を変えて俺たちのところにやってくる。

 ひとりはポニーテールで、制服に白い胸当て、もうひとりはぱっつん前髪を黒い頭巾で覆っている。


 このコンビは付き人なのか、光と影のようにモナカを取り囲んで叱りつけていた。


「モナカ様っ! 聖女の初めての癒しというのは、とても御利益があるとされているのですよ!?

 それなのに、そんな馬の骨のような男に与えるだなんて!?」


「にん。モナカ様ほどのお方の『初めて』なら、黄金を積んででも欲しがる権力者の方々が大勢おります。

 それほどの貴重なものを、そんなダシも取れなさそうな馬骨に与えるだなんて、笑止千万でござる」


「オネスコさん、シノブコさん!? レオくんは馬の骨じゃありません!

 わたしにとっては白馬……! いいえ、その上に跨がる王子……」


 モナカのその言葉は、オネスコとシノブコに手を掴まれたことにより遮られた。


「我々は、モナカ様のお目付役になったのですからね!」


「にん。これからは勝手なことはダメなのでござる」


 モナカは白黒コンビに引きずられるようにして、新入生たちの群れに戻っていった。


 ステージ上で魂を抜かれたようになっていたイエスマン教頭は、ようやく我に返る。


「お……うぉっほん! 静粛に! 静粛にするざます!

 モナカさんの賞は例として挙げただけで、本当にあげるわけじゃないざます!」


 しかし、手に『モナカさんとラブラブ賞』の目録を持っているのをヤジで突っ込まれ、サッと背後に隠していた。


「そ……そんなことよりも、支援者の方々が協賛してくださったおかげで、他にもいろんな賞があるざます!

 だから学園生活中に活躍すれば、賞金ガッポガッポなんざます!

 それとキミたちの学園生活は、魔導装置を通じて世界中に中継されることになっているざます!

 『王立開拓学園』の初めての生徒に相応しい、品性ある行動を心がけるざます!

 以上をもちまして、本日の入学式は……!」


「待つのである!」


 教頭の傍らに立っていた校長が、教頭を押しのけるようにして、ずいと前に出た。

 俺以外の新入生たちを、厳しい瞳で眺めまわしたあと、


「最後に一言だけ、諸君に言っておくのである!

 我輩が欲するのは、金の卵であると……!

 支援者が湯水のように金をつぎ込んでくれる生徒こそ、いい生徒なのである!

 金を生まない生徒は、落ちこぼれなのである……!」


 校長はふと言葉を切って、俺のほうを見た。

 デキの悪い連れ子を見るかのような、憎しみの込められた目で。


「そんな腐った卵は、容赦なく踏み潰してやるから、覚悟するのであるっ……!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 入学式が終わると、とある大手の酒場から差し入れられたという、豪華な朝食バイキングが振る舞われた。

 『特別養成学級』の分は無いと言われたので、俺はひと足先に会場を出る。


 校舎である城の外は平原と森の、手付かずの自然が広がっていた。

 これから俺たち新入生は、学園に通いながら、この地を開拓することになる。


 寮や学食なんてものは存在しない。

 各職業の初期装備だけは与えられるものの、あとはすべて自給自足。


 クラスの仲間たちと協力しあい、時には他のクラスとも共闘して生きていかなくてはならないんだ。


「でも俺は、ひとりぼっちか……」


 『特別養成学級』に落とされた場合、誰からも相手にされなくなる。

 自分ひとりで生きていくのは不可能に近いので、落ちた者は早々にギブアップしてしまうらしい。


 俺は軽い絶望を感じながら、ステータスウインドウを開いた。


--------------------------------------------------


レオピン


 職業 なし

 LV 1

 HP 10

 MP 10


 ステータス

  生命 1 (非成長)

  持久 1 (非成長)

  強靱 1 (非成長)

  精神 1 (非成長)

  抵抗 1 (非成長)

  俊敏 1 (非成長)

  集中 1 (非成長)

  筋力 1 (非成長)

  魔力 1 (非成長)

  法力 1 (非成長)

  知力 1 (非成長)

  教養 1 (非成長)

  五感 1 (非成長)

  六感 1 (非成長)

  魅力 1 (非成長)

  幸運 1 (非成長)

  器用 2000


 基本スキル

  器用貧乏


--------------------------------------------------


 すると絶望は、重石のような現実となって俺にのしかかってくる。


「こうして見返してみても、ひどいもんだな……。

 将来性がまるで感じられない……」


 どんなにひどいステータスでも、職業は『ゴミ拾い』くらいにはなる。

 でも俺はひどすぎて、その最底辺の職業すら就くこともできないらしい。


「スキルも、『貧乏』って付いてるし……。

 まるで俺の将来を暗示しているかのようだな……」


 俺は溜息とともに、『器用貧乏』のスキルに触れ、スキルツリーを展開してみる。

 そこには、みっつのスキルがあった。


--------------------------------------------------


 器用貧乏

  器用な成長

  器用な肉体

  器用な転職


--------------------------------------------------


 スキル名に触ってみると、ステータスウインドウ上に説明ウインドウが現れる。


--------------------------------------------------


 器用な成長

  器用さを活かし、わずかな経験でレベルアップする


 器用な肉体

  器用さを活かし、『器用』のステータスを他のステータスに変換する


--------------------------------------------------


「なんだこのスキル? 中学の授業でも、こんなスキル習わなかったぞ」


 試しに『器用な肉体』のスキルを使ってみることにする。

 頭のなかで、「器用さよ、生命となれ……!」と念じてみると、


--------------------------------------------------


 LV 1

 HP 10 ⇒ 1010

 MP 10 ⇒ 9


 ステータス

  生命 1 ⇒ 101

  器用 2000 ⇒ 1900


--------------------------------------------------


 『MP』が1、『器用』が100減って、『生命』に……! HPも増えている……!?


「う……ウソだろ!? このステータスが本当なら、相当すごいスキルなんじゃ……!?」


 俺は半信半疑で、『器用』をさらに他にステータスに変換してみた。


--------------------------------------------------


レオピン


 職業 なし

 LV 1

 HP 1010 ⇒ 2010

 MP 9 ⇒ 2010


 ステータス

  生命 101 ⇒ 201

  持久 1 ⇒ 201

  強靱 1

  精神 1

  抵抗 1

  俊敏 1 ⇒ 201

  集中 1 ⇒ 201

  筋力 1 ⇒ 201

  魔力 1

  法力 1

  知力 1

  教養 1 ⇒ 201

  五感 1 ⇒ 201

  六感 1

  魅力 1

  幸運 1

  器用 1900 ⇒ 600


--------------------------------------------------


 不意に、研ぎ澄まされた『五感』が、風鳴りのように響く声を捉えた。


『ああ、食った食った! ……おっ、城の外にゴミ野郎がいるじゃん!

 腹ごなしにゲームしようぜ! 弓矢でアイツを射貫いたヤツが勝ちな!

 まずは俺から……!』


 ……シュォォォォォォッ!


 風切り音を感じ、俺は反射的に手を挙げる。

 頭めがけて迫り来る矢を、


 ……ガシィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!


 と素手で受け止めていた。


 自分でも信じられない超反応。

 しかし城の上から狙ったヤツは、もっと信じられないような表情をしていた。


『う……ウソだろっ!? ゴミ野郎、矢を受け止めやがった!?』


『そんなバカな!? 武道の達人じゃあるまいし……!』


 入学式のパーティ会場、そのベランダでワタワタしている、弓術師(アーチャー)の男子生徒たち。


 俺は受け止めた矢を、ゆっくりと振りかぶり……。

 「返すぜっ!」と抉るようなアンダースローで投げ放った。


 ……ビシュゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!


 光線のような速さで舞い戻った矢は、持ち主の背後にある壁を、ズドォン! と貫いていた。

 一歩も動けなかったヤツらは、悲鳴とともブッ倒れる。


「ひっ……ひぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」


「な、投げ返した!? あの距離から、矢を投げ返してきやがった!?」


「ば、バカ言うなよ! ここまで200メートルはあるんだぞ!?

 弓矢のスキルを使わないと届かないような距離を、素手で投げ返すなんて……!」


「ばっ、バケモンだぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 大成したら、器用貧乏ではないんだが… このスキルは「超器用」でよいのではないかと思う。 日本語を勉強してください。
[気になる点] よく考えたんだけど1回「器用」を振り分けたら戻せなくない?
[気になる点] よくこんな校長が就任できたな。指導者として欠片も相応しくない
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