29 必殺のニンジャスキル
29 必殺のニンジャスキル
根っこだけになったネギの茎を復活させるためには、水が必要だ。
少量の水なら、植物から手に入れることはできそうだが……。
「せっかくだから、水場を探すとするか。
ニックバッカ先生の言っていた『不渇』の魔法もこれから効果が薄れてくるだろうし」
というわけで午後からの予定は、『水場さがし』をすることにした。
俺は森林浴でもする気分で家を出たのだが、森をブラついていると、以前よりも動物の姿がちらほら見えるようになった。
「いままでは鳥くらいしか見かけなかったのに、ウサギや鹿がいる……。
もしかして、『忌避』の魔法が薄れてきているのか?」
しかし元々は動物が住んでいたのであれば、水場はきっとあるだろう。
以前、錬金術師のアケミと出会ったキノコ畑からさらに奥に進んでみると、開けた場所に出る。
そこはさんさんと陽が差し込む、のどかな感じのする池だった。
池の対岸にはすでに先客がいて、鹿やイノシシが仲良く水を飲んでいる。
「おっ、いい感じの池じゃないか。風も通ってて気持ちいいな」
なんとなく昼寝したい誘惑にかられたが、ガマンして水を汲むことにする。
しかし今になって、水を入れるものが無いことに気付いた。
「う~ん、どうしよう。コートのポケットは容量拡張されているから入りそうだけど、水をそのまま入れるのはなんかやだな」
池のほとりで悩んでいると、背後からいかにもガラの悪そうな足音が近づいてきた。
「おい、テメーなにしてくれてんだ、ああん?」
振り返ると、モヒカン頭の3人組の男たちが、絡みつくような視線で俺を睨んでいた。
彼らは釘のついた棍棒を手で弄んでいる。
素肌に毛皮をまとい、筋肉で盛り上がった腕と、タトゥーを威圧的に振りまいていた。
非常にスタンダードな、蛮族スタイルだ。
赤いモヒカンの男がずいと近づいてくる。
「この池は俺たち、1年15組のナワバリなんだよ!
テメーみてぇなクソザコが近づいていい場所じゃねんだよ! ああんっ!?」
1年15組……。
たしか、山賊や蛮族、呪術師や闇の魔術師を育成している学校から来たクラスだ。
クラスのほとんどが男子で、女子は1名しかいないらしい。
俺がそんなことを考えていると、モヒカン男たちはゲラゲラと笑った。
青いモヒカンの男が「コイツ、ブルっちまってるぜ!」と嘲る。
黄色いモヒカンの男が「今にも小便チビりそうだな!」とさらに煽る。
「無理もねぇさ! 俺たちピラ兄弟を前にして、ビビらねぇヤツなんていねぇよ!」
俺は「ピラ兄弟?」とオウム返しにする。
「俺たちを知らねぇだなんて! コイツ、ビビり過ぎて頭がおかしくなっちまった!
ならブチのめす前に教えてやんよ、俺はティン・ピラだ!
青いのはツィン・ピラで、黄色いのはトゥイン・ピラだ!」
「さぁて、思いだしたか!? 俺たちこそが、お前の『恐怖』だ!」
「こちとらヴァイスのヤツにデカいツラされて、トサカにきてたところだ!」
「たっぷりウサ晴らしさせてもらうぜぇ! というわけでぇ、無職のゴミはここで、半殺し決定でぇ~す! 」
「泣け、喚けぇ! でも許してやんねぇけどな! ぎゃはははははは!」
勝手にどんどん盛り上がっていくピラ三兄弟。
よくこんなにハイテンションになれるものだと、俺は思わず感心してしまう。
「そうか。そんなに暴れたいなら、付き合ってやらんこともないけど……」
すると三色のモヒカン頭に、ビキビキと稲妻のような青筋が走った。
「ふざけやがって、死ねぇぇぇぇぇ!」
棍棒を振り上げ襲いかかってくる。
その構えはさすが蛮族だけあって、素人丸出しだった。
俺はゆったりとした気持ちで『武道家』に転職し、ボクシングの構えを取る。
迅雷のような三連続のジャブで、三兄弟の鼻っ柱に軽いカウンターを叩き込んだ。
すると三人同時に鼻血を噴き上げながら、もんどり打って倒れた。
「はっ、鼻がっ!? 鼻がぁぁぁぁ~~~~っ!?」
「はっ、鼻が爆発したぁ!? 今のは何だったんだ!?」
「チクショウ、テメェ、なにしやがった!?」
腰を抜かしたまま鼻を押さえ、あとずさる三兄弟。
「ブモォォォォォォ……!」
不意に、俺の背後ですさまじい鼻息が聞こえる。
振り返ると、茂みをメキメキとなぎ倒しながら、大きなイノシシが現れた。
大イノシシが現れたとたん、池にいた動物たちはみな逃げ出す。
どうやら、この水場の本当のヌシが現れたようだ。
三兄弟は「ひぃぃぃぃーーーーーーーーっ!?」と這い逃げ、近くにあった木の上に登っていた。
俺は微動だにせずに、イノシシを見据える。
安全圏に避難した三兄弟は、威勢の良さを取り戻していた。
「おい、見ろよ、あのゴミ野郎! イノシシにすっかりブルっちまってる! 一歩も動けねぇようだぜ!」
「俺たち三兄弟ならあんなイノシシ楽勝だが、それじゃつまらねぇよなぁ!」
「そうそう! あのゴミ野郎がやられるところを、ここから見てようぜ!」
大イノシシは鼻息も荒く、後ろ脚で土蹴りをしていて、いまにも突進してきそうだ。
俺の倍くらいの体格、しかも鋭い牙まであるので、まともにぶつかりあっても勝ち目はないだろう。
「ならば……!」と俺は地を蹴った。
同時に、「ブモォォォォォォォォォォーーーーーッ!!」と大イノシシも向かってきた。
俺の背後から、驚愕が追いついてくる。
「あ、あのゴミ野郎、自分から突っ込んでいきやがった!?」
「バカが、死ぬぞっ!」
「ま、マジでイカれてやがるっ!」
俺は、大イノシシとぶつかりあう直前に『ニンジャ』に転職。
砲弾のような体当たりを、掠めるほどのギリギリでジャンプしてかわす。
空中で大イノシシの牙を掴み、ぐるんと身体を反転させる。
そのまま牙を力いっぱい引っ張り上げ、大イノシシの上体を持ち上げた。
縁石に乗り上げた馬車のように、いななく馬のように、後ろ脚だけを高く持ち上げる大イノシシの身体。
俺は両脚を地面につけると、深く腰を沈めて溜めをつくり、おもいっきり跳躍した。
「「「とっ……飛んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」」」
三色の絶叫、そして大イノシシとともに大空を舞う。
空中で大回転すると、俺と大イノシシは頭から真っ逆さまに落ちる。
しかし大イノシシの頭のほうが下にあるので、必然的に……。
……ドゴワッ……シャァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
大イノシシは顔面から地面に叩きつけられ、クレーターのように地面が陥没。
衝撃が広がって池が波打ち、木々がざわめく。
鳥たちは飛び立ち、三兄弟は腐った果実のように木から落下していた。
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