25 罠でレベルアップ
25 罠でレベルアップ
レオピンが『拠点』を作ってしまった。
その事実に、校長と教頭はすっかり打ちのめされてしまう。
「ほ、本当に、拠点ができてるざます……」
「我が校に拠点ができるのは、2年後の予定であったのに……」
校長はハッと我に返ると、教頭に向かって泡を飛ばした。
「きょ、教頭! これはまたとないチャンスである!
開拓系の学園で、拠点を立ち上げた最速の記録は、793日なのである!
それを、たったの2日で拠点を立ち上げたのであれば、大幅な記録更新になるのである!
これを申請すれば、我輩たちのランクダウンも帳消しになるのである!」
「そ、それはそうざますけど……。
『特別養成学級』のゴミが立ち上げた拠点を、申請するわけには……!」
「ぐぐっ、そうであった……!」
肝心なことを忘れていたとばかりに、校長は頭を抱える。
ふと教頭が「そうざます!」と名案を閃いたように叫んだ。
「校長! ならばこちらも予定を繰り上げて、生徒たちに拠点作りを優先させればいいざます!
無職のゴミがひとりで拠点を作れるのであれば、大勢の優秀な生徒に作らせれば、もっと早くできるざます!」
「そ……それもそうであるな! では生徒の中からプロジェクトリーダーを選出し、作業にあたらせるのである!」
ふたりは次の日の早朝を待って、ある生徒を校長室に呼び出した。
「……僕になにか御用でしょうか?」
「おお、ヴァイスくん! 身体の調子はどうであるか?」
「はい、保健の先生のおかげで、すっかり元気になりました。
あの、今回のランクダウンの不祥事については、僕が原因ではなく……」
「まあまあ、過ぎてしまったことは良いのである!
そんなことよりも、キミにやってもらいたいことがあるのである!」
「そうざます! ヴァイスくんは賢者ざます!
そのありあまる『知力』と『教養』のステータスを活かして、居住区を『拠点』にしてほしいざます!」
「拠点を? 拠点の建築は、まだ先のはずでは……?」
「いやいや、キミほどの有能な生徒が陣頭指揮を取れば、今からでも充分に可能なのである!
特別に我輩の権限で、キミを『拠点委員長』に任命するのである!」
「拠点を作るために、他のクラスの生徒たちを使ってもいいざますよ!」
「フッ、なるほど、お話はわかりました。
今の人材と資材で拠点を作るのは難しいですが、この僕になら可能です。
いや、作れるのは僕以外には存在しないといってもいいでしょう」
「なら、引き受けてくれるのであるな!?」
「はい、でもそのかわり、僕からもお願いがあります。
拠点の設立に成功したら……僕を、生徒会長に任命してほしいのです」
「おお、そのくらいならお安い御用なのである!」
「そうざます!
拠点設立の最短記録を塗り替えたのであれば、生徒会長に任命する理由としてはじゅうぶん過ぎるざます!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
俺は家の窓からさし込む朝日を浴び、気持ちよく目覚めた。
「うぅ~ん、よく寝た。それに、昨日みたいに窓に黒い紙を貼るイタズラもなかったから、寝坊せずにすんだ。
やっぱり、家のまわりに柵を作ったのは正解だったな」
伸びをしながら、家の窓から外を覗く。
すると庭の木に、巨大なミノムシがぶらさがっているのを見つけた。
どうやら、仕掛けていたワイヤートラップに引っかかって、抜けだそうとしてもがくあまり、余計にワイヤーに絡め取られたようだ。
ミノムシはゆっくりと回転し、こちらを向く。
見覚えのある顔と、ばっちり目が合う。
「シノブコか。また人の家に勝手に忍び込もうとしてたんだな」
シノブコは答えず、いつものジト目で俺を見つめている。
唇だけが静かに『たすけて』と動いた。
「やれやれ、これに懲りたら二度と忍び込もうとするんじゃないぞ。
用があるんだったら、普通に門から入ってこい」
俺はポケットから『ギスのシュリケン』を取り出すと、ミノムシの糸に向かってシュッと投げつける。
糸はブチッと切れ、シノブコはボトッと地面に落ちた。
シノブコはワイヤーでグルグル巻きにされた身体を、尺取り虫のように動かして這い逃げていく。
門のあたりでコロンと転がって振り返ると、
「次に会ったときは、殺し合いでござる!」
いつもの捨て台詞を吐き、ずりずりと去っていった。
そして続けざまに、窓の下から「ぅぅ……」と呻き声がする。
視線を落とすと、落とし穴が陥没していた。
穴の底を覗き込んでみると、またしても見覚えのある顔と視線がぶつかる。
「教頭先生、なにやってるんですか?」
教頭先生は、設置した木槍にギリギリ貫かれない体勢で、底に倒れていた。
「た……助けるざます……」と今にも死にそうな顔で懇願している。
なんだか哀れになってきたので、俺は庭に出て、以前作った『ギスのハシゴ』を使って教頭先生を穴から出してやる。
教頭先生は落ちたときの衝撃で足をくじいてしまったようだが、実に元気そうだった。
なぜならば、身に付けているスーツがボロボロで泥まみれなのに気付くと、
「ぎゃあああっ!? オーダーメイドのスーツが台無しざますっ!?
庶民には逆立ちしても買えないスーツなんざます! まだ月賦も終わってないざます!
しかもランクダウンしたせいで、これからお給料も下がるというのにっ!
それなのに、それなのにぃぃぃぃ~~~~っ!?」
ガックリと四つ足でうなだれ、地面をダンダン叩いて悔しがっていた。
「教頭先生。これに懲りたら、俺に用があるときはちゃんと門から入ってきてください」
すると教頭は、キッと俺を睨み付ける。
「『特別養成学級』の生徒に、用なんてあるわけがないざます……!」
「じゃあ、なんであんな所にいたんですか?」
しかし教頭は答えず、落ちていた木の枝を杖代わりにして、おじいちゃんのように歩き出す。
そしてシノブコと同じように、門のあたりで振り返ると、
「今日は授業はないざます。全校、開拓の自由時間になったざます。穴でも掘って、遊んでいるがいいざます」
捨て台詞かどうかもよくわからない連絡をして、ヨロヨロと去っていった。
その背中を見送っていた俺の身体が、陽光を受けた朝露のように光りはじめる。
「同級生と先生を罠にかけてレベルアップするとは……ちょっと悪いことしたかな」
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レオピン
職業 罠師
LV 9 ⇒ 10
HP 1810
MP 1810
ステータス
生命 181
持久 181
強靱 181
精神 181
抵抗 181
俊敏 181
集中 181
筋力 181
魔力 181
法力 181
知力 181
教養 181
五感 181
六感 181
魅力 1
幸運 2
器用 280 ⇒ 380
転職可能な職業
生産系
木こり
鑑定士
大工
石工師
革職人
NEW! 木工師
探索系
レンジャー
トレジャーハンター
戦闘系
戦斧使い
ニンジャ
武道家
罠師
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