02 幼なじみの聖女、モナカ
02 幼なじみの聖女モナカ
「イエス! ちょっとゴミが混ざっていたようざますが、『能力開花の儀式』は以上となるざます!
それでは次に、開花した能力を集計し、各クラスのランク付けを行なうざます!」
「お待ちください、イエスマン教頭先生!」
「おや? なんざます? ヴァイスくん?」
「ランク付けの前に、僕たち1年20組は、『追放』を行いたいと思います」
ヴァイスが宣言した『追放』。
これは、足手まといだったり決まりを守らない生徒を、クラスから除名する制度のことである。
クラスに所属する生徒の過半数の同意があれば、名前を挙げられた生徒は追放となる。
1年20組の場合は生徒総数が10名で、追放対象を除くと9名。
ということは、5名の賛同があれば追放が成立する。
追放されてしまった生徒は、『特別養成学級』と呼ばれるクラスに転属となる。
『特別養成学級』というのは、ようは役立たずの『追い出し部屋』であった。
この制度は本来は、学園生活を通じて発生するものである。
しかし入学初日、しかも入学式の時点での追放は前代未聞であった。
ヴァイスの迅速すぎる決断に、イエスマン教頭は唸る。
「う~む、なるほど! ここでゴミを追放しておいて、ランク付けの悪化を防ごうという狙いざますね!」
「はい、何事も最初が肝心ですからね」と、眼鏡を直しながら答えるヴァイス。
「さすがはヴァイスくん、賢者になるだけのことはあるざます!
よろしい、それで今ここで決をとるざます!
1年20組の諸君! レオピン君という名のゴミを追放したいと思う者は、手を挙げるざます!」
……バッ!
そして挙がる、9本の手。
レオピンのクラスメイトだった少年少女たちはみな、迷いなき瞳をしていた。
しかし、彼らは知るよしもない。
レオピンを手放したことを、海のように深く後悔することになろうとは。
しかも、このあとすぐに……!
「それでは満場一致で決まりざます! ゴミは焼却場へ! レオピンくんは『特別養成学級』へ! ざますっ!
スッキリしたところで、各クラスのランクを発表するざます!」
そして発表されるランク。
その、上位の5組となったのは……。
1位 1年11組 Sランク
2位 1年02組 Bランク
3位 1年19組 B-ランク
4位 1年07組 C+ランク
5位 1年20組 Cランク
「おおっ! やっぱり、トリプルワン……! 全員が上級職だった、1年11組がトップざます!
女神の生まれ変わりと呼ばれている、聖女モナカさんがいる1年2組も大健闘ざます!」
この結果に、ヴァイスは歯噛みをしていた。
――くっ……! Cランクとは……!
大きなゴミを処理したから、Bランクは堅いと思っていたのに……!
僕以外のゴミどもの能力が、あまりにも低すぎるんだ……!
「そして聖女モナカさんといえば、みなさんに朗報があるざます!
モナカさんの聖女デビューを記念して、彼女の『癒し』を最初に受けた生徒のクラスには、1千万¥の賞金がプレゼントされるざます!」
――聖女モナカ……高名なる聖女一家のご令嬢だ。
男なら誰しもが憧れる、彼女の慈愛を最初に受けるのは、もちろんこの僕、ヴァイスだ……!
1千万もの軍資金があれば、他のクラスに大きく差を付けられる……!
最高の女と最高の金、どちらも何としても手に入れてやるっ……!
ヴァイスはイエスマン教頭が掲げている、『モナカさんとラブラブ賞』と書かれた大きな目録を、射貫くように見つめていた。
しかし、彼は知らない。
というか、会場にいる生徒たちは誰も知らなかった。
高嶺の花の少女がいま、どこにいるのかを、
「……レオくん?」
会場の隅でうなだれていたレオピンは、鈴音のような声に顔をあげる。
そこには、後光を放っているかと思うほどに美しい少女がいて、心配そうに覗き込んでいた。
穢れとは無縁そうな純白のローブに、キッチリと着こなした制服。
膝下のスカートからは、透き通るような白いふくらはぎが覗いていた。
そよ風に乗って流れる長い髪からは、花のような香りがこぼれる。
宝石のように輝く瞳に桜の花びらのような唇、すべてが儚く、神々しさすらあった。
道端に溶け残った雪のように、薄汚れたレオピンとは大違い。
レオピンは少女に「キミは?」と尋ね返す。
「わたしのこと、覚えてらっしゃいませんか? 小学校でいっしょだった、モナカです」
レオピンは「えっ!?」と目を見開く。
思い出の中にいた少女とは、まるで違っていたからだ。
「キミがあの、泣き虫モナカ……!? 立派になったなぁ!」
「も……もう、レオくんったら! わたしはもう、泣き虫じゃありません!」
はにかみながら両手で胸を押えるモナカ。
その表情と仕草は、幼い頃のまま。
しかし胸は豊かに育っていて、両手で押すとムニュッと脇からはみ出すほどの量感があった。
レオピンは思わず目を奪われそうになったが、モナカの顔を見つめることに集中する。
「中学のときは別々だったけど、またいっしょの学校だな」
「はい! よろしくお願いいたします!」
ぺこりと頭を下げ、弾ける笑顔のモナカ。
しかし、その顔はすぐに曇った。
「あの、大丈夫ですか? お顔、おケガをなさっていますけど……」
「ああ、なんともないさ。このくらいのケガなら、小学校の頃もよくしてただろう?」
「はい、レオくんはいつもわたしを守ってくださいましたよね。
それでわたしは、レオくんのおケガを治したくて……」
言葉の途中でハッとなり、ポッと頬を染めるモナカ。
「じ……じっとしていてくださいね、いますぐ治してさしあげますから」
モナカは白魚のような指で、レオピンの頬にそっと触れる。
するとふたりは、白く清廉なる光に包まれた。
レオピンの顔にあった擦り傷が消え、口の中から出ていた血も止まる。
まさに奇跡のような力に、レオピンは自分の顔を触って「おお」と驚きの声をあげた。
「すごいな。キミの姉さんもかなりの癒し手だったけど、それに負けないくらいの力じゃないか」
モナカは慈母のように笑む。
「うふふ、ありがとうございます。
わたしの初めての『癒し』が、レオくんで良かったです」
と、ふたりは今になってようやく、会場が水を打ったように静まり返っていることに気付いた。
入学式のステージのほうを見ると、ネコドラン校長とイエスマン教頭が、こちらを見つめている。
それだけではない、新入生たちもみな、レオピンとモナカに釘付けになっていた。
誰もがみな、口をあんぐりさせて。
「ま……マジ、かよ……。俺たちの憧れの、モナカさんが……」
「あんなゴミ野郎に、初めての『癒し』をするだなんて……」
「うっ……うっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」














