18 クラフトの授業
18 クラフトの授業
教頭の意地悪はあったものの、俺はモナカのおかげでみなと同じように椅子に座ることができた。
そして、ようやく授業が始まる。
「はぁい、それでは今日は、革職人さんは『革のマント』を、裁縫師さんは『ワッペン』を作ってみましょうねぇ」
マントは形状にもよるが、袖などが無いので作るのは難しくない。
その気になれば、皮を切っただけでも『革のマント』と言えなくもない。
そういう意味では、革職人の入門としてはピッタリのクラフトと言えるだろう。
そしてこの学園は何事もサバイバルだが、授業の最中だけは、クラフトのための素材と道具は貸してもらえることになっている。
ちなみに、作成したものは自分のものにならず、学校に納品しなくてはならない。
先生はおっとりとした口調で続けた。
「でも今日は特別にぃ、良いクラフトをした生徒さんはぁ、できあがったものを持ち帰って良いことにしまぁす。
あと、持ち込んだ素材で作ったものについてはぁ、できあがりに関係なく、持ち帰っても良いでぇす」
俺は素材については『飛竜の皮』があったので、道具だけ借りればいいやと思っていた。
しかしここでまた邪魔が入る。
「ノーッ! 『特別養成学級』の生徒には、クラフトの道具は貸し出せないざます!」
フィラフィー先生の「えっ? そんな決まりありましたっけ?」という言葉は完全に無視。
教頭先生は、鬼の首を取ったように騒いでいた。
「しかしレオピンくんには特別に、この『魔法の鉄針』と『魔法の鉄鋏』だけを貸してあげるざます!
それ以外の道具に関しては、この教室にあるものは糸くず1本使っちゃダメざます!」
「ええっ、生地と針とハサミだけでクラフトはできませんよぉ!?」
困り顔のフィラフィー先生。
教頭先生は俺の耳元に顔を寄せてきて、そっと囁きかけてきた。
「魔法の鉄針とハサミで、そのばっちい皮をズタボロにして、使い物にならなくするざます。
そしたら特別に、別の皮をあげるざます。
そんなばっちいのじゃなくて、みんなに配られるのと同じ、立派な皮を……!」
俺は小声で返す。
「教頭先生は、やっぱりわかってたんですね」
「……ファッ? なにを言ってるざますか?」
「だって普通の針やハサミだと、『飛竜の皮』には歯が立ちません。
だから俺は、魔法の道具をフィラフィー先生から借りようと思ってました。
しかしそれより先に、教頭先生が魔法の道具を渡そうとしてきたということは、この皮が『飛竜の皮』だって知って……」
「きっ……きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
また発作が出た。
俺の隣にいたモナカがビックリして、ビクビクッと肩をすくめている。
教頭は血走った目を剥きだしにして、俺に魔法の針とハサミの切っ先を突きつけてきた。
「なら、好きにするがいいざます!
わたくしめは、『飛竜の皮』の幻覚に取り憑かれたキミを、助けてあげようとしていたざます!
それなのに、人の好意を疑うだなんて、とんでもない不良生徒ざます!
ほら、針とハサミ受け取るがいいざます! 糸なしで、チクチクザクザクひとり遊びをするがいいざます!」
「そうですか? なら、そうさせてもらいます」
俺はニヤリと笑い返しながら、鈍く光る針とハサミを受け取った。
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魔法の鉄針(貸与品・マジックアイテム)
個数1
品質レベル20(素材レベル5+職業ボーナス10+魔力ボーナス5)
鉄針に魔法錬成を施したもの。
通常の鉄針では阻まれてしまう素材も貫通することができる。
特殊効果
刺突耐性無視
品質レベルの3倍までの、刺突耐性のある素材を貫通することができる。
魔法の鉄鋏(貸与品・マジックアイテム)
個数1
品質レベル20(素材レベル5+職業ボーナス10+魔力ボーナス5)
鉄鋏に魔法錬成を施したもの。
通常の鉄鋏では阻まれてしまう素材も切断することができる。
特殊効果
斬撃耐性無視
品質レベルの3倍までの、斬撃耐性のある素材を切断することができる。
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俺が不敵な笑みで魔法の道具を受け取ったので、教頭は「ぐぬっ!?」と眉根を寄せていた。
しかしハッタリだと思ったのか、すぐに笑い飛ばす。
「ムホホホホホホッ! そうやって強がっても無駄ざます!
針とハサミだけで、どうやって革細工をするざますか!
革細工には、糸がないとどうしようもないざます!
そんなこともわからないなんて、やっぱりレオピンくんは『特別養成学級』に相応しいざんす!
さぁ、みんなも笑ってやるざんす! ムホホホホホホホッ!」
教頭が音頭を取ると、クラスが笑いに包まれる。
まわりを見ると、誰もが俺をバカにしたように笑っていた。
ただ、ふたりの女性を除いて。
フィラフィー先生はおろおろするばかりで、モナカは何かを言いたそうに口を波線にしていた。
ガマンできなくなって立ち上がろうとしたモナカを、俺は手で制する。
「まあ見てろって」
それだけ告げて、俺は席から立ち上がる。
席の間をぬって、窓際に向かった。
この教室は1階にあり、開けっぱなしの窓からは裏庭が見渡せる。
裏庭には観葉植物や植え込みがあって、まだ何も植えられていない花壇や、魚のいない小さな池があった。
俺は窓枠に手をついて、ひょいと乗り越え、裏庭に降りる。
「ムホホホホ!」と嘲笑が追いかけてきた。
「見るざます! なにをするのかと思ったら、逃げ出したざます!
やっぱり大口をたたいただけだったざます!」
俺は振り返って、フィラフィー先生に向かって言う。
「先生、俺のことは気にせず、授業を進めてください」
「え? あ、は、はぁい。それじゃあみなさんはぁ、革のマントとワッペンを……」
授業は再開されたが、教室じゅうの視線はすべてこっちに向いたまま。
俺は気にせずに自分の作業を開始する。
裏庭にあるなかで、もっとも上質な植物のツルを探した。
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ダイジャヅル
個数5
品質レベル5(素材レベル5)
大蛇のような太いツル。
丈夫で柔軟性に優れており、緊急時にはそのまま綱などに使われることもある。
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「よし、これなら良さそうだ」
石のナイフで切断した『ダイジャヅル』の皮を剥き、中の繊維を割く。
割いた繊維を池の水で洗って、日なたに干す。
その間に、簡単な火起こし台を作り、火種を作って焚火にした。
あとは、繊維を火で炙れば……。
と、そこで俺は強烈な視線に気付く。
校舎のほうを見ると、教室の窓際には生徒たちがぎっしり詰めかけ、俺を凝視している。
「あのゴミ、いったい何やってんだ……?」
「石のナイフでツタを取って、焚火にかけてるぞ……?」
「やってることが、革細工とぜんぜん関係ねぇじゃん……」
どうやら、俺がなにをしているのか見当もつかないらしい。
フィラフィー先生ならわかってくれるだろうと思っていたのだが、生徒と一緒になって首をかしげていた。
「レオピンくんは、いったいなにをやっているんでしょうかぁ……?」
「でも先生、レオくんならきっとやってくれます! がんばってください、レオくん!」
フィラフィー先生の隣で、いっしょうけんめい手を振ってくれるモナカ。
そうこうしている間に、俺は繊維をいい感じで炙り終える。
「あとはこれを、こより合わせれば……」
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ダイジャヅルの糸
個数50
品質レベル17(素材レベル5+器用ボーナス12)
ダイジャヅルの繊維から作った糸。
高品質で耐久性が高く、摩耗や汚損にも強い。
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「いっ……糸ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーっ!?」
と絶叫がした。
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