17 降格と昇格
17 降格と昇格
クラスの調和を取り戻すキッカケとなるはずだったキノコパーティ。
しかしそれは開始3分と経たずにお開きとなった。
キノコをひと口食べた瞬間、クラスメイトは激しい腹痛に襲われる。
キノコよりも真っ青な顔色になり、誰もが服が汚れるのもかまわずに地面を転げ回った。
「うぐぐぐっ……! い、痛い! 痛いよぉっ! このままじゃ、死んじゃう!」
「や、ヤバい、マジヤバいって! ほ、他のクラスの聖女たちに、助けを……!
だっ……誰かあっ……!!」
しかしプライドの高いヴァイスが、助けを求めようとするクラスメイトに待ったをかけた。
「や……やめろっ! みっともないことをするな!
戦闘で傷付いたのならともかく、食あたりで聖女の世話になるだなんて、いい笑いものだっ!
ボクの活躍は、一族のみなが注目してるんだぞ!」
「いぎぎぎっ……! そりゃ俺様だって同じだ!
でも、そんなこと言ってる場合かよっ! ならせめて、保健室に……!」
「保健室だなんて、もっとありえない! 保健室の世話になったら、僕のクラスの評価は……!」
『王立開拓学園』にも保健室は存在する。
開拓のサバイバル生活において、聖女の生徒では手に負えないケガをした生徒を収容するためのもの。
しかしその施設を利用してしまうと、クラスに対して大きなペナルティが科せられてしまうのだ。
1年20組は空中分解。
いや、みんな這いつくばっているので地上分解とでも言うべきであろうか。
クラスは助けを呼ぶ派と、呼ばない派に分かれ、とうとう喧嘩をはじめる。
彼らは優秀な冒険者のはずなのに、腹痛のせいで魔法やスキルは使えない。
イモムシの喧嘩のようにもみあい、ゴロゴロと転がる。
それは涙と泥にまみれた、世にも低レベルで醜い戦いであった。
そして最後には、死屍累累。
1年20組のメンバーたちは全員、校門の前で白目を剥き、泡を吹いて気絶していた。
彼らは朝になってようやく発見され、全員『保健室送り』に。
始業からわずか2日目。しかもクラス全滅というのは、開拓学園において例を見ない珍事であった。
1年20組の面々は、保健室の先生の治癒で即日回復はしたものの、その代償は計り知れない。
当然のように、彼らはランクダウンを言い渡される。
入学式の時に評された『C』から、『C−』へと……!
「うっ……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
この失態に、ヴァイスは生きたまま炎に焼かれるように絶叫した。
彼は知らない。
レオピンを追放してさえいなければ、こんなことにはならなかったことを。
……そして、時間は現在、レオピンのランチ後へと戻る。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
俺は大遅刻をしてしまったせいで、午前中の校内オリエンテーションには参加できなかった。
おかげで校内の構造を知りそこねたが、まあ通っているうちに詳しくなるだろう。
そして午後からは通常授業だった。
『王立開拓学園』の授業というのは、主にふたつの種類に分けられる。
ひとつ目は全生徒が参加しなくてはならない、『全体科目』の授業。
午前中のオリエンテーションとかがそうだな。
そして午後からの授業は、ふたつ目である『選択科目』の授業。
同時に複数の授業が行なわれ、好きな科目を選べるようになっている。
自分の職業に近しい授業を受けるも良し、新しい発見のために違う授業を受けてもかまわない。
開拓はクラス単位の評価となるため、普通はクラスで話し合って、誰がなんの授業を受けるか決める。
しかし俺は『特別養成学級』でひとりぼっちなので、誰に気兼ねすることもない。
時間割を見て、良さげな授業にアタリをつけた。
それは、『革職人』の科目。
革を使ったクラフトを教えてくれる、生産系の授業だ。
俺はもともとクラフト大好き人間なので、革の扱いはお手の物。
ちょうど『飛竜の皮』を手に入れたし、レベルアップして『革職人』の職業も選べるようになった。
「今の俺にとって、これほど渡りに船な授業もないな。よし、これに決めた!」
さっそく教室に向かうと、すでに多くの男子生徒たちがいた。
空いている席に座ろうとしたら、なぜか教室に居合わせた教頭から声をかけられる。
「ノーッ、レオピンくん! キミの席はここざます!」
教頭はわざわざ俺のあとについてきて、俺専用の席を準備していたらしい。
といってもそこは、教室の隅っこで、敷きものすらないただの床だった。
俺はいちばん前の席に座っていたのだが、仕方なくいちばん後ろに移動する。
しばらくして、担当の先生が入ってきた。
「こんにちはぁ。入学式のときにも紹介されましたけど、もう一度自己紹介しておきますねぇ。
生産系の革職人と、裁縫師の授業を担当しております、フィラフィーでぇす。よろしくねぇ」
フィラフィー先生は、メガネにふわふわした髪で、見るからにおっとりした感じの女の先生だった。
「やっぱり革職人の授業はぁ、男の子が多いですねぇ。
でも人数があまり多くないようなのでぇ、隣の裁縫師の授業と合同ということになりましたぁ。
それじゃあみんな、入ってきくださぁい」
先生の合図で、隣の教室に繋がる扉から、多くの女生徒が入ってきた。
「おおっ!?」と色めきたつ革職人の卵たち。
革職人は男子生徒が多いのだが、逆に裁縫師はほとんどが女生徒だった。
「せっかくいっしょの授業ですからぁ、裁縫師さんたちはぁ、革職人さんの隣に座るようにしてくださいねぇ。
扱う素材は違うとはいえ、そのほうが勉強になりますからぁ」
裁縫師の女生徒のなかには、モナカもいた。
すかさず教頭が、玉座のような豪華な椅子をセッティングする。
「イエス、モナカさんはこちらに座るざます!
ここなら、モナカさんのしなやかな指から編み出される、美しい刺繍が支援者の方々によく見えるざます!」
「は、はぁ……」とモナカは気後れしていたが、ふと俺がいるのに気付いて、顔をパアッと明るくする。
「あっ、レオくん!」
彼女はぱたぱたと小走りで走ってきて、俺のすぐ隣の床に、なんのためらいもなくちょこんと正座。
そしてハツラツとした表情で、「教頭先生! わたし、ここに座ります!」と宣言。
「のっ、ノオッ!? モナカさんほどの聖女が、地べたに座るだなんて……!
そんなことをしたら、支援者が黙ってないざます!」
「えっ? でも、同じ生徒であるレオくんも床に座ってらっしゃいますよね?
レオくんが椅子に座るというのであれば、わたしも椅子に座りたいと思います!」
「ぐぎぎぎぎぎっ……! そっ、そんな……! そんなことを、許すわけには……!」
教頭は、口から血が出るほどに歯を食いしばっていた。
究極の選択を迫られているかのように、顔を赤くしたり青くしたりして悩んでいる。
やがて、首を絞められているような表情で、苦悶の声を絞り出した。
「ぎ……ぎぎ……! いっ……椅子に……!
椅子に座るざますっ! れおびんぐんっ!」
というわけで俺は、床から椅子に格上げとなった。
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