16 レオピンのいない1年20組
16 レオピンのいない1年20組
レオピンが、美少女たちと和気あいあいの昼休みを過ごしていた頃……。
かつてレオピンが所属していた1年20組のクラスメイトたちも、同じ中庭で昼食を取っていた。
しかし食べる手は進まない。
委員長のヴァイスは、眼鏡を外してはハンカチで拭き、何度も目をこすっていた。
「どうやら僕は、新しい環境と連日の激務で、ガラにもなく疲れているらしい」
彼の数メートル先の芝生にはレオピンがいて、両手に花どころか3人の美少女たちに囲まれていた。
「とうとう幻覚が見えるようになってしまったようだ。
モナカさんがレオピンの隣にいるのは、幼なじみのレオピンを憐れんでのことだろう。
好意などでは断じてなく、お姫様がホームレスに抱く、憐憫の感情と断定できる。
しかし、学園きっての美女といわれる錬金術師のアケミさんが隣にいるのは説明がつかない。
となるとやはりこれは、幻覚ということだ。
本来はモナカさんを悪い虫から守る立場の、シノブコくんまで一緒にいるのがなによりもの証拠だ」
ヴァイスは自分に言い聞かせるように、同じことをブツブツとつぶやいている。
その両脇にいた、力自慢のモンスーンと、盗賊のシーブス。
ふたりは、怨念のこもった目でレオピンを睨んでいた。
「ぐぐぐぐっ、あのゴミ野郎、調子に乗りやがって……!
俺様の憧れのシノブコさんと、あんなにイチャつきやがって……!」
「ぎぎぎぎっ、なんでアケミさんまで……!
アケミさんはアッシがいくらアプローチしても、ぜんぜんなびいてくれないでヤンスのに……!」
そしてとうとう、クラスの女子にまで異変が起こりはじめる。
「レオピンのやつ、うちのクラスにいたときは、あーしにゾッコンだったのに……!
マジ、許せないんですけど……!」
「おや? キャルルの姐さん、ヤキモチでヤンスか?」
「ちげーよバカ、誰があんなヤツに! あーしのパシリだったレオピンが、調子に乗ってるのがムカつくだけだし!」
「キャルルの姐さんはレオピンのことを、しょっちゅうからかってたでヤンスよねぇ。
ニセの告白したり、ニセのラブレター渡したり……」
「そーだよ、アイツはあーしだけのオモチャなんだし! それを勝手に、あの女たちは……!」
「無駄なおしゃべりは終わりだ。行くぞ、みんな」
「えっ!? ヴァイス、まだ昼休みっしょ!? 行くってどこへ……!?」
「『飛竜の皮』を探しに行くに決まっているだろう」
「でも、ヴァイスよぉ! さっき教頭先生が、魔法で偽装しているから1週間は見つけられないって、言ってたじゃねぇか!」
「モンスーン、それはキミのような凡人が探した場合の話だろう。
この賢者の僕にかかれば、発見までに1日もかからないだろうな」
「さっすが、ヴァイスの旦那! どこまでもついていくでヤンス!」
「レオピンはそのへんで拾ってきた布を、『飛竜の皮』だと偽って生徒会長になろうとしていた。
実にヤツらしい、邪悪でありながらもマヌケなやり方だな。
生徒会長になったら、僕たちが「戻ってきてくれ」とすがるとでも思っているのだろう。
でも、ヤツは気付いていないのだ。己が、どれだけ愚かで浅はかなのかを」
クラスメイトからどっと笑いが起こる。
散り散りになりかけていたクラスの心を、再びひとつにしたヴァイス。
彼はさっそうと立ち上がり、みなに言った。
「これからクラス一丸となって、『飛竜の皮』を探すぞ!
見つかるまで1年20組は、授業をすべて欠席し、開拓も中断する! いいなっ!」
「おーっ!」と立ち上がるクラスメイトたち。
彼らは知らない。
彼らが探しているものは、もうすでにレオピンが手に入れていることを。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
1年20組のメンバーは、授業そっちのけで校舎を駆けずり回り、『飛竜の皮』を探す。
しかし、見つからなかった。
とうとう夜になり、校舎からも締め出されてしまう。
メンバーは1日中走り回ってヘトヘトだったが、委員長のヴァイスはあきらめなかった。
「校舎に入れなくても、探索はできる! 校舎の外側や、外周の庭を探すんだ!」
その時、みなは校門の前にいたのだが、すっかりへたりこんでいた。
キャルルが尻もちをつくようにして、ぺたんと地べたに座り込みながら漏らす。
「もう歩けないよ、委員長ぉ。もう遅いし、今日はこのくらいにして……」
「キャルル、なにを言っている!? 明日の朝には、『飛竜の皮』は僕らの手に……!」
モンスーンが「おいおい!」と話に入ってくる。
「ヴァイス! まさか俺様たちに、夜通しで探せっていうつもりじゃねぇだろうな!?」
「見つからない以上、当然だろう」と当たり前のように答えるヴァイス。
「っていうかさぁ、1日で見つけるとか言ってなかったっけ?」「言ってたでヤンス!」
「それはキミたちの捜索が、ボクの期待していた通りの働きだった場合のことだ。
まさかキミたちがこんなにも手際が悪いとは、予想外だったよ」
「ちょっと! それってあんまりじゃね? あーしたちは委員長の言うとおりに探してたんだよ!?」
「そうだ! それに俺様たちは、昼メシもロクに食ってなかったんだぞ!」
「ならばキミたちに、賢者の尊い教えを与えよう。『働かざるもの食うべからず』」
「このっ、言わせておけば……!」
ヴァイスの物言いに、クラスの間に険悪なムードが漂う。
盗賊のシーブスが慌てて言った。
「な、なら、ここで夜メシにするでヤンス! 腹ごしらえをすれば、きっといい知恵が浮かぶでヤンスよ!」
「はぁ? なに言ってんのシーブス、食べるものなんてどこにもないっしょ」
「そうだ! 俺様たちはずっとヴァイスの野郎に振り回されてて、食べ物を取りに行ってねぇんだぞ!」
「こんなこともあろうかと思って……準備しておいたでヤンスよ!」
シーブスは背負っていたリュックをひっくり返す。
すると、拳くらいの大きさの、カサのついた青いカタマリがボトボトと落ちた。
「これって……キノコじゃん」
「そうでヤンス、キャルルの姐さん。
昨日、アッシが森の中に入って、食べられるキノコを採っておいたでヤンス。
たくさんあるでヤンスから、キノコパーティとしゃれこむでヤンスよ」
「でかしたぞ、シーブス!」
「ふん、みんながシーブスくんくらい有能だったら、もう『飛竜の皮』は見つかっていただろうに……。
シーブスくんの機転に免じて、少し休憩しようじゃないか」
彼らは知らない。
彼らが食べようとしているのは、昨日、レオピンが止めた毒キノコであることを。
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