13 真っ赤な黒ずきんちゃん
13 真っ赤な黒ずきんちゃん
俺は夜風に吹かれながら、来た道を引き返し、森まで戻った。
月明かりに照らされた我が家、その扉に手を掛けたときに、鼻腔に違和感を感じる。
……モナカとはまた違う、かすかな甘い香り……。
この香りは、たしか……。
俺の『五感』ステータスは、201ポイントもある。
いまの俺なら、犬と嗅覚勝負をしても勝てるだろう。
おかげで、あたりに漂うわずかな香りの変化にも気付くことができた。
「何の用だ、シノブコ?」
声を掛けながら扉を開けると、部屋の奥にはちょこんと人影が座っていた。
窓から差し込む光に照らされた小柄な身体。
首から上は影になって見えなかったが、肩まで垂れている頭巾は間違いなく、あの女ニンジャのものだ。
暗闇がささやいた。
「……くせ者め」
「それはこっちのセリフだ。
こんな夜中に人の家に無断で立ち入っておいて、なにを言ってるんだ」
しかしシノブコは俺の言葉を無視し、マイペースで話を進める。
「にん。お前は、いったい何奴でござるか」
「ただの無職の落ちこぼれだよ」
「とぼけるでないでござる。拙者は見たでござる。
木から落ちたモナカ様を、お前が空中で抱きとめて着地するところを」
「なんだ、覗き見してたのか」
シノブコは音もなく立ち上がる。
「あの身のこなしは間違いなく、我らニンジャのスキルのひとつ『イヅナスロー』でござる。
生まれてこのかたニンジャとして修行してきた拙者ですら、体得できておらぬスキル。
それをどうして、無職のお前が使いこなしているでござるか」
「さあな、偶然じゃないのか」
「どこまでもとぼけるというのであれば、拙者にも考えがあるでござる」
……バッ!
シノブコはやにわに両手を高く掲げる。
どうやら、彼女なりの戦闘ポーズらしい。
しかし、シノブコは小柄で手も短かったので、その姿は威嚇するヒヨコのように微笑ましかった。
「おいおい、なにをするつもりだ。森の子リスとダンスでもするつもりか?」
「にんっ! 情け無用でござる!」
ジャラシを狙う子猫のように飛びかかってくるシノブコ。
ずっとニンジャとして修行してきたと言うだけあって、その身のこなしはなかなかのものだった。
でも、遅すぎた。
『俊敏』ステータスが、201ポイントもある俺にとっては。
「止まって見えるな」
俺がひらりと身を翻してかわすと、シノブコは誰もいなくなった虚空をこれでもかと掴み、「おっとっと」とバランスを崩していた。
表情の薄い彼女に、明らかな戦慄が走る。
「くっ、拙者の『トモエナゲ』をかわしたのは、頭領以来、お前が初めてでござる……!」
「そうか。いちおう言っておくが、いくらやっても無駄だ。疲れるだけだと思うぞ」
「……笑止でござるっ!」
シノブコはムキになって、俺に何度も何度も飛びかかってきた。
そのすべてを、俺はカスらせもせずに全部いなす。
しばらくして、彼女は肩で息をしはじめた。
「こ、この幽霊のような身のこなし……! まるで頭領……いや、それ以上でござる……!
しかも、呼吸ひとつ乱しておらぬとは……! 本物の『もののけ』でござるっ……!」
『持久』ステータスが201もある俺には、まだ準備運動にもなっていない。
「言っただろ、疲れるだけだって。だから今日はもう寝ろ」
「帰ってな」と言葉を続けようとしたが、シノブコはぴょんと飛び上がり、捨て身の攻撃を仕掛けてくる。
それは獲物に襲いかかるモモンガのようだったが、それすらも俺は余裕を持ってかわす。
シノブコはそのまま誰もいない床に叩きつけられるところだったが、
「やれやれ、しょうがないな」
俺は墜落の寸前で彼女の腰を掴み、抱き寄せた。
シノブコは「ぴゃっ!?」と小鳥のような軽さと悲鳴とともに、俺の腕に飛び込んでくる。
彼女は小柄なので、俺の胸に「むぎゅっ!?」と顔を埋めていた。
ハッとした上目遣いで俺を見るシノブコ。
その両手は、俺のシャツをキュッと握り締めていた。
「あ~あ、とうとう捕まっちまったな」
これは『俺がシノブコに捕まった』という意味の言葉だったのだが、彼女は逆の意味で解釈したようだ。
「『寝ろ』『捕まえる』……!? ま、まさかお前は、拙者をアレにかけるつもりでござるな……!」
「アレってなんだよ?」
「捕らえたクノイチにかけるニンジュツといったら、ひとつしかないでござる!
ぼ……『ぼうちゅうじゅちゅ』……! いや、『ぼうちゅうちゅちゅ』……!」
シノブコは手だけでなくて舌も短いのか、『房中術』をうまく言えていない。
彼女はアヒルのように口を尖らせ、必死になって『房中術』と言おうとしていたが、やがてあきらめた。
「お前はその『ぼうちゅっちゅ』で、拙者だけでなく、モナカ様にチュッチュするつもりなのでござろう!」
「なに言ってんだお前」
と、俺は彼女の頭にポンと手を置いた。
「俺の身のこなしを見たお前は、モナカが手ごめにされると思って、俺をやっつけにきたんだな。
でも、俺はそんなことはしない。俺にとって、モナカは大切な幼なじみなんだ。
彼女が困っていたら助けてやりこそすれ、襲ったりなんて絶対にするもんか」
俺はシノブコを安心させるつもりで、真面目に言った。
最後に、「だから、安心しろ」と微笑みかける。
しかし彼女はなにも答えない。
驚いた様子で、目を見開いたまま俺を見上げていた。
一拍おいて、かぁぁぁ~~~っ! と音がしそうなくらいに真っ赤になる。
シノブコは、赤くなった顔を黒い頭巾で覆い隠しながら、しゅばっ! と俺の腕から離れると、
「に……にんにんっ! きょ、今日のところはこれで勘弁してやるでござるっ!」
恥ずかしさと悔しさが入り交じったような表情で、キッと俺を睨み付ける。
「しかし次に会ったときは、殺し合いでござるっ!」と言い捨てて、窓を乗り越えて逃げ去っていった。
その背中をポカンと見送っていたら、夜の闇のなかで身体が星屑に包まれる。
「レベルアップ? 俺は特になにもしてないぞ?
したことといえば、他のクラスの女子の顔を赤くしただけなのに……」
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レオピン
職業 鑑定士
LV 5 ⇒ 6
HP 2010
MP 2010
ステータス
生命 201
持久 201
強靱 1
精神 1
抵抗 1
俊敏 201
集中 201
筋力 201
魔力 1
法力 1
知力 1
教養 201
五感 201
六感 1
魅力 1
幸運 2
器用 1000 ⇒ 1100
転職可能な職業
生産系
木こり
鑑定士
大工
石工師
探索系
レンジャー
NEW! トレジャーハンター
戦闘系
戦斧使い
ニンジャ
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読者様のご指摘により、レオピンのクラス『特別支援学級』を、『特別養成学級』に名称変更させていただきました。
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