12 思い出のお姫様抱っこ
12 思い出のお姫様抱っこ
校長と教頭は『タツマケ』がもう無いとわかるや、奇声とともに帰っていった。
ふたりは『タツマケ』を手に入れて、なにをしようとしていたのだろう?
「そんなことは、どうでもいいか……ふぁ~あ」
今日は朝からいろいろあって疲れた。
お腹がいっぱいになったら眠くなったので、すこし昼寝をしよう。
でもそのまま寝ると、チョッカイをかけにやってきたヤツらにイタズラされるかもしれない。
俺は『ニンジャ』に転職すると、近くにあった木にするすると登った。
「ここなら、邪魔されずに昼寝できるな」
木の枝に腰掛け、幹に背中をあずけ、ちょっとひと眠り……。
「……レオくーんっ? どちらですかー? レオくーん?」
鈴音のような声に耳をくすぐられ、俺は目覚めた。
ハッと起きてあたりを見回すと、もうあたりは暗くなっている。
眼下では、星明りを頼りに、俺を探すモナカの姿があった。
木の上から「ここだ」と呼びかけると、彼女は雷に撃たれたみたいに「きゃっ!?」と肩をすくめる。
「れっ、レオくん!? そんなところにいらしたんですか!?」
「お前こそ、こんな夜中にどうしたんだ?」
「あっ、はい。レオくんに、ちゃんとお礼を言っておかなくちゃと思いまして……」
「お礼?」
「お家を建てていただいたお礼です。本当に、素敵なお家ありがとうございました」
モナカは深々と頭を下げる。
「わざわざそれだけを言いに来たのか? だったら今度会ったときでも良かっただろう」
「あっ、それと、お夕食をお持ちしました。お夕食はもう、召し上がられましたか?」
モナカは両手で持っている小さな鍋を、掲げて俺に見せた。
そう言われて、俺はまた空腹を思い出す。
「そっか、ありがとうな……。って、なにニヤニヤしてるんだ?」
「うふふ、木に登るレオピンくんを見ると、久しぶりだなと思いまして」
「そういえばガキの頃は、よくふたりで木に登ったもんだよな。
そうだ、モナカも登ってこいよ」
「えっ、わたしもですか!? わたしは木登りなんてできません!
小さい頃も、レオピンくんが作ってくださったハシゴを使って登っておりましたし……」
「そっか、そういえばそうだったな。
……よし、ちょっと待ってろ」
俺は木の枝からシュタッと飛び降りる。
「きゃっ!?」と手で口を押えて上品に驚くモナカをよそに、速攻でハシゴを作り上げた。
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ギスのハシゴ
個数1
品質レベル19(素材レベル9+器用ボーナス10)
高品質なギスの木材で作られたハシゴ。
各種ボーナスにより、10人で乗ってもびくともしない。
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「は、ハシゴを、一瞬で……!?」
呆気に取られるモナカ。
俺はハシゴの中腹から手招きする。
「来いよ、モナカ」
手を差し伸べたが、彼女は戸惑っていた。
「は、はい……。でも、木に登るだなんて、はしたない……。
あっ、い、いいえ、まいります!」
モナカはなにかを思い出した途端、フンスと鼻息を荒くして、俺の手を取った。
俺は片手に鍋、片手にモナカの手を持って、枝の上に腰掛ける。
モナカは久しぶりに木の枝に腰掛けたのか、おっかなびっくりだったが、少しすると慣れたようだ。
差し入れの鍋のフタを開けてみると、中は具だくさんのスープだった。
「おお、豪華だなぁ。
もう、こんなに肉や野菜が手に入るようになったのか?」
「あっ、そちらは入学式の最後にあったパーティの残り物を、あたためなおしたものです。
今日のお夕食は、みなさんこのスープを召し上がっています」
「なるほど、そういうことか」
「レオピンくんはパーティのお料理を召し上がっていなかったでしょう?
あの時、わたしのクラスにお誘いしようと、お声がけするつもりだったのですが……」
「オネスコとシノブコに反対されたんだろ? 気にすんなって、そんなこと。
それよりもうまそうだな、このスープ」
「温かいうちに召し上がってくださいね。それと、こちらをお使いください」と木のスプーンを差し出してくるモナカ。
俺は受け取ったスプーンを鍋に突っ込み、ガツガツと平らげる。
モナカは食べ盛りの子供に接する母親のような目で、俺を見ていた。
食べ終わったのを確認すると、微笑みながら白いハンカチを取り出す。
「うふふ、お口が汚れていますよ。拭いてさしあげますね」
「ありがとう。なんだか、姉ちゃんに似てきたなぁ。世話焼きなところが特に」
「そ……そうですか?」
モナカは急に、キュッとハンカチを握りしめた。
身を固くした上目遣いで、俺に尋ねてくる。
「あ、あの、レオピンくん……。ひとつお伺いしても、よろしいでしょうか?」
「なんだよ、あらたまって?」
「あ、あのあのあの、その……本当ですか?
いっ、1年6組の女子生徒の方と、その……きっ……ききき……きっ……したのは……!」
モナカは急にしどろもどろになり、木を突くキツツキのように震えだした。
「なんだよ? 『きっ』て?」
「そっそそそ、それは、その、きっ……きききききっ……! きゃあっ!?」
ブルブル震えるあまりバランスを崩し、後ろに倒れてしまうモナカ。
木から落ちそうになったところを、俺はすばやく彼女を抱きしめ、空中で受け身をとって着地する。
……スタッ!
地上に降り立つ頃には、モナカは俺にお姫様抱っこされており、目をパチクリさせていた。
「あ……あらっ? いま、たしかに落ちたはずなのに……どうして……?
あわわわっ、ありがとうございます、レオピンくん!」
俺に抱かれて、溺れそうなラッコみたいに慌てるモナカ。
「今日は泣かなかったな」
「えっ?」
「ガキの頃、お前が枝の上から落ちそうになったとき、俺が下で抱きとめてやっただろ?
そのあとお前はいっつも、わんわん泣いてたよな」
「も、もう……! わたしはもう、泣き虫じゃありません!」
モナカはぷくっと頬を膨らませたあと、すぐに照れ笑い。
「で、でも……こうやってレオピンくんに抱っこされるの、ひさしぶりですね……。
なんだか、とっても懐かしいです、この感触……」
「俺も懐かしいよ」
「レオピンくんは、木の枝から落ちたわたしを助けてくださったあと、いつも泣き止むまで抱っこしてくれて……。
それで、お家まで送ってくださいましたよね」
「それじゃ久々に、家まで送ってやるよ」
「えっ?」と目を丸くするモナカを抱っこしたまま、俺は森を歩き出す。
モナカは最初は懐かしさにウットリと目を細めていたが、森を出て居住区にさしかかったあたりで、急にうろたえ始めた。
「きゃっ!? れ、レオピンくん!? まわりに他の生徒さんたちがおられます!
こんな所を、見られてしまったら……!」
「なんだ、嫌か?」
「い、嫌だなんて、そんな……! わたしはぜんぜん嫌じゃありません!
むしろレオピンくんに、ご迷惑が……!」
「なんだ、俺の迷惑なんて気にするな」
俺は構わずに、再建された小屋の間をぬって歩く。
すると、周囲がざわめきだした。
「お、おい、見ろよ……!」
「ゴミ野郎が、モナカ様を抱っこしてるぞ!?」
「なんで!? なんであんな野郎が!?」
「もしかしてふたりは、相当深い仲だったりするのか……!?」
「クソッ! どうしてなんだよ!?
アケミさんといい、モナカ様といい、アイツばっかり気にかけやがって!」
地団駄の衝撃で、またしてもバタバタと倒れていく掘っ立て小屋。
羨望のまなざしのあとの絶叫が、居住区に渦巻いていた。
気がつくと、モナカは俺にぎゅっとしがみつき、俺の胸に顔を埋めていた。
耳だけが長い髪の間から覗いていて、薄暗いなかでもわかるくらいに真っ赤っかになっている。
しばらくしてモナカの家に着いたので、入口のあたりで降ろしてやると、彼女は逃げるように俺から離れていった。
最後に玄関扉の前で振り返り、赤熱した顔をシュバッと下げる。
「お……送ってくださって、ありがとうございます! お……おやすみなさい、レオピンくん!」
「ああ、おやすみ。また明日な」
俺はそれだけ言って、居住区から離れた。
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