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23 湖のヌシ釣り

23 湖のヌシ釣り


 俺、レオピンチームの岸には、50匹もの魚がびちびちと跳ねていた。

 どれもなかなかの大物で、油が乗って光っている。


 初めての魚釣りでの一発ヒットに、みんな大喜びだった。

 かたや、サー先生チームは糸に絡まる生徒たちが続出。


 リーダーであるサー先生は、カケルクンに詰め寄られていた。


「ちょっと、サー先生! あっちはいきなり50匹も釣り上げてるよ!? こっちは3倍の人数がいて、最新式の釣り具まであるのに、まだ1匹も釣れてないってどういうことなの!? なのなのっ!?」


「い、いや、なんであんなショボイ木の枝で魚が釣れて、こっちはまったく釣れないのか、サーにもさっぱり……? ぶっ、ブィィィンッ?」


 漁師(フィッシャーマン)に転職するまでは、あっちの豪華な竿にちょっとビビっちまったけど、いまならわかる。

 あの釣り竿は海釣り用のやつで、湖の釣りにはオーバースペックすぎるんだ。


 疑似餌は湖にはいない生き物を模したハデハデなやつだし、針なんてマグロ用のぶっといやつだ。


「あんなのが必要な湖の魚がいるとしたら、ヌシくらいだろうな」


 そうつぶやいた直後、湖の真ん中で、爆ぜるような水飛沫があがった。

 湖にいた全員の注目を集めたそれは、宙を舞う、巨大なサメのようなシルエット。


 あれは何だと思う間もなく着水、鋭利な背びれだけを湖面に残し、我が物顔で泳ぎ回っていた。


「あ、あれは……! この湖の、ヌシだ……!」


 誰かのその言葉に、カケルクンは21の手札が来た博徒のように目を輝かせた。


「あのヌシを先に釣ったチームが、この『レオピン釣り合戦ゲーム』の勝者だね! ねっ!

 レオピンくんのチームみたいに雑魚をいっぱい釣るよりも、大物を1匹釣るほうが偉いのは、ゲームの常識だもんね! ねっねっ!」


 先に反応したのはマーク先生だった。


「ブィィィィンッ! サーは、この時を待っていたのだ! いまこそ最終兵器を解き放つとき!

 落ちこぼれには決して手の届かない、最高級にして最大級の釣り竿をっ!」


 マーク先生は、コンテナに立てかけてあった、街灯のように巨大な竿を担ぎ上げると、


「ブィィィィーーーーッ!」


 丸太投げの要領でグルグル回転し、遠心力をつける。

 ヌシのいるポイントは湖の中央で、かなり距離があるので、普通に投げてもまるで届かないだろう。


「だがあれなら、届くかもっ……!?」


 なんてちょっとでも思った俺がバカだった。


「ブィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!」


 サー先生は腹の底からの気合いとともに、釣り糸を投げ放つ。


 すぽーん!


 しかし釣り竿ごと投げてしまい、釣り竿はヌシのいる所まで届いたものの、そのままどばしゃんと湖に沈んでしまった。


「ぶ……ぶひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」


 最終兵器を湖のゴミとして捨ててしまい、絶望あふれる悲鳴を轟かせるサー先生。

 そのとき俺はすでに自前の釣り竿を構え、湖の中央を見据えていた。


 そしてその場でクルリと一回転し、まるで雛鳥でも解き放つように、


 ……ふわりっ!


 と釣り針を投げる。

 カケルクンが八つ当たり気味に言った。


「カカカカカ! あんなショボイ釣り針を、あんなへんな投げ方をしたって、届くわけがないよね!

 よねぇぇぇぇーーーーっ!?」


 カケルクンの嘲笑は絶叫に変わる。


 なぜなら俺が、漁師(フィッシャーマン)のスペシャルスキルである、『釣技・春霞』を発動していたから。

 釣り針はまるでタンポポの綿毛のようにふわふわと宙を漂い、百メートル以上離れた湖の中央に、花びらのようにひらひらと着水。


 直後、湖のヌシがひと飲みにする。


「かかった!」


 そう叫んだ途端、俺は身体ごと吸い込まれるような強烈な引きに襲われた。

 とっさに両脚をふんばってこらえる。


 「レオくん!」「お師匠様!」とモナカとコトネが手付けしようと近づいてきたが、「お前たちは手を出すな!」と声で制した。


「これは俺とアイツ、1対1の戦いだっ……!」


 俺の心はすでに、魚との真剣勝負を求めてさまよう、孤高の釣り人となっていた。

 釣り糸は限界まで張りつめ、竿はいまにもへし折れんばかりにU字形にしなっている。


 俺は『釣技・秋月』で釣り竿の耐久度をあげ、さらに『釣技・冬枯』を発動。

 竿を持ったまま湖に背を向け、まるで吹雪の中、豪雪をかき分けて進むかのようにように身体を縮こませた。


 ……グググググググッ……!


 気を抜くとあっという間に引きずり込まれ、骨ごと竿をバラバラにされそうな衝撃が襲い来る。

 それまで静かだった湖は一転、中央から起こった嵐のような波に、どこも荒れに荒れていた。


 そのおそるべきパワー、天変地異のような光景に、あちこちで悲鳴がおこる。


 俺の釣り竿は、そのへんの木の枝と、そのへんのツタで作ったものだ。

 サー先生の最高級の釣り竿に比べたら、ただの棒っきれだ。


 だが、俺は信じてる……!

 俺が作ったのは、世界最高の棒っきれだと……!


 そして俺は、釣り人として初めての強敵との戦いに、しびれるような興奮を覚えていた。


 なかなかやるな、湖のヌシよ……!

 俺の技術とお前のパワー、どっちが上か、勝負だっ……!


 しかしその純粋なる戦いに、無粋なる爆音が割り込んでくる。


 ……ドバババババババッ!


 ハッと見やると、湖の対岸にある倉庫のシャッターが開いていて、中からは軍用船が飛び出してきていた。

 その船首には3機のバリスタが設置してあって、それぞれに3バカトリオ……じゃなかった、先生方が着座している。


「ブィィィィンッ! どうだ、落ちこぼれ野郎っ! これがサーの、本当に本当の最終兵器だっ! これさえあれば、森のヌシなんてひとひねりだぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」


「すごいすごい、すごーいっ! これさえあれば、勝ったも同然だよね! ねっ! レオピンくんの負け! 負けーっ!」


「どんなギャンブルも、最後に勝つのはディーラーなんですら!」


 カケルクンは大はしゃぎ、いつもはポーカーフェイスの教頭先生もほんのり頬が紅潮している。

 軍用船は相当なインパクトがあり、サー先生チームの生徒たちも大盛り上がりだった。


 ヌシとの勝負を邪魔されて、俺は腹が立った。


 先生方はバリスタでヌシを射貫いて捕まえるつもりだ。

 そんなのはもはや釣り勝負じゃない。


「せめて俺が、ヌシとの勝負が終わるまで待って……!」


 しかし先生方にはそんなモラルはない。

 俺が釣り上げようとして、動けなくなっているヌシに向かって、嬉々としてバリスタを撃ち込んでいた。


 3本の槍で胴体を貫かれたヌシは、クジラの潮吹きのように血飛沫をあげながら、暴れに暴れている。

 それを目にした瞬間、俺の中で何かが弾けた。


 俺は『器用貧乏』の『器用な肉体』スキルを発動。

 持てるすべてを『筋力』につぎ込む。


 そしてノータイムで、漁師(フィッシャーマン)の『釣技・夏渡』を発動した。


 ……メキメキメキィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!


 なにかが軋む音がする。

 それは俺なのか、竿なのか、はたまたヌシなのか、軍用船がたてた音なのかはわからない。


 俺はそんなことはもうどうでもよかった。

 すべてをブチ壊すつもりで、吠えていた。


「この、クソ野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」


 ……ドッ、ゴォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!


 轟音とともに、湖全体が山のように盛り上がる。

 天高くあがった水飛沫が、夕立のようにあたりに降り注ぐ。


 俺はクジラを一本背負いするかのように、神樹を引っこ抜くのように、竿を振り抜いていた。

 ヌシは俺の頭上を越え、魔導飛行機が墜落するかのように、メキメキと木々をなぎ倒しながら地面に叩きつけられる。


 バリスタの槍に付いていた鎖は限界まで張りつめ、それでも外れなかったので船ごと横転させる。


 ……どっ、ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!


 転覆する船から投げ出された3バカトリオは、荒波にもまれてアップアップと溺れていた。

タイトルにもありますように、このお話の書籍化が決定いたしました!

出版社様、イラストレーター様などはこのあとの更新にてお知らせいたしますのでご期待ください!

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― 新着の感想 ―
[一言] なんでつい最近作った人工湖にヌシがいるんだよ
[気になる点] スポンサーは見ていた!
[一言] 何故か銀ラメバニーおばさんの教頭先生が気になります。その微妙さがいいキャラ。
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