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14 小麦粉流通

14 小麦粉流通


 カケルクンがペイパーと組んで、レオピンに仕掛けたゲームの数々は、どれも大失敗で終わった。

 カジノで一文なしになったような気分で、校長室へと戻るカケルクン。


 彼の秘書も務めている教頭は、ぐったりした様子で声をかける。


「校長、今日は夕方から王都で記者会見ですら。就任の挨拶を外部用にしなくてはならないですら」


「ああ……そういえば、そんなのもあったね……」


 ますます気が重くなるカケルクン。

 彼はその記者会見における自分の手柄話として、『特別養成学級』の無能な生徒を追い払った話をするつもりでいた。


 皮算用では、就任初日にレオピンに仕掛けた『レオピン大富豪ゲーム』で、レオピンは借金漬けになり、とっくの昔に夜逃げしているはずであった。

 そのことを大々的に発表すれば、レオピン憎しの支援者たちに、自分の有能さを認めさせることができていたはずなのだが……。


 しかし例の少年は、いまだ健在っ……!


 なんの手柄話も作れなかったカケルクン。

 失意のまま、転移の魔法陣で学園から王都へと向かったのだが……。


 その記者会見場において、思わぬ言葉が記者たちの間から飛び出した。


「カケルクン校長! 学園のほうではすでに小麦畑が作られていて、居住区では小麦粉が流通しはじめているというのは本当ですか!?」


「だとしたら大変な功績ですよ! いままでの開拓系の学園では、外部からの輸入に頼らずに小麦粉が流通するようになったのは、少なくとも1年後からでした! このスピードは驚異的です!」


「さすがカケルクン校長! ギャンブルだけでなく、校長でもジャックポットというわけですね!」


 カケルクンは「なっ、なぜそれを……!?」と青くなる。

 しかし記者たちから褒めそやされて、すぐに頬を紅潮させていた。


「カカカカカ! バレちゃったら仕方ないね! 小麦粉の流通なんて、この僕には本命に賭けるようなものだから、自慢するようなことでもないと思ってたんだけどね! ねっねっ!」


「やはりカケルクン校長の指導の賜物だったんですね! しかし流通させた生徒さんたちも、かなり優秀な生徒さんだとお見受けしました!」


 小麦粉の流通には生産者、つまり農夫の存在が欠かせない。

 しかしこの『リークエイト王国』では、第2次産業以下は、『誰でもできる仕事』という扱いであった。


 つまり農業や漁業、工業や建築業などは、下賤な人間が着く職業だとみなされおり、社会的な地位がとても低い。


 『神羅大工(セレス・カーペンター)』のような例外はあるものの、社会的にもてはやされるのは第3次産業以上から。


 第3次産業とは、単純労働をしない者たちのこと。

 彼らは、生産者たちアゴでこき使えるだけの立場にあるとみなされ、格上の存在とされている。


 そのため記者たちも、小麦粉を作った人間が誰かよりも、小麦粉を流通させた人間が誰なのかを気にしていた。

 カケルクンは乗せられるままに、上機嫌で答える。


「カカカカカ! 小麦粉を流通させたのは、1年9組の『商人連合』だよ!」


「おお、『商人連合』だったとは! これは、かなりのお手柄ですね!」


「そうそう! だからボクは決めたんだ、1年9組は2ランクアップにしよう、って!」


 1年09組 E ⇒ D-


「たしかに2ランクアップにふさわしい活躍だと思います! でも学園にはもうひとつ、『豪商連合』のクラスがありましたよね……?」


「ああ、あの子たちはダメダメだね! 小麦粉の流通を邪魔することばかりしてたんだよ! だからボクは決めたんだ、1年7組は1ランクダウンのお仕置きにしよう、って!」


 1年07組 C- ⇒ D+


 なんとカケルクン、舌の調べに乗せるままに、3ランクもの変動を発表してしまった。

 このことを知った両クラスのリーダーは、対極的な悲喜の悲鳴を轟かせていたという。


「うっ……うっそぉぉぉぉーーーーっ!?

 下級商人のボクたちが中位ランクに!? しかも上級商人と同じランクになれるだなんて!?

 夢みたいーーーーーーーっ!?!?」


「かっ……かみきれぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーっ!?

 上級商人のペイたちが!? 入学当初は上位ランクだったペイたちがっ!?

 下級商人と同じランクになるだなんてぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 そしてカケルクンは記者たちにさんざん持ち上げられ、意気揚々と学園に舞い戻る。

 しかし彼はふたたび、失意のどん底に突き落とされていた。


 教育委員会からの、2ランクダウンの通達によって。


「なっ……なんでなんで、なんでぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーっ!?」


 しかし、身に覚えがないとは言えなかった。

 彼は、ふたつのヘマをやらかしていたから。


 ひとつは、記者たちの前で『商人連合』をアゲ、『豪商連合』をサゲてしまったこと。

 下級商人を褒めるということは、上流階級の人間を否定することにも繋がる。


 逆ならなんの問題もなかったのだが、それが学園の支援者たちの逆鱗に触れてしまったのだ。


 そしてもうひとつは、ハイクオリティの小麦粉を目の前にしておきながら、みすみす逃してしまったこと。

 ハイクオリティの小麦粉といえば、この世界では黄金にも等しい。


 本来ならばどんな手を使ってでも奪い取り、支援者たちの政治の道具として献上すべきはずなのに……。

 それを、しなかった……いや、できなかった……!


 カケルクンは発狂寸前だったが、すぐに教育委員会に献金を行ない、措置を取り消してもらうよう働きかける。

 2ランクぶんのランクダウンをなかったことにするために要した金は、なんと10億……!


 カケルクン 84億 ⇒ 74億


「はっ……はっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」


 カケルクンは取り替えたばかりの校長室のカーペットを、またボロボロにする勢いでのたうち回っていた。


「くやしいくやしいくやしいっ、くやしぃぃぃぃぃ~~~~~~っ!

 このボクが1度ならず2度までも、負けるだなんてぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!

 それも、10億もの損失を、2回もっ……!

 許さない……! 許さないぞっ、レオピン……! 倍どころか、10倍だっ……!

 10倍返しにして、わんわん泣かせてやるからなっ!

 ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 俺が作って製粉した小麦粉は、マーチャンたち『商人連合』の手によって袋詰めされ、居住区で売られるようになった。

 それは『レオピン印の小麦粉』と銘打たれ、購買の小麦粉の10分の1の価格である、1000(エンダー)で売りに出される。


 これは言うまでもなく飛ぶように売れたのだが、買っていたのは下位のクラスばかりであった。

 なぜならば、俺の名前のついた小麦粉を買うのは、上位のクラスの人間にとっては、この上ない屈辱だったからだ。


 上位のクラスで俺の小麦粉を買っていたのは、モナカとコトネの2クラスのみ。

 しかしいままで居住区で金持ちだけに許された小麦粉が、一般的な食べ物になった。


 小麦粉の売り上げは、ぜんぶで350万(エンダー)になる。

 この売上金を、俺は『商人連合』と半分ずつにした。


 特別養成学級 302,950,000(エンダー)

 1年09組  1,750,000(エンダー)


 居住区はいまも相変わらず、『豪商連合』が幅をきかせている。

 しかしこの小麦粉の存在は、いままで独占状態だった市場に大きな風穴を開ける一撃となっていたんだ。


「ここから小麦粉以外の作物も流通させることができれば、歪んだ市場も少しずつマシになっていくはずだ。

 それに何より、クルミが菓子職人(パティシエ)になる夢を、少しでも応援してやりたいからな」


 作ったものを使ってくれる、食べてくれる消費者の姿がイメージできるようになると、がぜんやる気が出てくる。

 小麦粉騒動の次の日は休みだったので、俺はいつもより早く起き出していた。


「さーて、今日は天気もいいから、はりきって畑仕事をするか」


 「そろそろセサミも収穫しないとな」、なんて独り言をつぶやきつつ畑に向かうと、思わぬ訪問客がいた。


 モナカたち1年2組と、コトネたち1年19組。

 ふたつのクラスをあわせて、総勢20名の女生徒たちが俺を待っていた。


 なぜかみんなブルマ姿で、普段は滅多に見せない聖女やミコたちの太ももがまぶしい。


「どうしたんだ、そんな格好して?」


 声をかけると、モナカとコトネの顔がぱっと華やいだ。


「あっ、レオくん! わたしたちも、お仕事を手伝わせてください!」


「お師匠様が『商人連合』の方々とともに畑を作られているという噂を耳しましたので、弟子として馳せ参じた次第でございます」


 モナカは潮干狩りに使うような小さな熊手を、コトネは砂場遊びに使うような小さなスコップを持って、親の庭仕事の手伝いをしたがる子供のようにワクワクしていた。


 畑仕事とは無縁の白い肌に、子猫の肉球みたいにきれいな手。

 あんまり戦力にはならないと思うが、手伝ってくれるのなら、その猫の手を借りるとするか。


「そうだなぁ、それじゃあ空いてる畑を、そのスコップで軽く掘り返しておいてくれるか?

 オネスコとシノブコとトモエは刃物が扱えるだろうから、俺といっしょにセサミを収穫してくれ」


「はーいっ!」


 黄色い声ともに、散っていく聖女とミコの卵たち。

 付き人トリオはブツクサ言っていたが、収穫をやり始めると楽しくなったようで、競争するようにセサミを刈り取ってくれた。


 美少女たちの弾ける笑顔に、ほとばしる汗。

 それはとても平和で、ほのぼのとした光景。


 彼女たちは、俺の拠点に迎え入れられた。


--------------------------------------------------


 拠点

  LV 4 ⇒ 5

  規模 さびれた限界集落 ⇒ 故郷の限界集落

  人口 1

  眷獣 3

  傍人 1 ⇒ 21


  拠点スキル

   活動支援

   拠点拡張

   拠点防御

   農業支援


   NEW! 第二の故郷

    拠点にいると気持ちが落ち着く


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タイトル変更いたしました!

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― 新着の感想 ―
[良い点]  胸がスカッとします!読んでいていて気持ちいいです!物語の引きが絶妙で、尊敬します! [一言]  できれば馬車を作ってください!
[良い点] 1キロ1000エンダーか。 ハイクオリティでそれならかなりお買い得かな? これで上位クラスは高い金を払って不味いパンを喰い、下位クラスはお手頃価格で美味いパンを食べるようになるわけか。 格…
[一言] 限界集落って……うんw ペイパーもカケルクンもGoTo ヘル!ネ!
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