06 商人マーチャン
06 商人マーチャン
カケルクンがこの学園に着任したときの所持金は、100億。
先代の校長と教頭のやらかしっぷりを見て、支援者たちからも話を聞かされていた彼は、真っ先にレオピン対策に乗り出した。
学園の有力者であるモナカとコトネに目を付け、『乾杯ゲーム』を考案。
ふたりからレオピンの記憶を奪い去り、レオピンの孤立を狙う。
そこにさらに追い討ちで『レオピン大貧民ゲーム』で、レオピンに借金を背負わせる。
レオピンを正真正銘の学園のゴミにするどころか、社会のゴミにまで追いやるつもりであった。
しかし、見事に返り討ちにあってしまったカケルクン。
彼は、完全に侮っていたのだ。
レオピンと少女たちの絆の深さを。
そしてレオピンの、器用っぷりを……!
結局、カケルクンは『乾杯ゲーム』と『レオピン大貧民ゲーム』において、どちらも目的を果たせなかった。
それどころか、16億もの大敗北。
カケルクン 99億 ⇒ 84億
就任はじめての朝礼を強制中断し、校長室に戻ったカケルクンとディライラ。
カケルクンはカーペットの上を転がり回り、ふかふかの起毛を両手でむしって八つ当たりしていた。
「くやしいくやしいくやしいっ、くやしぃぃぃぃぃ~~~~~~っ!
あのゴミのせいで、僕の計画がまるでダメになっちゃったじゃないかぁ~~~~~~~っ!
覚えてろよっ……! 覚えてろよっ、レオピン!
このギャンブラーの僕に16億もの損害を与えて、タダですむと思うなよぉぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!
倍にして取り返してやるからなぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その日の授業は午前中のみだったので、すぐに放課後となった。
天気が良かったので、俺はさっさと家に帰って畑仕事をすることに決める。
「畑を広げたうえに、近くに川も通ったからな。今日こそは、新しい野菜を探して植えるとするか」
はりきって家を出ると、門の外ではトムが露天商を開いていた。
トムは森の中にある草を引っこ抜いてきたり、小動物を狩ってきたりして、俺に見せるように地面に並べるんだ。
そのだいたいが雑草だったり、食べるのに適さない動物だったりするんだが……。
今日は思わぬ掘り出しものがあった。
「おっ!? 『コムギソウ』に『アップル』があるじゃないか!?」
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コムギソウ
個数10
品質レベル2|(素材レベル2)
野生のコムギソウ。
三大穀物のひとつとされており、挽くと小麦粉が取れる。
プリンセスアップル
個数10
品質レベルマイナス2|(素材ペナルティ2)
野生のプリンセスアップル。
小ぶりで身が固く、食用には適さない。
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「このふたつを育てられれば、穀物に果物まで得られる! よくやったぞ、トム!」
俺はポケットから、この市場の通貨である『キャニップ』と呼ばれる草を取り出し、トムにやった。
ネコ科の動物はこの『キャニップ』が大好きなようで、嗅ぐと酔っ払ったようになる。
トムもさっそく、グデングデンになって堪能していた。
俺は『コムギソウ』を手に、畑へと向かう。
家のまわりの畑はすでに森の外にまで及んでいて、かなりの広さがある。
「軽く土を均してから、コムギソウを植えるとするか」
魔農夫に転職し、『ギスのクワ』と『風の耕作』スキルで畑仕事を開始。
脇目も振らずにザクザクと土を耕していると、気付いたら何者かが畑の中にいた。
ソイツは何者かはわからない。
なにせ頭のてっぺんも見えないほどの深い穴を畑の中央に開け、あたりに無遠慮に土をまき散らしていたから。
いままでいろんな嫌がらせを受けてきた俺だが、こんな大胆不敵なのは初めてだ。
飛んでいって穴を覗き込むと、ひとりの女生徒がいい汗をかいたとばかりに、布で顔を拭いていた。
「ふぃー。こんだけ掘ればもう大丈夫でしょ」
「ああ、お前の墓穴にちょうどいい深さだな」
声をかけると、女生徒は「あっ」と上を向く。
彼女はショートカットの髪型で、少年のような顔立ちをしていた。
どんぐりまなこをパチパチさせ、布を頭に巻き直しながら、悪びれる様子もなく言う。
「えへへ、お礼なんていいって! 私が勝手にやっただけなんだから!」
「お前はなにを言ってるんだ?」
「ボクはね、ちょっと畑仕事を手伝いたいって思っただけだよ。だからタダでいいよ!」
どうやらこの女生徒は、この行為で畑仕事を手伝ったつもりでいるつもりらしい。
それに、「タダでいい」って言葉が、真っ先に飛び出すってことは……。
「もしかしてお前、『商人』か?」
少女はぶんっ! と音がしそうなくらい大きく頷いた。
「うん! 1年9組のマーチャンだよ、よろしくねっ!」
1年9組。下級商人の生徒たちで構成されたクラスで、『商人連合』とも呼ばれている。
上級商人揃いの1年7組が陽にあたる存在なら、彼女たちは日陰の存在といえるだろう。
マーチャンは手をあげて俺に呼びかける。
「ねぇねぇ、引っ張り上げて!」
相手が悪意を持ってやっているのであれば、生き埋めにしてやるところだが……。
いちおう善意からのようなので、俺はやれやれとマーチャンの手を取った。
引っ張り上げたあと「さーて、ひと仕事しますか!」と別の穴を掘ろうとしていたので、慌てて止める。
「遠慮しなくていいって! ボクはね、レオピンくんのすごさに感心して、少しでもその力になりたいって思っただけなんだから!」
「いや、その気持ちは嬉しいんだが……」
言いかけて俺はふと、ある疑問に行き当たる。
「お前はなんで、俺のことを覚えてるんだ?
1年9組は『乾杯ゲーム』で、『忘却のポーション』を飲んだはずじゃ……?」
するとマーチャンは、テヘヘと舌を出す。
舌を出すのは新校長のクセでもあるが、あの坊ちゃん校長とは段違いの可愛さだった。
「バレたか。ボクは……っていうか1年9組は全員、あの薬は飲んでないよ。
みんな飲むフリして、捨てちゃった」
俺は、いきなり死角から猫が飛び出してきたような、ちょっとした驚きに見舞われる。
「飲まなかったって、どうして……!?」
「だって、ボクも……。レオピンくんのこと、忘れたくなかったんだもん……」
ちょっとドキッとしかけた俺を、弾けるような笑顔が吹き飛ばした。
「エヘヘ、なーんてね! 情報っていうのは商人にとって、お金と同じくらい大切なんだよ!
1ヶ月もの情報を手放しちゃったりしたら、大損だもん!」
「そうかもしれんけど、お前たちは忘れるのと引き換えに、1億¥を受け取ったんだろう?
校長が騙して飲ませようとしたのならともかく、それって詐欺なんじゃ……?」
マーチャンはやっぱり悪びれる様子はなかった。
「商人はね、多く儲けるために他の人を出し抜くんだよ。
あっ、でも出し抜くのは同じ商人だけで、お客さんは出し抜かないよ」
彼女は俺のツッコミを予測していたのか、無邪気な笑顔でつけ加える。
「でもでも、校長先生みたいにお金をたくさん持ってる人は……。
ちょっとだけ出し抜いちゃうかも! ……エヘヘッ!」
俺はアケミとはまた違ったタイプの、小悪魔の影を見た気がした。
「さぁさぁ、レオピンくん! おしゃべりはこのくらいにして、畑仕事の続きをやらなくちゃ!
この畑を作物でいーっぱいにしないとね! さぁて、次はなにをしよっか!?」
「その穴を埋めてくれ」
「ええっ!? なんで!?」
「それを埋めたら次の仕事ができるんだ。さぁ、さっさと埋めろ」
「ちぇーっ、せっかく掘ったのにーっ!」
口を尖らせながらも、スコップを使って穴を元通りにするマーチャン。
そのあとでもなお彼女は手伝いたがったので、俺はちゃんとやり方を教えることにした。
「スコップで掘り返すんじゃなくて、この木のクワを使って耕してくれ。
やり方は、さっき教えた通りだ。それじゃ、お前は向こう半分を耕してくれるか?」
「りょーかい!」
マーチャンは犬のように元気に走っていき、ぎこちないながらも畑を耕しはじめる。
ふと家のほうを見ると、キラキラと輝いていた。
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拠点
LV 3 ⇒ 4
規模 眷獣のいる普通の一軒家 ⇒ さびれた限界集落
人口 1
眷獣 3
NEW! 傍人 1
拠点スキル
活動支援
拠点拡張
拠点防御
NEW! 農業支援
拠点内の農業において、品質にボーナスを得られる
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