10 美女錬金術師アケミ
10 美女錬金術師アケミ
ナスオたちが泣き叫びながら逃げ帰ったあと、腹の虫が鳴った。
「そういえば、朝からなにも食べてなかったな。昼飯を探すとするか」
この『王都開拓学園』ではすべてが自給自足なので、食べるものも自分で調達しなくてはいけない。
「そういう意味では、食べ物の宝庫である森に家があるのは、あんがい便利かもしれないな」
俺は独り言をつぶやきながら森の奥へと分け入る。
すると、木の実が生っている木を見つけた。
「よしよし、幸先いいな」
今の俺はニンジャで、猿になったみたいに身が軽いので、木登りもお手の物。
枝から木の実をちぎって、制服のポケットにしまう。
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マシバイの実
個数1
品質レベル2(素材レベル2)
マシバイの木になる実。堅いが殻ごと食べられる。
栄養価が高く、日持ちもするので保存食に適している。
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さらに森の奥へと進んでいくと、木々が生い茂る日陰にキノコを見つけた。
「これは、食べられるみたいだな」
レンジャーの『生存術』のおかげで、毒キノコかどうかの判別ができる。
しかし念には念を入れて、鑑定士の『鑑定』スキルで調べてみた。
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ラッシュルーム
個数1
品質レベル2(素材レベル2)
ラッシュの木の下に生えるキノコ。
毒性はなく、新鮮なものは生でも食べられる。
サラダにすると、調理ボーナスが得られる。
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「へぇ、生でもいけるのか」
もぎたてのラッシュルームを、ひょいぱくっと食べてみる。
噛むたびにシャキシャキっと音がした。
「うん、いい歯ごたえだ。味付けされてたら、もっとイケるな」
もぐもぐしながら薄暗い森を見渡すと、点々とキノコが生えているのが見える。
それで、今日の昼食は決まった。
「よし、キノコを集めて、キノコパーティといくか」
俺は道端に生えていた大きな葉っぱをちぎり、折って袋状にして、植物のツタで持ち手を付けた。
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オオルハのバッグ
個数1
品質レベル13(素材レベル4+器用ボーナス9)
高品質なオオルハの葉で作られたバッグ。
各種ボーナスにより、50キロまでの荷物が入れられる。
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そのバッグを買い物袋のように腕から提げ、商店街で買い物するように森を見て歩く。
旨そうなキノコがあったら『鑑定』して、食べられるキノコなら手当たり次第にバッグに放り込んでいく。
その途中、とんでもないキノコを見つけた。
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タツマケ
個数1
品質レベル30(素材レベル30)
『キノコの王様』と呼ばれるほどの味わいを持つキノコ。
普段は猛毒の『タベシヌダケ』に擬態しているが、満月の夜の1分間だけ、その美味なる正体を表す。
食べてもその正体を見破ることができるが、間違って『タベシヌダケ』を口にしてしまった場合は、即死する。
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「品質レベル30!? 超レアアイテムじゃねぇか!?
よぉし、もっとないか探してみよう!」
それがキッカケで、俺はすっかり『キノコ狩り』にハマってしまう。
ふと、木漏れ日が差し込む森の一角で、畑のように群生するキノコを見つけた。
赤と青の2色のじゅうたんが敷き詰めてあるようなその上には、生徒たちの一団がいる。
中心には紫色のローブを羽織る女生徒がいて、キノコを手に首を傾げていた。
「あん、このキノコ、形はソックリだけれど、色がぜんぜん違う……食べられるのかしら?」
一団のなかにいた小柄な男が、ひょっこりと顔を出す。
「アケミさん! 赤いほうは毒キノコでヤンス!
赤いキノコは毒キノコだと、昔から決まっているでヤンス!」
「んふっ、そうなの? シーブスくん?」
「へへ、このシーブスは盗賊でヤンス! 盗賊のカンを信じてほしいでヤンス!」
「ふぅっ、そうなの? それなら青いほうのキノコを採って帰りましょうか」
「ちょっと待て」
俺が見かねて声をかけると、一団は揃って俺のほうを見た。
「あん……あなたは……。たしか、レオピンくんね」
アケミと呼ばれた女生徒は、同い年とは思えないほどに大人の色香があった。
紫色の髪に雪化粧をしたような肌、切れ長の睫毛に、潤んだ唇。
泣きボクロのある瞳で流し目を向けられるだけで、胸が熱くなる。
甘やかな吐息混じりの声は、まるで耳に息を吹きかけられているみたいにゾクッとした。
「青いほうは『ハラクダシダケ』という毒キノコだ。食べるとひどい腹痛を訴え、幻覚を見るようになるぞ。
赤いほうは『ハラノボリダケ』という食べられるキノコだ」
すると、シーブスが憤然と口を挟んでくる。
「アケミさん、落ちこぼれのレオピンの言うことなんて、信じちゃダメでヤンス!
アイツは適当なことを言って、アケミさんの評判を落とそうとしているでヤンス!
アイツは自分が最底辺だからって、他人の足を引っ張ることしか考えてないでヤンス!」
「シーブス、適当なことを言っているのはお前だろう。
野生のキノコをカンで選ぶなんて、もってのほかだ」
「黙るでヤンス! アケミさん、コイツは中学の時からホラ吹きだったでヤンス!
このシーブスのことを、信じてほしいでヤンス!」
シーブスはかつて俺がいた、1年20組のクラスメイトだ。
お調子者で、クラスメイト全員にへーこらしている。
アケミは「うぅん……」と悩ましげな声をあげ、考えるような素振りを見せたあと、
「うふん、それじゃあ私は……。
せっかくだから、赤いキノコを選ぶことにするわ」
俺に向かって、ぱちんとウインクした。
シーブスは目を剥いて抗議する。
「えっ、そ、そんなぁ!? あんな落ちこぼれの言うことを真に受けるだなんて……!?」
「んふっ、レオピンくんの目は、ウソを付いてない目だと思ったの」
「じゃ、じゃあ、アケミさん! アッシは青いほうのキノコをぜんぶ持って帰るでヤンスよ!?
あとで後悔しても、知らないでヤンスからね!」
「んふぅ……それはしょうがないわね。私が選んだ『運命』だもの。
それじゃあみんな、赤いキノコを集めてくださる?」
アケミがそう言うと、まわりにいた男たちは働き蜂のように動きはじめる。
たぶん、アケミの魅力にやられて、取り巻きとなった者たちであろう。
アケミは男たちの作業を手伝いもせずに、妖艶な微笑みで俺に近づいてきた。
「ふふっ、私は1年6組の、アケミレールルルヴァランスよ。長いから、みんなは『アケミ』って呼んでるわ」
俺は絶世の美女に話しかけられているみたいで、ちょっと気後れする。
「そうか。そのローブからすると、生産系の魔術師だな?」
「んふっ、『錬金術師』よ。錬金術はキノコをよく使うから、昼食のキノコ係になったの。
でもキノコを薬に使うことはあっても、食べたことはないから、食べてもいいキノコかどうかわからなかったの。
教えてくれてありがとう、レオピンくん。なにかお礼を……」
「礼なんていらない。同級生が毒キノコを食べるのをほっとくわけにはいかないからな」
「あん、あなた、変わってるのね。
自分のクラスのランクを上げるために、他のクラスの生徒にはウソを教えるが普通なのに……」
「俺は『特別養成学級』だからな。ランクは関係ないんだ」
「そういえばそうだったわね。それじゃあ、どっちがいい?」
「え?」
アケミはローブの懐から小袋を取り出す。
その袋には『塩』と書かれていた。
「コレをもらうのと、あとは……」
彼女は「コ・レ」と、ネイルの指先で、熟れた果実のような唇を示した。
「なんだかよくわからんが、もらえるならこっちのほうがいいな」
俺は迷いなく小袋のほうを指で差す。
ちょうど、調味料が欲しいと思ってたところだったんだ。
するとアケミは少し驚いたような顔をしたあと、クスリと笑った。
「んふっ、あなた、本当に面白い人ね。
男の人はみんな、目の色を変えて私の唇を欲しがって、私の言いなりになってるのに……。
欲しがらなかったのは、あなたが初めてよ。
……じゃあ、あげるわ」
アケミは一歩前に出て、俺の手に塩の入った小袋を握らせる。
彼女はさらに顔を近づけてきて、ふわりとした甘い匂いとともに、
……ちゅっ。
と俺の頬にキスをした。
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