01 器用さだけの少年
01 器用さだけの少年
『これは、俺からみんなへのプレゼントだ、受け取ってくれ』
『おっ、すげぇ!? 首飾りじゃん!?』
『すてき! レオピンは本当に手先が器用ね!』
『しかもお揃いのデザインだなんて、これから一緒に進学する私たちにピッタリだよ!』
『うむ、レオピンがいてくれたら、僕たちのクラスはナンバー1間違いなしだな』
『レオピン! 僕たち、高校生になってもズッ友だよね!』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
俺は仲間たちとともに、『王立開拓学園』へと入学を果たす。
入学式は地平の朝もやにそびえる城の、展望台で行なわれた。
真新しい制服に身を包んだ俺たちは、ステージから降り注ぐ校長のダミ声に、真剣に耳を傾けていた。
「我輩が、この学園の初代校長のネコドランである!
この学園は知ってのとおり、次世代を担う若者を発掘することを目的としているのである!
これから『能力開花の儀式』が行なわれ、諸君らの力が明らかになる!
諸君らはこの城を学び舎とし、周囲にある未開の地で、思う存分に力を発揮するのである!
そうすれば支援者の方々から支援金が頂けて、ガッポガッポなのである!」
校長はそれが決めポーズであるかのように、脂ギッシュなハゲ頭をツルリと撫であげた。
隣にいたひょろ長い男は教頭のようで、ずっと媚びるような揉み手をしていた。
「イエス! さすが校長! このイエスマンも思わず聞き惚れるほどの見事なご挨拶ざます!
それにその格好いいポーズ! 女生徒のハートを射止めるのもほどほどにしてほしいざます!
というわけでみなさん、拍手、拍手~っ!」
ずらりと並んだ新入生たちが、万雷の拍手を送る。
校長の挨拶の後は、イエスマン教頭が進行を務めていた。
「イエス! それではさっそく『能力開花の儀式』といくざます!
名前を呼ばれた者は、返事をしてステージにあがり、女神像の水晶玉に手を置くんざます!
そうしたらステージの上にある水晶版に、ステータスが表示されるんざます!」
ステージの中央には女神像があって、その背後には垂れ幕のような巨大な水晶板が掲げられていた。
「それではまず、1年1組から順番にいくざます!」
この学園のクラスは1年1組から1年20組までの、20のクラスに分けられている。
各クラスの人数は一定ではなく、同じ中学だった者たちが集められ、ひとつのクラスになっていた。
俺のクラスは1年20組で、いちばん最後のクラス。
ステージのスクリーンでは、他のクラスの生徒たちのステータスやスキルが次々と明らかになり、歓声や拍手が起っていた。
『王立開拓学園』は今年できた学校で、中学でも特に優秀だった者だけが入学を許される。
俺は成績もスポーツも人並みだったけど、手先の器用さでクラスのみんなをサポートし、なんとか引っかかったんだ。
「それでは最後、1年20組! ヴァイスくん、こちらに来るざます!」
俺たちのリーダーである、クラス委員のヴァイスが「はいっ!」と前に出る。
ステージにのぼり、女神像の水晶玉に触れると、頭上の水晶板にステータスが出現した。
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ヴァイス
職業 賢者
LV 1
HP 1000
MP 1000
ステータス
生命 100
持久 100
強靱 100
精神 100
抵抗 100
俊敏 100
集中 100
筋力 100
魔力 100
法力 100
知力 100
教養 100
五感 100
六感 10
魅力 50
幸運 50
器用 10
基本スキル
神の叡智
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新入生の間から、「うぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!?」と歓声がおこる。
「すげえ、賢者だって!? いきなり上級職じゃないか!」
「しかも、ほとんどのステータスが100だぞ!?
ステータスは10が平均値とされているのに、とんでもねぇ化け物だ!」
「それどころか、スキルがヤバすぎるだろ! 神スキルだ!」
校長と教頭も大喜びだった。
「うむ、素晴らしいのである! ヴァイスくんこそが、我が校始まって以来の天才児となるのである!」
「イエス! これをご覧になられている支援者の方々も、きっと多額の支援をしてくださるに違いないざます!」
ヴァイスはスクエアの眼鏡を指先でクイと直し、フッと笑んだ。
「みんな、驚くのはまだ早い。僕の1年20組で最高なのは、僕だけじゃないんだ。
さぁ、僕の素晴らしき仲間たちを紹介しよう! まずはレオピンだ!」
俺はいきなり名前を呼ばれたので面食らったが、仲間たちに「がんばれよ!」と背中を押されてステージにあがった。
ヴァイスは俺と握手を交わしながら、眼下の新入生たちに誇らしげに言う。
「レオピンはとても手先が器用なんだ! みんな見てくれ、僕の首にあるペンダントを!
これはレオピンが友情の証として、僕たちクラスのみんなにプレゼントしてくれたものなんだ!
このペンダントがある限り、僕たちの友情は永遠!
さぁレオピン、キミの力をみんなに見せてやってくれ!」
俺は気恥ずかしさとうれしさ半分で、女神像の前へと向かう。
実をいうと、昨日からずっと緊張していたんだ。
ステータスがショボかったらどうしよう、って。
でも、そんなことで悩んでいたのがバカみたいだ。
だって俺には仲間たちがいる。
たとえどんなステータスだって、この絆が揺らぐことはない。
だって俺たちは『ズッ友』なのだから……!
俺は多くの仲間たちの期待を胸に、水晶玉の上に手を置いた。
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レオピン
職業 なし
LV 1
HP 10
MP 10
ステータス
生命 1 (非成長)
持久 1 (非成長)
強靱 1 (非成長)
精神 1 (非成長)
抵抗 1 (非成長)
俊敏 1 (非成長)
集中 1 (非成長)
筋力 1 (非成長)
魔力 1 (非成長)
法力 1 (非成長)
知力 1 (非成長)
教養 1 (非成長)
五感 1 (非成長)
六感 1 (非成長)
魅力 1 (非成長)
幸運 1 (非成長)
器用 2000
基本スキル
器用貧乏
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……しん、と静まり返る場内。
誰かが、ボソリと言った。
「え……? 職業『なし』……? ってことは、無職ってことか……?」
「ステータス、ほとんど1……!?
しかも『非成長』になってるから、レベルが上がってもステータスは上昇しないみたいだぞ!」
「それなのにゴミステータスの代表格の、『器用』だけはやたらとあるなんて、ダメ過ぎるだろ……!」
「しかもスキルも見るからにヤバそうだ……完全にはずれスキルだろ、アレ……!」
不意に、ブチリと何かが千切れるような音がする。
見ると、ヴァイスが首から下げていたペンダントを、力任せに引きちぎっていた。
ヴァイスはペンダントを足元に落とし、踏みにじると、
「さて、それじゃあこれから、僕の素晴らしい仲間を紹介しよう! 力自慢のモンスーンだ!」
「おおっ、待ってたぜ!」とクラスメイトのモンスーンが、ステージにドスドスと駆け上がってくる。
その首にはもう、ペンダントはなかった。
彼だけではない。
順番を待っているクラスメイトはみんな、俺のペンダントをしていなかった。
俺は目の前が真っ暗になる。
女神像の前で立ち尽くしていると、ドスドスと足音が近づいてきて、
「どけっ、このゴミ野郎!」
クラスいちの怪力のモンスーンが、俺を軽々と持ち上げてステージの外へと放り飛ばす。
俺は本当のゴミクズになったかのように吹っ飛び、会場の端にある壁に叩きつけられた。
蹴り飛ばされた石ころみたいに地面に転がる。
しかしもう、誰も俺を気にする者はいなかった。