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コンビニ店員の行きて帰りし冒険記  作者: ryo
妖精の章
2/79

店員、唐揚げを振る舞う

 

 俺は棚と通路を一通り片付けた後、オベロンさんをレジの方まで連れていった。


 本当はバックルームがいいんだろうけど、事務所には今、店長がいる。


 見つかると、なんとなく面倒だ。


 ちなみに店長が夜勤のパートナーで、この時間は事務所で別の仕事をしている。


 まあ実際はがっつり居眠りこいてるんだが。


 それでも万一を考えるとバックルームは除外だった。



 とりあえずレジ後ろの、電子レンジの横の空きスペースに置くことにした。


 ここならお客が来てもすぐわかるし、いざとなったら布巾を被せて隠すこともできるからな。


 俺はこの小人妖精さんに何か食べるものを出すことにした。


 オベロンさんは、何度も何度もお礼の言葉とお辞儀を繰り返した。


 可愛い奴め。


 とりあえず俺はアポロとかチョコボールとかを売り場から持ってこようとした


 勿論、後で金は払うぞ。



「テンイン殿!あの黄金色に輝く宮殿は何ですか?それに何か胡桃のようなものも見えます」



 妖精さんは、煌々と輝くフライヤーケースに釘付けになっていた。


 ケース内には、売れ残りの唐揚げ(5個入り)が1つだけ残っている。


 オベロンさんがあまりに熱視線を注ぐため、不本意だったがそれを提供することにした。


 販売時間の過ぎた、いわゆる廃棄品を客人に出すのは気が引けたし、そもそもあんな脂っこいものを妖精が食べるのは想像もつかない。



「オベロンさん、本当にこんなものでいいんです?良ければ何か別なものを・・・」



 そう言いつつ、俺は振り返り、そして固まってしまった。



「テンイン殿ー!」



「テンイン殿ー!」



「大きいお方ー!」



 レジ後ろの台に、たくさんの小人妖精たちがピョンピョン飛び跳ねていた。



「私の仲間たちでございます!今まで用心して隠れていました!食べるものを出してくれると聞いて、みんな出て参りました!」



 ワーワーと歓声を上げる妖精たち。


 みんなオベロンさんと同じような格好をしている。


 驚くほど、見分けがつかない。


 なんてこった。


 こんな不思議な生き物が、この世界にこんなにたくさんいるとは・・・。




 ・・・・・。




「美味い!」



「美味しい!」



「こんな美味しいもの初めて!」



「これ何の木の実だろ?」



「なんかベタベタするー」



「でも美味しい!」



 そんなこんなで、妖精たちはひと固まりに座って、唐揚げに噛り付いていた。


 妖精っていうとティンカーベルみたいなの想像していたから、この光景は大いにイメージを壊した。


 しかし妖精の反応は上々のもので、全員、口元を油でテカテカにしながらも美味しそうに食べていた。


 数えてみると妖精は11人。


 11人もいる!


 まあ、オベロンさん合わせると12人だけど。


 食事前に、全員がそれぞれ自己紹介をしてくれた。


 みんな礼儀正しくて好感が持てた。



 けれどもだ。


 マジで、みんな見た目一緒すぎる。


 全員が赤頭巾、緑マントの出で立ちで、顔つきもほぼ全員一緒。


 頭巾から覗く髪色は金や銀、茶色と判別できたけど、それだけでは名前が一致しなかった。


 名前が一致しないということで、名前自体もほぼ忘れてしまっていた。


 こりゃ迂闊に話しかけられないな。


 そんな中、特徴があって名前を覚えられた妖精は、たった二人だった。



「いやはや!忝のうございますテンイン殿。異国の大きい方にこれほどまでに親切にしていただくとは・・・テンイン殿が妖精を見ることができる人で幸運でした。さぞ驚かれたでしょうな。先ほど我らを見たときの表情から伺えます。無理もありません。ここいらで妖精を見かけることはないでしょう。ましてや妖精を見ることが出来る大きい方は滅多には」



 この、話の長ーい妖精がシグルスさん。


 仲間内では一番の年長者で、リーダーらしい。


 他の妖精が同じ格好の中、彼だけが、白の頭巾に深い青マントの出で立ちで、銀色の髪と、同じ色のちょび髭を蓄えていた。


 ところでさっきから俺は、レジ台に凭れながら妖精たちを見ているんだが、その場から動けずにいた。


 オベロンさんが俺の腕に寄りかかりながら食事していたからだ。



「ふぇんいんろの!ほれほんおにおいひいれふ!ふぇんいんろろも、ひろふひろうれふは?」



 ”テンイン殿、これ美味しいです。テンイン殿も一口どうですか?”


 って言ったのかな?


 リスのように口いっぱいに頬張るオベロンさんを、俺は指先で軽く撫でてみた。



「んんっ、テンイン殿、くすぐったいです・・・」



 そう言いつつ、嬉しそうに指先をギュッとするオベロンさんに、俺は悶え死にそうになる。


 可愛い。


 オベロンさんは、とても俺に懐いていた。


 食事も他の妖精たちとではなく、俺のそばでとるくらいだ。


 そして俺も悪い気がしなかった。


 オベロンさんは他の妖精たちと違い、頭巾のてっぺんに小さな緑の葉がついていた。



「それはスクワイアの証。オベロンは妖精騎士団の見習いなのです」



 そう説明しながら、シグルスがピョンっとレジ台まで跳んできた。


 ノミみたいに。



「我々はとある旅の最中なのですが、それはとても危険なもので、当初は見習いのオベロンを連れてゆくつもりはなかったのです。しかしオベロンは頑固にも、我々と共に行くと言って聞かず、女王も彼の熱意に負け、同行をお許しになったのです」



「頑固ー」



「見習いー」



「足手まといー」



 他の妖精たちも次々と囃し立てた。


 すると見習いオベロンさんはムッとした顔で、懐から何かを取り出した。


 小さ過ぎてよく分からなかったが、どうやら妖精サイズの剣らしい。



「見習いとはいえ、私も騎士の端くれです!ほら、テンイン殿!これは女王から頂いた剣です!この剣に誓って私は使命を果たすつもりです!」



 ピョンピョン飛び跳ねながら、その女王様から頂いた剣を振り回すオベロンさん。


 それ、本当に切れるもんなら、ちょっと危ない。


 シグルスさんは深くため息をついた。



「お前はまだ分かっていないな。森の外を散歩するのとは訳が違うんだぞ。我々が向かうのはあの恐ろしい羽虫の住処だ。命を落とすかもしれん危険な旅なんだ」



 羽虫?



「あの、話の途中にすみません。皆さん方はどうしてここへお出でになったのでしょう?今の話からするに、何か旅をしているように伺えましたが」



 俺はシグルスに尋ねた。



「我々には大いなる使命があるのです、テンイン殿。我ら妖精騎士団は、今、危険極まる旅路の途中。奪われた秘宝を取り戻すべく、遥々、妖精の国から参ったのです」


「それは丁度一月前でしょうか。我らの故郷、妖精の国に大きな羽虫がやってきたのです、その羽虫めはあろうことか、我らの女王から魔法の杖を奪い、そして何処へと飛び去って行きました。あの杖がなければ、我が国を覆う結界の効果が弱まり、外界からの様々な脅威に晒されてしまう。我々は何としてもあれを取り返さなければならんのです」



 シグルスさんは話を続けた。



「我々は様々な魔法や呪いを用いて、奴の居所を突き止めました。そこは我らの故郷から遥か遠く、小人妖精にとっては危険で、恐ろしい未知の世界でした。」


「それでも妖精騎士団は直ちに、遠征隊を組織しました。選りすぐりの者たちばかりです(ちらっとオベロンを見て、ため息をついた)こうして我らは二週間前に妖精の国を出立しました。そこから先は、それはそれは困難な道のりでした」



 すると今度はオベロンさんが話を引き継ぐ。



「その道中で、この光り輝く神殿にたどり着いたのです!私は斥候として、周辺を探索しておりましたところ、テンイン殿に出会ったのです!旅の途中で何人かの大きい方たちに出会いましたが、我々を見ることができたのはテンイン殿だけでした!」



 ほほう、そうなのか。ちょっと優越感。


 大体の事情はわかった。


 妖精たちは羽虫に奪われた宝を取り戻すために、はるばる旅をしていた。


 で、何故かうちのコンビニに迷い込み、俺と出会ったってことか。


 ところで、羽虫って蛾とか蜂とかだろうか?



 と、一人の妖精がシグルスさんの元に跳んできた。



「シグルス殿!これを。紋章に反応があります。女王の杖は、羽虫の住処はもう近いはずです!」



「わかった、テレーズ。よし!皆、出立の準備だ!テンイン殿!大変名残惜しゅうございますが、我々はもう行かねばなりませぬ!」



 シグルスさんは言った。


 他の妖精たちも食事を終え、いそいそと出発の用意を始めた。



「え、でも外、すごい雨ですよ?」



 いつの間にか外は土砂降りだった。


 おまけに風も強そうだ。



「いえいえ、これくらいの雨風何のこれしき!我ら妖精、見た目は小さくとも胆力は巨人並みです!」



「巨人ー」


「巨人ー」


「巨人だぞー」



 シグルスさんはエヘン!と胸を張る。


 他の妖精たちもそれに習う。



「こら!オベロン!いつまでそうしている気だ。さっさと準備をしろ!」



 おっといかん。


 俺は、話の間ずっとオベロンさんを指先でくすぐっていた。


 キャッキャとはしゃぐ姿があまりに可愛かったんだよ。


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