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いざ行かん!イベルダの首都アジェンダへ

翌日早朝。

王都の騎士団のメンバーと団長と私は、砦から王都へと続く門の前に集まっていた。

そこには、朝も早いというのに何人もの住人と辺境騎士団の面々が集まっていた。


「まだまだ、やることも沢山あるから大変だと思うのに。ゆっくり休んでくれててよかったんだよ?」

私の目の前に立ったジェラルドに言うと、彼は首をブンブンと横に振って答えた。

「この辺境の地で我々を助けて下さった、黒の乙女の出立の無事を祈り見送らねば、精霊王からバチが当たります。わりと本気で当たるので、このお見送りは必須です!」


そんなジェラルドの言葉に王国騎士団の面々も、辺境騎士団の面々も、更には見送りに来てくれた住人達も、みんな一様に頷いているので、そうなの? と思っていると、サリーンとアリーンも頷いていたので、そういうものなのだと納得した。


「ユウは、相手を思いやれる優しいやつだからな。こんな盛大に見送られるのも大丈夫か不安になったんだろ? 大丈夫だ。ここでは、これが普通だからな」

私の不安をしっかり捉えて、頭をグイグイと撫でながら言うのは隣にいたクリストフさん。

「クリストフさん、グイグイちょっと痛いよ! 加減しないと、子ども達に嫌われちゃうよ!」


思わず突っ込んでしまった。

クリストフさんの我が子たちの扱いに、一抹の不安を感じて……。


「そうか? うちの子達は喜ぶんだがな?」


そうか、もう慣れてればこの力強い撫で? で喜ぶんだね。

パパが強いと子ども達も強いのかもしれないなと思った。


ここ、西の辺境の砦から王都のアジェンダまでは馬でゆっくり休憩と野営をして二日の距離らしい。

森や草原地帯や、小さな街二つ抜けた先が王都なのだとか。

私はもちろん、一人で馬には乗れないのでいろんな騎士さんと相乗りして行くことになった。

最初は団長さんと一緒に乗ることになっているので、近くにいると準備が整ったのか他の騎士さんがクリストフさんに声をかけにきた。


「団長、準備整いました!」

「よし、皆並べ!」


団長の声に、騎士の面々が並び互いに剣を合わせて声を出し、別れの挨拶をして各々、騎乗する。

私もクリストフさんにヒョイっと引っ張りあげられて、無事に騎乗した。

たくさんの人の笑顔に見送られて、私達は王都を目指して出発した。


砦を出て、順調に進むが急ぐこともないのか、最初の村からの移動の時とは違いゆっくりとした速度で移動している。

「帰りはそんなに急がなくって大丈夫なの?」


私の疑問に、ハハっと笑ってクリストフさんは答えてくれた。

「乗馬に慣れていない、黒の乙女の護送だからな。ゆっくりで構わんさ」

私たちのやり取りに、周りの騎士さん達もニコニコとしつつ頷いているので大丈夫そうだけど私は気になっていた。


「だって、ひと月離れてたらみんな家族に会いたいだろうし、そう思うとゆっくりで申し訳ないような気がしちゃって……」

つい、申し訳ない気持ちが顔に出ると近くの騎士さんが朗らかに言った。


「今回の遠征に来た騎士は独身者が多いですし、そう気になさらないでください」

確かに、周りを見れば私と同世代かちょっと上かなって年代の人が多い。


「さて、ここらで休むか。そろそろ昼時だからな」

そうして広めの草原で、一旦休憩となった。

そんなに経ってない気がしていたけれど、結構な時間走っていたらしい。

馬から降りて、私はクリストフさんの相棒で私も乗せてくれたリオンの前に立って鼻先を撫でた。


「私も一緒で重かったでしょう? 乗せてくれてありがとうね」


そう、声をかけて撫でると穏やかな瞳と目が合った。

「どうってことないよって返事してるわ」


アリーンがそう教えてくれて、私は再び目を合わせてお礼を言った。


「リオンは優しいね! ありがとう」

ヒヒーンと嘶きまた撫でで欲しそうに見えたので、私は鼻先を撫でてやった。


「すっかり、リオンが懐いてら。こいつ結構気性が荒い方なんだがな。ユウを見てすぐ、気に入ったんだろうな」

クリストフさんの言葉にサリーンが言う。


「動物達にとって、精霊王の愛し子と関わることは栄誉なのよ。喜んで乗せてくれるわよ」

なるほど、そんなものなのか。


簡単なお昼を食べて、別の騎士さんと相乗りになっても次の馬も確かに快く乗せてくれたのだった。

夕方近く、その頃には森の傍に来ていた。

今日は、この森の手前の開けたところで野営になる。

野営となると、色々準備がなされてあっという間に天幕が張られており、煮炊きの場所まで出来ていた。

その間、私は今日頑張って走ってきた馬たちを労って、軽い癒しの術をかけてブラッシングしてきた。

そして、煮炊きの場所に来て驚くことになる。

そこで煮炊き担当の騎士さん達が作っていたのは、ザ・漢の調理って感じでぶった切って突っ込んで煮込みましたってものだった。


「ちょっと待って! これ味付けはなに? お肉下味は? 臭みとらなきゃ美味しくないよ?!」


思わず突っ込むと、騎士さん達はへ? って顔をした。


「ちょっと、見せてね!」

鍋を見れば野菜やお肉が入っているものの、肉の臭みしか漂ってこない……。

私は慌てて妖精の二人を呼んだ。

「アリーン! サリーン! ちょっと手を貸して!」

馬と戯れていた二人を呼んで、このお肉感溢れる臭いを漂わせる鍋を見せる。


「これは、また……」

「ここらの妖精に声をかけたから、ハーブとか持ってきてくれるわ」


妖精にすら顔をしかめられてる品は食べれないと思うので、何とか食べられるように挽回したい……。

そうして、ここの近くにいた妖精さんがハーブやなんと山椒っぽいものも持ってきてくれたので、それらとお塩と胡椒で何とか味付けを整えて、鍋の匂いが美味しく変わってきたのでホッとした所に、クリストフさんやベイルさんがやってきた。


「黒の乙女。なにをなさってるんですか?」


あ、あれ?下手に動いちゃいけなかった? でも、あのお鍋は放置したら誰も食べられなかったと思うんだけれど……。


「騎士さん達の作ってたお鍋が、私についてる妖精さんでも顔を顰めてたから、ちょっとお手伝いを、ね?」


私の言葉に、なんとなく察したらしいベイルさんは深くため息をついたあと、若い騎士さん達にニコリと笑って言った。


「君たち、今度食堂のメリッサに調理を習いなさい。いいですね?」


キラッとモノクルを光らせて言う姿には、ハイという返事以外認めないという威圧感と冷気があったのでした……。

ベイルさん、怒らせちゃダメ、絶対。

私は、一つ覚えたのだった……。


私が手伝ったお鍋はいつもより良かったらしく、騎士さん達の旺盛な食欲により、見事綺麗に空になった。

うん、気持ちよく食べてくれて良かった。


「ユウ様。本日はこの天幕でお休みください」

なんと、準備されてた天幕のうち一つは私専用だったらしい。

いいんだろうか? 皆さん結構大人数で使うのに。


「ユウ様は、黒の乙女ですからね。順番に護衛も着きますので、安心してお休みください」


こうして、再び強い眼光でベイルさんに押し切られて、私はこの日広い天幕で私とアリーンとサリーンで休んだのだった。


翌朝、私はモフっと温かいなにかにスリスリと寄ってこられたことで目を覚ます。

私の目の前には虎柄の子猫が居た。


「ん? 猫? きみ、どこから来たの?」

「ナーン!」


私の問いかけに鳴いて答えた、子猫は人懐っこく擦り寄ってくるので撫ででやると、喉をゴロゴロと鳴らしている。


「外には護衛の騎士さんもいいたはずなのに、いつの間に入ってきたの?」


思わず、抱えあげて目線を合わせて問うも、猫はさぁ? みたいななにも気にしない顔をしている。


「可愛いから、いっか!」


猫とのやり取りをしているうちに、アリーンとサリーンが起きてきて、猫に気づくと言った。


「この子、ユウと一緒に居たくて親から離れて来たみたいよ。一緒に王都に連れてってあげてちょうだい」

アリーンに言われて、私は頷きつつ聞いた。

「この子、もしかして普通の子じゃない?」

それには二人はニッコリ笑って言った。

「いずれ分かるわ」


こうして、王都に向かう途中で一匹の猫が私のおともに加わったのだった。


朝も軽く食べると、今日も初めは団長さんと相乗りして森の中を進む。

ちらほらと、妖精さんの気配は感じるものの、姿は見えない。


「気配はするのに、姿が見えないって気になるなぁ」

ついつい呟くと、クリストフさんが私に聞いてきた。


「なにが気になるんだ?」

「妖精さんの気配はするんだけど、ちっとも姿が見えないから」

私の言葉に、一つ頷くとクリストフさんは言った。


「妖精ってのはシャイなんだとよ。よっぽどじゃない限り見られない。そもそも、妖精の姿が見える人間も珍しいんだぞ?」


なんですと? 私には見える上に、二人もくっついてきてますけど?

驚いてちょっと顔が固まってると、横を一緒に走っていたベイルさんが聞いてきた。


「ここは妖精の森とも呼ばれているところですが、そもそも気配が分かるのも凄いことなんですよ?」


いや、だって初めから妖精がついてきてる私は、見えるのも会話出来るのも普通のことみたいにしてた。

でも、それって傍から見たら……。


「私もしかして、たまになにもないとこに話しかける、怪しい人になってたって事?!」


思い至って、聞いてみるとベイルさんは首を横に振って答えてくれた。


「黒の乙女は別名、精霊王の愛し子ですから。妖精が見えてコミュニケーションが取れるのは、それこそ証みたいなものなので」


なるほどね……。

だから、誰も空中に話しかけるような状態にしか見えなくってもツッコミは入らなくって、私は周りは見えてないってことに気づかなかったわけね……。


「黒の乙女って結構有名なの? そういったことが、国民に伝わるくらいに」


だって、知らなかったら不審な怪しい人にしかならないのに、誰も聞いてこないってことは、黒の乙女についてはある程度国民みんな知ってるってことになるかと思うからだ。


「黒の乙女はこの国イベルダに存続の危機があると現れると言われている存在で、絵物語にもなっているので、幼い子でも知っていますよ」


そういう存在なんだね、黒の乙女……。

乙女って柄でもないんだけどなぁ。

私、王都に行って大丈夫なんだろうか。絵物語になるって、相当美化されてる存在だよね?! 不安しかない……。

ついつい頭を抱えていると、クリストフさんがカッカと笑って言った。


「おう、そんな心配するな。あとな、ユウの年齢ちょっと変えておこうな?」


ん? 年齢を変えておくってどういうこと?

疑問を顔に思いっきり浮かべるとクリストフさんが苦い顔をして話す。


「成人してると、ちょっと厄介なことがあっても助けてやれない。未成年ってことにして、俺かベイルを後見人にすれば大抵の厄介事はどうにかしてやれる。どうだ?」


確かに、まだこの世界のことも、イベルダのことも分からないことだらけ。

この世界の常識やら教養やら、生きていくのに必要なことを覚えるまでは、誰かの庇護下にいる方が安全で、安心だろうと思う。


「じゃあ、私は十七歳ってことにしますかね?」


説明を受けて、私が答えればクリストフさんもベイルさんも頷いてくれた。

そんな打ち合わせもしつつ、お昼休憩を挟み森を抜けて、今日は小さな街で夜を明かすことになった。

ここに来る頃までには、だいぶ道が広く、馬車などが行き来するような感じだった。

実際にいくつか荷馬車とすれ違った。

とりあえず、やっと落ち着ける所に着いてその日はまたぐっすりと眠ってしまったのだた。


翌朝、準備して再び馬の上。

しかも、ここに来て初めてベイルさんと一緒。


「ユウ様、どうぞ」

手を差し出されて、引っ張りあげられる。

クリストフさんと違って、細身なのに力があった。

そして、意外と筋肉質。前に座って胸もとに寄っかかってもビクともしない。

ベイルさんは着痩せするだけで、しっかり筋肉ついてた、細マッチョさんだった!


そんな、初相乗りにちょっとドギマギしつつも街道はしっかり整備されていてこの先は王都まで石畳なのだという。

今までとは全然違う乗り心地を楽しみ、どんどん増えていく建物や人を眺めているうちに、お昼前。

とうとう、王都の城壁の門へとたどり着いたのだった。


「さすが、一国の中央都市。一番建物も人も多いね」


そう話しつつ、私たち王国騎士団は検問所は待たずに通れたので一同このまま、王宮の騎士団詰所に向かうそうです。

騎士団の詰所。騎士だらけ。

筋肉美見放題かな? あ、顔が緩まないように気をつけなくっちゃ。

こうして、私は無事王宮近くの騎士団詰所に着いたのだった。



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