考えたら実行する!魔法を実践検証中!?
私は、考えた。どうやったら隣国の攻撃を退けてさらに、今後安全にこの近隣の住人が暮らしていけるかを。
魔法で結界を張ってみるとか? しかし、結界なんてものはそうそう維持できるものでもないよね。
うーん、嘘発見器的な感じで、怪しい人は関所で通さないとか?
空港の金属検査みたいなので、怪しい人をお知らせするゲートとか?
あんまり現実的じゃないな、ここ科学技術はそんなに無いし……。
でも、その辺りは魔法でどうにかなるんじゃないかな?
ここに悪意を持つものは入れません! って感じの判定するものを作って、砦の通用口に設置すれば良さそう。
それなら、イメージ的には占いで使う水晶球がいいな。
それに手を載せると、悪意ある人物が触れたら中に黒いモヤが出てきて、問題ない人は黄色とかどうだろう?
いいかも! なんて一人そこで頷くと、副団長さんが私に聞いてきた。
「ユウ様。なにか、いい思いつきでも?」
その問いかけに肩を揺らしてビックリしつつも、今考えたことを言ってみることにした。
「この砦の通用口に、ちょっとしたものを設置してみたらどうかな? と思いまして」
そこから私は、さっき考えたことを言った。
「まずはこの状況をどうにかしなきゃならないんですが、落ち着いたら住人の安全のために、ここに悪意を持って入ろうとする者の入国を拒否できるような装置を置きたいなと」
それには、ちょっとみんな目が点になったみたい。
「ユウ様、それは具体的にはどんなものをお考えですか?」
副団長さんが、やや前のめりで聞いてきたので、私は少し驚きつつも答える。
「今、やってみますね?」
そういうが早いか、私は自分の両手をものを持つように掌を上にしてイメージした。
すると、私の広げた手の上には程よい大きさの水晶球が乗っかった。
「これに悪意ある人物が触れると、黒い霧が中に立ち込めます。そういう人はそこで入国拒否の旨を伝えます。そうすれば、国内に入れないので安心です。普通の人が持てば、こんな感じで黄色いモヤになります。黒い霧になったものは砦の通路を通れないように、この門にだけ結界を張り、水晶で問題ない人だけ通れるようにします」
皆が手元の水晶を覗き込み、黄色のモヤを見て納得していると、副団長さんは言った。
「これは、我が国の四つの砦全てに設置したいですね。これの維持はどうなっているのでしょう?」
「周囲に自然に漏れてる魔力を吸うようにと考えたので、置いておけば半永久的に使えるものになります。ただ、素材としては強くないので落とすと割れますよ?」
私の答えに、またも周囲はどよめきに変わる。
周囲の魔力を自然と吸収ってそんなに不思議かしら? 最初の村から移動してきている間に、ちらほらと見てきたけど結構そこら辺に漂ってるから、使えると思うんだよね。
どうやら、魔力って人だけじゃなくて自然物も持ってるみたいで、岩とか木とか、草花からもちょっとずつ流れてくるんだもの。
そういった力を借りるのは、悪くないと思うんだよね。
発想的には自然エネルギー的な感覚なんだけど、周囲の反応を見る限り、この考え方は普通ではなかったみたい……。
「ユウ様。自然に漂う魔力とは、どういったものかお分かりですか?」
うーん、ここでは非常識なのかな? それとも新発見レベル? 周りの魔力強い人達でも見えないのかな? 疑問に思いつつも、私は私に見える事を伝える事にした。
「最初の村から移動する間も、あちこちから魔力を感じたの。よくよく見れば、魔力は木々や草花や岩、小動物達からも自然に漂ってるから」
みんな驚いた顔のままで、耳だけしっかり聞いてる感じなので、そのまま続けた。
「白い霧みたいに私には見えるんだけれど、みんなには見えないものなの?」
私の問いには、いち早く状態が回復した団長さんが答えてくれた。
「騎士団にいる連中は、大抵魔力も強い。騎士は魔法剣士だと思った方がいい。そういう連中でも魔力が可視化されたとは聞かない。俺も魔力を感じることは出来ても、見ることは出来ない」
その言葉で、私の感覚がかなり特殊で突出していることを自覚した。
「ユウ。俺達は周囲に魔力があることを知っていても、それを利用するって発想は無かった。これはかなり、魔法の発展に繋がるぞ」
いうなり、わしゃわしゃと髪を撫でられて、力の加減から少々よろける。
髪もちょっと乱れたので、気にせず手ぐしで整えたら、ちょっと団長が手伝ってくれた。
その手は大きくってゴツゴツしてるのに、髪を直す時は繊細な動きをしたのが、ちょっと意外だった。
「すまんすまん、ユウはちっこいから気をつけないとな!」
ははは! と実に豪快に笑い飛ばす団長さんに、副団長さんはジロっと睨んで言う。
「団長は大雑把すぎます! ユウ様は救世主たる黒の乙女ですよ! もっと丁重に!」
うん、なんか二人の日常が見えてきた気がするよ。
この二人、いつもこんな言い合いしてそうだもんね。
周りの騎士さん達も気にしてないし、多分そうだろうと思う。
「ちょっと強かったけど、私は団長さんみたいに接してくれると嬉しいかな。畏まられても、こっちも困るし」
そんな私の言葉に、団長さんはニカッと笑ってヒョイっと私を抱えあげて言った。
うん、抱えられるような年齢ではない気がするんだけど……。 この片腕抱っこは完全に子ども扱いだね?
「そういや、ユウはいくつなんだ?」
「私? 十九歳だけど。ここだともう、成人してたりする?」
ここは異世界。自分の世界とは成人基準が違う恐れがあるので、聞いてみた。
こんな子ども抱っこ状況でする話かな? 団長は天然さんってことにしとこうかな……。
ちょっと遠い目をしていると、団長さんはしっかり教えてくれた。
「イベルダでは十八が成人だな。ユウも立派に成人だ! でも、見かけはまだまだ子どもにしか見えんな!」
うん、私は百五十三センチと小柄だし、子どもに間違われるのは、自分の世界でもしょっちゅうだった。
なので、そう言われてもあまり気にしない。 だが、抱っこは恥ずかしいので、ご勘弁願いたいな……。
「さすがに、この歳で抱っこは無いでしょ? 下ろしてください!」
私の言葉に頷いて、団長さんは下ろしてくれた。
「ま、こんな感じのユウだからな。なんかあったら抱えて逃げてやるから、なんも心配するな」
団長さんには、何となく分かっていたのかな。
私が、この戦場にわりと動揺していたこと。
ここで私がなにかしても大丈夫なのかと、心配だったこと。
組織的なもののトップに立つ人物なのだ。
どれだけ、豪快であっても人を見る目はあるのだろう。
私は、ここの人達は信頼出来る、そう思えた。
そこで、私はひとつ閃いたので聞いてみることにした。
「みなさん、ここでは雷って鳴ったり、落ちたりしますか?」
雷の単語にはて? 不思議そうな顔になっている騎士の面々の中で、
「雷って、イカヅチのことか?」
そう聞いてくれた団長さんの言葉に頷く。
「それって、頻繁に起きますか? それとも珍しいですか?」
「珍しいし、晴れてるこの時期にはそうそうお目にかからん」
周りも、頷いている。
そこで私は、周りを見つつ言った。
「じゃあ、もし今雷が急に落ちたら、敵は脅威に感じますか?」
私の言葉が何を意味するかは分からないままに、この部屋で話を聞いたみんなは想像すると頷き、副団長さんが言った。
「もしも、そんなことが可能ならば……。敵はその事態に陥れば、恐れから前線を離れることでしょう」
クイっとモノクルを合わせて、副団長さんが言ってくれたので、私は、こう提案した。
「それじゃあ、いっちょ雷落として、お相手にはアビエダにお帰りいただきましょう!」
私の発言に、この部屋の騎士さん達は二度目のポカーン顔に陥ったのだった。
私、そんなに変なこと言ったかな? お互いに傷つかず、穏便な撤退方法だと思うんだけどな。
私、そんなにおかしいこと言ったかな? なかなかなにが変なのか、この国の常識とか、考えが分からないからいかんとも判断しづらい。
そこに団長はそれは、嘘だろう? と言う顔をして聞いてきた。
「さすがに、それは出来ないだろう?」
「まぁ、ちょっと見てて?」
私はそう言うと、自分の指先に帯電するイメージをすれば、それは直ぐに顕現し、私の指先には青白くビチバチ光る電気が小さく発生して、私は手近な金属にそれを向けると、ビチッと音を立てて走って落ちた。
その様子を見た騎士さん達も、団長と副団長も一気に顔色を変えた。
「ユウ様、これを大規模に出来ると言うことですか?」
「ここで小さく出来たから、多分出来ると思う。やったことは無いけれど。今ので感覚掴めたから、問題ないと思う」
実にあっけらかんとした私の様子と、今目の前で起きた出来事に、騎士さん達は顔色をちょっと青ざめつつも確信を得たらしい。
これなら、アビエダを前線から撤退させることができるだろうと……。
翌朝、朝日が昇り辺りが明るくなった頃。
私は、砦の見晴台に立った。
私の後ろには、団長のクリストフさんが着いている。
「ユウ。遠慮は要らん。派手にやってやれ」
その言葉を合図に私は、サリーンに手伝ってもらい言葉を相手方に届けてもらう。
「アビエダの兵たちよ。このまま攻めてくるのであれば、こちらにも考えがある。半刻の間に撤退せねば、精霊王の怒りを受けると心得よ!」
この時のためと言わんばかりに、私には綺麗な光沢のある黒のドレスが着せられている。
コルセット風の腰帯は金で黒との対比が眩しい程だった。
私の声はちゃんと届いたはずなのだが、アビエダの兵は引かぬままに半刻が過ぎた。
「とても残念だわ。アビエダの兵たちよ。精霊王の怒りを知るが良いでしょう……」
そう言葉を発したあと、私は両手を天に掲げ、言った。
「この国に悪意あるものに、精霊王の怒りを!」
手に、力を込めて大きく振りかぶると天から青白いイカヅチがバリバリバリと大音量を轟かせて、近くの大木を真っ二つに引き裂き、大岩は粉々に砕け、地面を大きく抉った。
晴天の最中にいきなり始まったイカヅチの襲来に敵の兵はパニックに陥り、収拾がつかず、逃げ出すものが続出でまとまりを無くし、砦前に敷かれた前線から次々と撤退して行ったのだった。
「ユウ。清々しいほどの勢いだったな。これは当分奴らもここには来ないだろう。ありがとうな!」
そう言うと私を抱き上げて、団長は大きな声で言った。
「敵は見事、黒の乙女が撃退して下さった! 今回は我々の勝利である!」
その宣言に砦の人々は歓声を上げて喜び、ここ一ヶ月続いていたという、砦の攻防は無事幕を閉じたのだった。
私も、無事に済んでホッと息を吐いた。
「夜は祝賀会だ! みな、よく頑張った!」
こうして、私の異世界での初めての戦争は互いに死傷者を出さずに一応の幕引きが出来たのだった。
その夜、住民と騎士達でささやかに行われた宴。
私は何故か真ん中に設えられた、椅子に座ってこの場を眺めていると、怪我を直した人々が来て、口々にお礼を述べて去っていった。
小さな、おませな男の子にはほっぺにチュッと挨拶みたいなキスを貰った。
可愛いので、ギューッとし返しておいた。
「ユウ様。この度は、誠にありがとうございました」
ここに来て、私を村からここに案内したジェラルドが挨拶に来た。
「いいえ、私の力が役に立って良かった。今後も気が抜けないだろうけれど、これジェラルドに預けるから。役立ててね!」
私は、あの悪意のある人物判定装置の水晶をジェラルドに託した。
「必ずや、無駄に致しません。ユウ様、またお逢い出来る日を楽しみにしております」
そう踵を返して、去っていった。
とっても精悍で逞しく頼りになる人だった。
いつかまた会いたいものだ。
私は、明日にはこの砦から王都に帰還する王国騎士団と共に王都へと移動することになっていた。
ここの街並みが、綺麗になった頃また見に来れたら良いなと思ったのだった。