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異世界転移したら、そこで強力な治癒術師になってました。  作者: 織原深雪


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16/20

新たな二つ名とともに、戦いの最中へ


王太子様の暗殺未遂事件は瞬く間に王宮や世間に広まり、それを救ったのは話題の黒の乙女だったことも広まった。

また毒物にも迅速に対応して治癒したことから、「癒し姫」という新たな二つ名がついた。

癒しの術が上手くいっていることも大きく、学園や騎士団の鍛錬場で度々ケガ人に治癒をしていたために黒の乙女より段々と癒し姫の二つ名の方が定着してきた。


そんな頃、とうとう東と西から戦を仕掛ける宣誓書が送られてきて、戦争が避けられない事態になってきてしまった。

イベルダにも四季があり、私が来た春から数ヶ月が経ち、季節は夏の終わりになっていた。


「戦は西の国との国境でか……」


西の国境は私が転移してきた時に、初めていた村の近く。

私にとって記憶に残る土地だ。

西の国境砦も、辺境騎士団の面々も元気だろうか。

この前の戦からまだ回復しきれていないだろうに、またそこで争うことになるとは。

私はあの砦にいた人々を思い出して、どうしたものかと思っていた頃、再び王宮への召集令状が私の元にやってきたのだった。

私は、シャロンさんを連れて王宮へとやってきた。

宣誓書が届き戦の準備が進んでるからか、前回の王太子様暗殺未遂の時以上に、王宮はピリピリとした空気になっていて気分が重くなる。


今回の召集令状の意味合いは、なんとなく察しているけれど。

私を見かけると皆ハッとした顔をするから、謁見の間に着く頃には予測は確信に変わってしまった。

謁見の間に入ると元気になった王太子様、国王陛下と王妃様に王女様、その後ろに警備でクリストフさんにベイルさん。

宰相のベイルさんのお兄さんも居た。


ここに入ったのは私一人。

謁見の間で前回と同じ位置に止まり、淑女の礼を取る。

すると、直ぐに陛下から声がかかった。


「顔を上げよ。此度は礼が遅くなり、申し訳ない。先日は王太子をよくぞ救ってくださった。どうも、ありがとう」


言葉と共に頭を下げられて、私がギョッとしてしまう。


「頭をお上げください、陛下。私は、私に出来る最善のことをしたまでです」


私の言葉に深く頷くと、陛下は腰を落ち着け指示を出すと私の背後にも椅子が用意された。

どうやら話は長くなるようで、陛下にも告げられた。


「此度は、話すことが多い。黒の乙女、いや癒し姫の方が今は通りが良いな。癒し姫、ユウ様もお座り下さい」


促され、私は準備された椅子に腰掛けた。

座ると、少しの間をもって陛下が話し始めた。


「此度、西のアビエダと東のシェーナの二カ国が同時に戦を仕掛ける宣誓書が送られてきた。西の砦にて、一週間後に開戦だ。そこで癒しの姫たるユウ様には、この戦の砦へと行っていただきたいのだ」


そうだろうなと思っていた、その提案がなされたことに複雑ながらも納得して私は頷いた。


「はい、もちろん。此度の戦はこの前よりも厳しいものになることは、予測がつきますので。ですから私は元から西の砦に赴く所存でありました」


西の砦には、私を始まりの村に迎えに来てくれた辺境騎士団の騎士が居て、その周辺に住む住人達は私を暖かく迎えてくれて、子どもたちとは同じ毛布にくるまって寝たのだ。

そんな過ごし方をした人々のいる地に、再び他国の手が伸びようとしている。

それを知って、私には戦う力も傷を癒す力もあるのに戦の前線に行かないなんて選択肢は、私の中ではなかったのだ。

自ら赴く気でいることを、お願いされるのもおかしなことだなと思いつつも、私は元から行く気だったこともありすんなり了承したのだった。

あまりにも、あっさりと承諾したので王族の面々と宰相のガルムさんは驚いた顔をするが、警備で居たベイルさんとクリストフさんは予測できていたらしく驚いてはいなかった。

しかし、二人の顔は顔はしかめられていた。


「良いのか? 戦の最前線とは命の保証がないのだぞ?」


国王陛下は、あまりにもすぐの承諾に私に危機感がないと思ったらしい。

言って欲しい割には矛盾した言葉だなとは思うが、国王陛下の人となりがわかるその言葉に私は逆にホッとする。

人を思いやれる人が国のトップに立っているということに。


「そうです。最前線はそういう場所です。だから私はその近くに暮らす人々を守り、癒すために行くのです」


キッパリと言い切る私に、王族と宰相閣下は私を見つめて動けない。

そんな国を動かすトップたちに私は自分の素直な気持ちを言葉にした。


「西の砦の人々はわけも分からず、見ず知らずの私が現れて、助けられたとはいえ他人にも関わらず暖かな毛布と、そこにあるもので一番いい食事を私に与えてくれたのです」



私の言葉に、陛下も宰相も目を見開いた。

この国の人々は自身が苦しい中でも、自分以外の人に優しく手を差し伸べることの出来る人々がいる、優しく思いやりに溢れた素晴らしい国なのだ。

それは他所から来た私が一番驚き、嬉しさ喜びと共に尊ぶべきものと感じたことだ。

人に優しくできる人々の多いこの国は、だからこそ守らなければならない。

自衛をしていても狙われてしまう魅力あるこの国は、精霊や妖精にも愛されている。

それはこの国の人々のあり方、気持ち、過ごし方にあるのだ。

彼らは見えなくとも確かに存在する隣人に敬意を払っているし、認めているのだ。

だからこの国の人々に妖精も、精霊も優しく見守っているし彼らからの些細な手助けだってあるのだ。

それは過ごしやすい気候や作物の育ちやすい土、きれいな水。

そういった全てに、干渉しやすい存在が妖精や精霊だ。

その存在を認め敬い、親しき隣人として過ごしてきた国民性が、この国を豊かにした一因でもある。

元から良かったものが、さらによくなるにはそれなりに理由があるのだ。

それを分からずに、攻めてくる国にはやはり問題があると思う。

そして、私は関わことのある人々の危機を見過ごすことは出来ない。

だから、元から行く気だったのだ。


「この国で最初にお世話になった人達なので、私はそこに住む人々を守りたいです。それが、私に出来ることだと思うので……」


心から、そう言ったとき。

私の足元に常に共に居た猫のメルバが、パァーっと光を発した。

光が落ち着くと、そこにはいるのは立派なホワイトタイガー。


「メルバ? 大きくなったってレベルじゃないよね?」


現れた巨躯に思わず、突っ込んだのは仕方ないと思う。


「当たり前だよ、我が主。主の心の望み、強き思いで我の呪縛が解かれたのだ」


ホワイトタイガーから男性の美声が話しかけてくるという奇妙な状況だが、アリーンとサリーンから受けていた忠告のおかげでなんとか平静を装っている。


「メルバ、あなたは一体?」


私の問いに、メルバはあっさりと答えた。


「我は、風の聖獣よ。サリーンと近しい存在だな」


聖獣!? それは喋る動物で認識は良いのだろうか?

やはり、私も少しばかり混乱している。


「我は精霊に近く、妖精より高度な魔法や力を持つものだ」


アリーンやサリーンの声は聞こえないが、現にそこにいるホワイトタガーなメルバの声に関しては、ここにいる全てのものに聞こえてるらしい。

私とメルバが会話している間、陛下も、王妃も、王太子も宰相も固まってしまった。


「やはり、普通の猫じゃなかったか……」


そう呟いたのはクリストフさんで、それに頷いて同意していたのがベイルさんだ。


「えぇ、たまに猫から殺気飛ばされましたからね……」


なんか聞き捨てならない事を聞いた気がする……。

私は聞かない訳にはいかずに、口を開く。


「メルバ、殺気なんて飛ばしてたの?」


私の胡乱な目線にも、ん? なんのこと? みたいな表情をしてメルバは言った。


「なに、我のユウを困らせとるから、ちーっとばかり、ビビッと飛ばしてしもうたかものぅ」


聖獣の殺気なんてちょっとばかしで飛ばしちゃだめだろう……。


「メルバ、この部屋の人々も私の周りにいる人々も大切な人達だよ。殺気飛ばすのは、戦の相手だけにしてちょうだい」


私の発言にちょっと周りがヒヤッとしているのは、まぁいいでしょう?


「人のもの欲しがる駄々っ子には、お灸が必要でしょう? 二度目とか、手加減はいらないと思うのよ?」


ここにきて、この謁見の間の人々は私が宣戦布告にたいそう怒りの気持ちを持っていることを悟ったのだった。


「私の国の言葉には、目には目を、歯には歯をという言葉があるの」


唐突な私の言葉に、みんながかたずを飲んだ。

そして、陛下が聞いてきた。


「して、その心は?」

「やられたら、やり返せというものよ」


ニッコリ微笑んだ、私は結構怖かったとクリストフさんにのちのち言われたのだった。

こうして、私の戦への参加は決まり、翌日には西の砦に向かって出発したのだった。


謁見から三日後、私は西の砦に到着した。

ホワイトタイガーに騎乗するという、世にも珍しいスタイルで登場したが、ここでは雷落としたり重症の怪我を治したり、結構初めから魔法を使いまくっていたので、住人の人々には驚かれなかった。

メルバは子ども達に大人気で、現在小さな子達にはしゃいで登られている。

メルバも子どもには好きにさせている。


「ユウ様!! なぜこちらまで来たのですか?!」


着いた私を出迎えたのは、西の辺境騎士団の第一隊の隊長、ジェラルドさんだった。


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