王都生活開始!王立学園へ初登校
さて、ベイルさんから届いたという王立学園の制服を翌日衣装部屋で確認する。
「なんて、着る人を選ぶ制服なんだろうか……」
制服自体の作りは可愛い。
ただし、西洋風で身体の凹凸や顔立ちがハッキリしているならば!
着る人を選ぶとは、そういうことである。
私の低めの身長、東洋人顔、凹凸に欠けるボディライン……。
一応袖を通してみたものの……。
「なんって、痛々しいのだろうか……」
着替え終わって見る全身鏡の向こうには、可愛らしいロング丈のワンピースで、ウエストは切り替えとギャザー寄せでふんわりしたスカートのシルエット。
その上に羽織るのは、ボレロの形にセーラーカラーが付いた可愛らしいもの。
本当にコレは着る人を選ぶ。
しかも、ワンピースの上はアイボリーでウエストから下は紺、ボレロも紺でセーラーカラーには赤のテープが入っている。
「もはや、日本だと漫画の中の学校の制服みたいなやつだよ、このデザイン……」
そう、つまり私には現実的じゃないってこと。
「これ着て学校生活送るの? つらすぎやしませんかね……」
鏡に映る自分を見てセルフツッコミとともに深いため息を吐く私に、アリーンとサリーンはあまり興味が無さそうで、窓辺に置かれたクッキーを食べて寛いでいる。
メルバだけは、足元から私を見上げてご機嫌良さげにしっぽを振っている。
「メルバ、お前はいい子だね!」
足元のメルバを撫でるために屈むと、メルバはトンっとジャンプして私の肩に乗ると、頭を私の頬に擦り寄せてきた。
「本当に可愛い子だね、メルバ」
そんな私とメルバのやり取りを見て、アリーンがポツリと言った。
「今は可愛らしいけど、ユウが魔法が上手くなって治癒術も上達すればこの子、変わるわよ?」
変わる? 一体なにが変わるというのだろう。
「こんな、ちょっと変わったホワイトタイガーみたいな色と柄だけど、人懐っこい、可愛い猫じゃない」
そう言い返すとボソリと妖精たちは言う。
「いずれ、近いうちに真の姿を見せることになるわ。私達は、ちゃんと教えたからね?」
サリーンまでもが、釘を指すように言うのでちょっと用心しておくことにする。
精霊王からのお願いで私のそばにいるこの子達は、基本私の世話係的なものだ。
魔法や治癒術、妖精や精霊王の事についてを教えるのが彼女らの勤めである。
そこに嘘はないので、信用している。
「メルバ、君は一体何者なの? まぁ、何者であってもそばに居てくれるのは嬉しいから、君が離れたくなるまでは、一緒に居ようね!」
私の言葉が分かるのだろう、メルバはちょっと心外だとでも言うような怒った顔をしたあと、肩にがっしりくっ付いていた。
まるで、離れる気などサラサラないと主張しているようで嬉しかった。
「うん。ずっと一緒ね! 私とメルバは家族だものね」
肩の上の頭を撫でてあげるとゴロゴロと喉を鳴らして、やっとご機嫌が治ったのだった。
制服を確認したその日から一週間。
ミレイド家では、私の学園生活のために貴族令嬢の嗜み、基本姿勢、挨拶などをレイモンドさんとフェミリアさんに叩き込まれた。
この二人、似ているなと思ったら、なんとご夫婦だった。
似た者夫婦だったのだ。
そんな夫婦の娘、シャロンさんが私の専属メイドさんである。
二人の娘な彼女も、笑顔でダメ出しするタイプのスパルタ教育型だった。
そんな三人のおかげで、一週間という短期間で瞬く間に一般人が貴族令嬢に化けた。
助かったけど、人生でこんなに勉強する事はあるだろうか? ってほどに頑張ったので誰か褒めて欲しい……。
この王立学園には貴族の子息令嬢が通うだけあり、なんと一人使用人を連れての登校が可とされている。
つまり、私にとってはありがたいフォロー要員アリの学園生活である。
「ユウお嬢様。そろそろ着きます。まずは教員室へ行くと担任が教室へと連れて行ってくれますからね」
ニコッと微笑んでの、説明にニコッと笑みを返して返事をする。
「了解よ! さ、貴族のお嬢様やってやりましょうとも」
こうして国王陛下の采配により、この国に早く馴染めるようにという考えからの王立学園へと一歩を踏み出した。
王立学園とは、名の通り国が運営している学校なのだが、生徒に貴族は多いが、一応一般にも門戸は開かれており、商家の子ども達なども来ていたりする。
学科は騎士科、魔法科、文官科、一般科にメイド科とあり、貴族の令嬢や令息であれば一般科で教養や領地運営についてを学ぶらしい。
その中でも文官や騎士、魔法が強いタイプは各々の学科に進むのだとか。
それぞれ、それ相応の適性がないと通えないので、一般科以外は結構少数精鋭で各学年に一クラスなのだという。
そんな私は魔法科一択であった。
ミレイド家や関わった騎士さん達にも、魔法の制御も力もかなりのものだが、だからこそ他の魔法が使える人のレベルを知るのも勉強だ、との勧めから魔法科に編入となった。
編入試験は先週受けたが、魔法科のおじいちゃま先生がなにかをする前に私と出会ってすぐに言った言葉で即編入許可が下りた。
「フォッ、フォッフォ。黒の乙女様であれば、我々教師ですら力でも技でも勝てる者はおりません。こちらが学びたいくらいですので、ぜひ来週からいらして下さい」
よくよく聞いたら、王宮魔術団の前団長職だったらしい。
引退したとはいえ、ちょっと前まではこの国で一番強い人が認めた、という事でなんの問題もなく編入が決まったという。
そうして、たどり着いた王立学園はというと。
「これまた、どっかの学園ドラマみたいな校舎ですこと……」
私の呟きに、シャロンさんが一言。
「一応、国のものですからね。これ、その昔は離宮だったそうですよ」
なるほど、通りで立派な建物だし、そこかしこに名残があるのね。
しかも、王宮は荘厳だったのにこの離宮はなんというか……。
「派手だね……」
「えぇ、四代前の派手好きな王様の建てた離宮ですので……」
シャロンさん、はっきり言ったわね。
まぁ、ここで過ごすのは一年くらいだし、なんとかなるでしょう。
そんなわけで、私はシャロンさんの先導で教員室を目指した。
シャロンさんが迷いなく進むのは、ここのメイド科の卒業生だから。
頼りにしてます、シャロンさん。
しかし、校内を歩く私への視線が痛いくらい刺さるのは何故って、この黒髪黒目のせいだよね。
金髪、銀髪、亜麻色、赤毛に稀に青っぽいとかこの国の人々の目と髪は派手な色が多い。
そこに黒は目立つのだ。
たどり着いた教員室でも、教師から見つめられる状態に。
そんな中を転びそうな勢いで、たっぷりしたお腹の持ち主が駆け寄ってきた。
「黒の乙女様!! お迎えもせず、大変申し訳ありません!」
お腹に頭がくっつくかという勢いで頭を下げているのが、多分学園を預かっているトップなのだろう。
「学園長さんですかね? 私は過剰な反応を苦手としておりますので、どうかお気になさらず」
思わずひきつった笑みをしつつ、言うと学園長はホッとしたように頭を上げた。
「こたびの黒の乙女様は、大変人柄もよろしく寛容でいらっしゃいますな。では、魔法科の三年生の担任が教室まで案内します。キャレド先生! お願いします」
呼ばれたキャレド先生は、黒のローブのフードを被って顔がよく見えないが、零れている髪は金髪だ。
多分、綺麗なお顔をしていると思われる。
「キャレド・ビーンズです。得意な魔法は土魔法です。では、教室に案内します」
顔は見えないけれど、声は涼やかでよく通った声をしていた。
そうして、キャレド先生の案内で建物二階の端にある魔法科の教室にたどり着いた。
入ると、そこにはテーブルと椅子が綺麗に並んだ空間がある。
馴染み深い学校の教室の光景があった。
黒板の前の一段高いところに立ち、先生から一声掛けられる。
「皆さん、本日より転入するユウ・ミレイドさんだ」
一斉に向けられる目は、好奇心を隠していない。
彼らは私の通り名的な方がよく知っているから、髪と目に視線が集まっているのを私も理解していた。
「ユウ・ミシマ・ミレイドです。皆さんと魔法を学びに来ました。よろしくお願いします」
ニコッと笑って、私は教室内に小さな虹を作って見せた。
生徒達以上に、先生も驚いていた。




