歩いて森をさまよって、出会ったのは妖精!?
今日の私は重い教科書やノートを抱えて、学校から自分の家へと帰っている最中だった。
あと少しで家だという所で、いきなり私の視界が歪んで、滲んで景色が見えなくなったあと、クリアになった目の前の光景に自身の目を何度となく瞬き、荷物を置いて、両手で目を擦ってみても変わらないその様子に、思わず呟いた。
「ここはどこ?」
私の目の前に広がるのは、住宅地の家々とコンクリートや街頭ではなく、青々と茂る緑豊かな森の中。
しかも、夕方だったはずの時間は変わっており、木々の隙間から日が差し込んでいるところを見ると、ここは昼間っぽい。
ここに立ち尽くしていてもどうにもならないのだけは分かるので、私は日の差す方向に向かって歩き出した。
「さて、どっちに行けばいいのかも分からないよ?」
少し歩いた後、木々の隙間が大きくなり視界が開けてきた頃、立ち止まり思わず腕を組んで呟けば、キラキラと光る球体が二つヒラヒラと飛んできた。
不思議と怖さはなく、思わず光るものに手を伸ばして一つ掴んでしまった。
「キャ!ちょっと、人間!なにしてくれるのよ!」
掴んだ光るものからは、甲高い可愛らしい女の子の声がした。
言葉が分かることにホッとして、私は掴んだものを目の高さに掲げて見つめるとそこに居たのは、私の世界ではファンタジーなどでおなじみな格好の妖精だった。
「まさか、リアルな妖精さんに出会うとは……。これは夢? 私ってば、寝ぼけてる?」
思わず掴んでしまった光が妖精さんなことに呟いた私に、手の中の子はブーブー文句を言ってきた。
「ちょっと、人間! あんたいい加減離しなさいよ! って、あれぇ? あんた、この世界の子じゃないわね」
そんな手の中の子が気になるのか、もう一つの光も手の近くでキラキラふわふわしていると、手の中の子の言葉に反応してキラキラが薄れて姿が見えた。
手の中の子は水色の髪に瞳と透明な羽根の妖精さんで、もう一人は黄緑色の髪と黄色っぽい瞳で透明な羽根の妖精さんだ。
黄緑の子も姿が見えると、声が聞こえてきた。
「アリーン! この子が精霊王様が言ってた愛し子ちゃんじゃない?」
黄緑の子は、柔らかくおっとりした口調で告げると水色のアリーンと呼ばれた子は目を見開いて驚いたように言う。
「まって、サリーン! こんな私を鷲掴みするような子が愛し子ですって!?」
甲高い声に思わず私が顔を顰めると、サリーンと呼ばれた黄緑の子は私の目の前に来てニコッと笑うと言った。
「だって、精霊王様は言ったわ。黒髪、黒目の可愛い子だよって」
サリーンの言葉に、アリーンも私をようやくといった感じでマジマジと見つめて言った。
「ホントだわ……。黒髪に黒目の女の子ね……。人間、とりあえず話があるわ。逃げないし、離してくれないかしら?」
なんだかよく分からないけれど、この子達の話は聞いた方が自分のためな気がして、ゆっくりと手を広げてアリーンと呼ばれた水色の子を離した。
離されて、彼女は身なりを整えると両手を腰に当てて私に聞いてきた。
「ふぅ……。さて、人間。名前はなんて言うの?」
「三島優羽だけど……」
私の名前を聞くと、二人はウンウンと頷いて今度はサリーンが話し出した。
「ユウって言うのね。私は風の妖精サリーン。あなたが捕まえた子は水の妖精アリーンっていうの」
おっとりさんなサリーンの口調は、こんな知らない深い森の中だというのに、和んでしまう。
つい小さく可愛らしい二人の姿にニコニコと聞いていると、さくっとアリーンが言った。
「この子大丈夫かしら? 危機感が無くってよ?」
「大丈夫よ。だってこの子は精霊王様が異界から遣わした、我らが愛し子ですもの」
うん、二人の会話する姿は可愛いけど、私にも分かるように、そろそろ説明して欲しいな?
「ユウ、あなたは精霊王があなたのいた世界とは違うこの世界、フューラに召喚したのよ。精霊王の愛し子として、この世界でして欲しいことがあるの」
なんと、精霊王とかいうこの世界の偉そうな存在に私は召喚されちゃったらしい。
異世界転移しちゃったって、ことなの? とりあえず、訳知りなこの二人の妖精さんの話はしっかり聞くべきと、私は聞く体勢を整えるのだった。
「ユウがいた世界と、フューラはきっと色んなことが違うわ。その違いを不自由なく過ごせるように、精霊王様が私とアリーンを、ユウの元に送り込んだのよ」
ニコッと笑って教えてくれたサリーンに、私は聞いてみた。
「異世界から召喚ってどういうことなの? 私はそのやることをやったら元の世界には帰れるの?」
私の疑問にサリーンとアリーンは顔を見合わせると、私の方を向いてあっさりとした口調で告げた。
「異世界からの召喚は一方通行で、招けるけど送り返すことは出来ないと、言われているわ」
その言葉に私は絶句した……。
一方通行で召喚されるって、帰れないって嘘でしょう? 自分の意思とは全く関係ない召喚によって戻れないことを知り、言葉を無くした私にサリーンはそっと肩に乗り、頬を小さな手でそっと触れてきて言った。
「異世界から人を招くのはそれだけ大事で、ユウを招いたことで、精霊王様も今は眠っているの……」
なかなか理解は出来ないものの、相当なことをこの世界で求められているということなのだろうかと、少し不安になる……。
私は元の世界では、まだまだひよっこの学生で、未成年だし、ここでなにかが出来る程の力を持っているとも思えないのに……。
私が自分の考えに沈んでいると、ここでアリーンが声をかけてきた。
「ユウ。この世界はユウを必要としてるの。だからこの世界の創始者たる精霊王様にここに召喚されたの。それだけは間違いないのよ!」
力強く言い切るアリーンに、サリーンも同調して私の目の前にその輝く羽を使って飛んできて言った。
「そうよ。この世界がユウを求めたから、ユウは今ここにいるの。だから私たちと一緒に、頑張りましょう」
二人は、私の両肩に乗って頬にくっついてきた。
どうやら見放すわけではなく、召喚した精霊王さんも考えて、サポートの二人を私の元に寄越してくれたみたいだし、帰ることも出来ないというのなら、この世界で生きていくしかないのだから……。頑張るしかない。
なにかをするために招かれたらしい私は、この地球とは違うらしい、異世界フューラでまずは召喚主の精霊王に近いのかな?妖精の仲間が出来たのだった。
「それじゃあ、ユウ。まずは、魔法使ってみましょう!」
唐突に、いきなり魔法ときたよ!
私の世界には、物語の中にしか魔法は存在しないんですけど? 私が目を丸くして驚いてアリーンの発言についてこれてないことに、いち早く気づいたのはサリーンだ。
「ユウ。もしかして、ユウの世界には魔法がないの?」
キョトンと小首を傾げつつ聞いてきたサリーンに頷いて肯定すると、アリーンは水色の瞳を大きく見開いて、驚きと共に言った。
「魔法がないなんて、ユウの世界はとても不便な世界だったの?」
そう言って驚くアリーンに私は自分の世界だった日本を思い浮かべつつ答えた。
「魔法はないけど、科学が発展していたから。不便はなかったんだよ」
どうやら、フューラは魔法ありきの世界であるらしく、科学はあまり発展していないみたいだ。
「ここではみんな、大なり小なり魔法が使えるの。ユウも使えるから、簡単なものからやってみましょう」
こうして、私の異世界ライフは一緒に過ごす妖精との魔法訓練から始まることになった。