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31 「キリの魂は、ただのキリのものになる」



【魔王】

リーリファの魂の欠片を持って生まれた人間。人間の身には過ぎた魂がその存在を歪め、結果として世界の理を歪める。時と共に歪みは顕著となり、沸点を迎えたのち、魔王と呼ばれることとなる。リーリファの力がその魂にも染み着いているため、リーリファの力を使うことができる。リーリファの体と知は持ち合わせていない。魔王がその世界に存在する限り、世界の歪みは正されない。


【魔物】

リーリファの魂を持つ人間の存在により生じた歪みが、凝り固まり形を成した、魂なき個体。リーリファの祝福を欲してか、魂ある生命を襲うようになっている。害獣とは比べものにならない破壊力を持ち、抗うのは困難を極める。世界に存在する歪みによって姿を保っているため、歪みが正されれば跡形もなく霧散する。


【勇者】

世界の調停者であり、魔王の救済者。女神まで声の届く者たちによる願いと、リーリファの魂を持つ者の願いが重なることによって、異世界より召喚される。リーリファの三葉を授けられるに耐えうる魂と、魔王を救いたいと心から願うことのできる深い情を持っていることが条件。


【女神】

→リーリファ


【リーリファ】

重なり合い響きわたる、四つ目の音。四つの葉を持った少女。およびその少女が変じた女神の名。はじまりの精霊によって見いだされ、この世界を創造した。こんたいりきから成る。リーリファの魂は世界そのもの。大気そのもの。彼女はこの世界のすべての生命を祝福し、彼女一人の魂がこの世界を支え、動かしている。リーリファの魂が世界に満ちているため、術という超常現象が発現できる。リーリファの魂を除いた体・知・力を合わせて三葉と呼ぶ。彼女の名ははじまりの地の国の名前にも受け継がれている。


【三葉】

異世界から召喚された勇者が得る、体・知・力を総称した呼び方。悪用されないよう普段は次元の狭間で鍵をかけられている。勇者が次元を越える際、リーリファの意志によって授けられる。体は身体能力。知はリーリファの持つ世界の知識。力は願いを具現化する創造の力。魔王の元へたどり着くために体が、魔王を救う手立てを知るために知が、魔王をこの地より解放するために力が必要となる。


【リーリファの力】

願いを具現化する創造の力。願いを韻にして世界を震わせ、世界に干渉する力。本来が生み出す力であり損なう力ではないため、この世界のすべての魂ある生命を傷つけることができない。日本語によって紡がれたリーリファの力は、世界への浸透率が一番高い。そのため、勇者は日本語を話す異世界人が選ばれる。


【日本語】

リーリファの故郷の言語。リーリファの力にもっとも適した韻。この言葉を操る者が勇者に選ばれる。地球と呼ばれる異世界の小さな島国で使われている言語。


【地球】

別の次元に存在する、リーリファの故郷。勇者は地球から喚び出され、魔王を連れて地球へと帰還する。かつてリーリファがその地で力のないただの少女だったように、地球には力を具現するためのエネルギーが存在しない。当然、リーリファの魂による歪みも発生しない。



  * * * *



「……僕は、」


 その声は震えていた。

 その瞳は揺れていた。

 その手は、しがみつくように、すがりつくように、何があっても離しはしないとばかりに、隣に座る私の腕をつかんでいた。


「ただの、人間に、なれるの?」


 うれしいのか、悲しいのか、困惑しているのか、怒っているのか、泣きたいのか。

 全部あっているような、全部違うような。

 複雑に感情が入り混じった声音に、私は安心させるように微笑んだ。

 ちゃんと笑えているかどうか、全然、自信はなかったけれど。


「うん。私の世界で、なら」


 緊張のせいか、声がかすれてしまった。

 小さく咳払いしてから、私はもう一度、口を開く。


「地球でなら、キリは、リーリファの影響を受けない。キリの魂は、ただのキリのものになる」


 それが、私の得た勇者の知による、答え。

 逃げることよりも、元の世界に帰ることよりも。自分のどんな願いよりも、一番にキリを救うことを願った。

 きっとそれが最後の鍵だった。

 私は、キリを救い出すために、この世界に……リーリファに選ばれた。

 リーリファはなんて意地悪なんだろう。すべてを捨てる覚悟がなければ、魔王を救えないなんて。

 でも、それもしょうがないのかもしれない。

 それくらいの覚悟がなければ。

 だって私は、これから、キリに同じだけの覚悟を望むことになる。


「……そんな、夢みたいな」

「夢じゃないよ」


 はっきりと否定しても、キリの瞳はまだ揺れている。

 夢であってほしかったんだろうか。

 でも、これは、


「夢じゃ、ないんだよ」


 再度、私は告げる。

 くしゃり、とキリは顔を歪めた。

 きっと私も似たり寄ったりの顔をしている。

 どんな表情を作ればいいのかわからない。ううん、作ることなんてできない。

 ずっと探し求めていた答えは、こんなにもあっけないものだった。

 キリを救えるのだと、心の底から安堵しているのに、素直に喜ぶこともできない。


 ただ、ただ、願う。

 どうか、うなずいて、と。

 他の何を捨てさせたとしても、キリの命を捨てることは許せないから。



 私は、キリから私以外のすべてを、奪おうとしている。







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