執事のポルちゃん
塔の窓に手をかけて、下を覗いてみた。
塔の途中に雲がかかっていて、下が全く見えない。
窓から少し顔を出すと、顔が飛んでいきそうな勢いで風が吹いていた。
私、本当にラスボスになっちゃったんだ…。
こんな塔の中で、私を倒しに来る人が来るまで一人ぼっちなんだ…。
そう思うと一気に身体中の血の気が引くような感覚に襲われた。
孤独。
今まで考えたこともなかった強烈な孤独感が、真っ黒い口を開けて私を飲み込もうとしてる。
そんな恐怖が全身を包み始め、涙が溢れた。
「こちらにおいででしたか、ノベラ様。」
その時、背後から可愛らしい声が聞こえて、私はビックリして少し飛び上がった。
振り返ると、そこには40cmくらいの水色のボールが1個。
声の主を探して辺りを見渡しても、そのボール以外何もない。
「幻聴?」
そう呟いたら、ボールがポヨンと跳ね上がった。
「幻聴ではありません!私です、私!」
ボールがポヨンポヨンと跳ねながら近づいてくる。
声もボールから聞こえてくる。
「や、やだ、何?お化け?」
「お化けとは失礼な!私、こう見えても立派なモンスターでございますよ!」
ボールが目の前で大きく跳ねた。
よく見ると、ボールの中央に真ん丸くて黒い目が2つに、小さな口がちょこんと付いて、動いている。
同じクラスの子が付けてたマスコット人形をそのまま大きくしたような、可愛らしいモンスターがそこにいた。
「可愛い!」
思わずそのボール型モンスターを抱き締めていた。
「お止めください、ノベラ様!く、苦しいです!」
「改めまして、ノベラ様。私、本日よりノベラ様のお世話をいたします、執事兼初級モンスターの『ポルカ』と申します。私がいる限り、ノベラ様にご不便はお掛け致しませんよ!何せ、私、優秀な執事ですから!」
「私、モンスターって初めて見たよ。可愛いねー。ポルちゃんかー。」
「ポルカです!ポルちゃんではありません!それに、私、モンスターですよ!怖いですよー!」
多分凄んでるつもりなんだろうけど、全く怖くない。
動く度に『ポヨン、ポヨン』となる音も、ポルちゃんにぴったりで、可愛らしさを倍増させてる。
はっきりいって全く、全然、これっぽっちも怖くない。
それを察したのか、ポルちゃんが大きな溜め息をついた。
「はぁ…やっぱり怖くないですよね…これでも凄味をつけようと、日々努力してるんですよ…何がいけないんですかねー…やっぱりこの体でしょうか?丸いですもんね…」
「丸いのは関係ないと思うよ?」
「関係ないのですか?え?じゃあ何で?」
本気で悩んでるんだろうな。
別に気にすることもないと思うんだけど。
「話が反れてしまいました。申し訳ありません。改めまして、私、ノベラ様の執事を仰せつかりました、ポルカです。初心者専用クエスト『ボルルを倒せ!』で主に出現している、ボルル属ボルン目のモンスターです。」
「ふーん、ボルル属…っていうか、執事って何?私、執事なんてつけてもらえるような大層な者じゃないんだけど。」
「何を仰いますか!ノベラ様は、長年不在だったこの塔に、ようやく現れた君主様なのですよ!」
ラスボスが君主。
そっか、モンスター達にとったらこの塔の君主になるのか、私。
「待ちに待ってた君主が、何か私みたいなのでごめんね。もっと強いのがよかったよね?」
「いえいえ。先代の君主様も人間であらせられました。私はまだ生まれていなかったので、話でしか知りませんが、大層な魔力をお持ちのお方で、人間の君主を快く思わなかったモンスター達を一撃で倒して、その治癒までなされたとか。なので、ノベラ様も先代と同様、とんでもなくお強いに違いないと、皆期待しているのですよ。」
「そんな期待されても…私、まだ自分の力さえ把握してないのに…」
「それに、普通の人間にモンスターの言葉は使えません。モンスター語を話せるだけで十分強い魔力を持っている証拠です。賢者から、まだノベラ様は覚醒前だとは聞かされています。これからですよ、ノベラ様が真に強くなられるのは。楽しみですねー、ノベラ様。」
つぶらな瞳をキラキラ輝かせてるポルちゃんは、ますます可愛くて、抱き締めずにはいられなかった。